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自己免疫疾患を合併するがん患者における免疫療法を検討する臨床試験

自己免疫疾患(関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、多発性硬化症など)を有するがん患者に対し免疫療法薬を検討する臨床試験が開始された。

免疫療法薬は、免疫系が腫瘍細胞を発見し殺傷する能力を高める。近年、免疫療法薬は一部の進行がん患者などのより多数の患者に利益をもたらしている。

しかし、免疫療法が自己免疫疾患を合併するがん患者に対して安全かつ有効かどうかは不明である。その理由は、こうした患者は免疫療法薬の臨床試験から除外されているためである。

「自己免疫疾患を合併するがん患者の多数が、免疫療法薬に関する数百件もの臨床試験から除外される主な理由は、過剰な免疫反応のためです」とHussein Tawbi医学博士(テキサス州立大学MDアンダーソンがんセンター、本新規臨床試験の責任医師の1人)は述べた。

「これらの併存疾患患者の担当医の多くには、こうした患者における免疫療法の効果に関する情報が不足しているため、臨床的な問題が生じています」と続けた。

「私たちは医師として、自己免疫疾患患者に対する免疫療法薬の使用に懸念を有しています。その理由は、こうした薬剤がこれらの患者に対して安全であるという科学的根拠がないためです。このような症例の対処法に関するガイダンスは存在しません」と言い添えた。

「免疫関連副作用が自己免疫疾患を合併するがん患者でさらに重症化する、または、こうした自己免疫疾患が免疫療法によりさらに増悪する可能性があることが主な懸念です」と解説した。

また、「こうした患者は臨床試験から除外されているため、(そうでない患者と比較して)免疫療法薬に反応しやすい、あるいは、免疫系を抑制する治療を受けているために免疫療法薬に対する反応がむしろ悪いのかどうかは分かりません」と言い添えた。

NCIが主導する本新規臨床試験は、Tawbi氏らが特定の自己免疫疾患患者において免疫療法薬を使用する場合の潜在的な危険性と利益を理解できるようにすることを目的としている。

「本臨床試験は自己免疫疾患の生物学を理解する上での手掛かりにもなるでしょう。これにより新規治療薬を探索できるでしょう」とTawbi氏は述べた。

「本臨床試験はこの類における最初のものです。私たちが知ることによって、免疫療法の展望を安全な方法で既存の自己免疫疾患を合併するがん患者に示すことができるかもしれません」とも述べた。

「がん患者の10%~30%で自己免疫疾患が認められるので、本臨床試験の結果は多数のこれらの患者に影響を与えるでしょう」とElad Sharon医師・公衆衛生学修士(NCIがん治療評価プログラム、本臨床試験責任医師の1人)は述べた。

免疫系の「ブレーキを解除する」

免疫系が破綻し、人体の正常組織を攻撃し始めると、自己免疫疾患が発症する。

免疫チェックポイント阻害薬などの免疫療法薬は免疫系の「ブレーキを解除して」、免疫細胞に腫瘍細胞を発見・攻撃させる。

一部の患者では、免疫療法は免疫系に人体の正常組織の一部を異物と認識させて、攻撃させることがあり、これが結腸、肺、または心筋の内壁の炎症などの副作用をもたらす可能性がある。

一部の医師は、抗腫瘍免疫応答の活性化が「自己免疫の怒りを爆発させ」、重度または生命を脅かすことすらある合併症を引き起こす可能性があることを懸念しているとTawbi氏は指摘した。

こうした懸念に対処するために、本新規臨床試験には、自己免疫疾患(皮膚筋炎、全身性強皮症、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、炎症性腸疾患、クローン病、多発性硬化症、シェーグレン症候群など)を有する進行がん患者260人が参加する。

参加者には、ニボルマブ(オプジーボ)が投与される。ニボルマブは米国食品医薬品局(FDA)承認済の免疫チェックポイント阻害薬で、ホジキンリンパ腫、肝がん、肺がん、腎がん、および膀胱がんなどの多種類のがん治療薬である。

本臨床試験でニボルマブの安全性を判定するために、Tawbi氏らは参加者を、フレアという名前で知られる、突発的な重度の自己免疫症状の発症に関して監視する。また、参加者の治療に対する有効性については、ニボルマブによる無増悪生存期間、および全生存期間を追跡して評価する。

免疫療法の適応拡大

近年、がん患者に対して免疫療法が急速に適応拡大されている。例えば、免疫チェックポイント阻害薬は多くの適応がん種で、他の治療法との併用で、また、様々な病期の患者で検討されている。

「こうした努力から、自己免疫疾患を合併するがん患者に対して、急速に拡大するこれら治療法を用いることができるかどうかを決定するために、科学的証拠をえること必要性があることは明らかです」とSharon氏は述べた。

「本臨床試験を実施する主な理由の1つは、免疫療法により一部の転移がん患者が治癒していることです」と述べ、

「自己免疫疾患を合併するがん患者の治療を目的とする免疫療法の使用法を学べると、彼らに根治させうる可能性を持った治療を提供できることでしょう」と言い添えた。

患者から得た事例証拠

自己免疫疾患を合併するがん患者における免疫療法を検討している臨床試験がこれまで存在しなかったとはいえ、がん専門医の中にはこうした患者の治療に免疫療法を使用したことがある。

例えば、医学雑誌における一連の症例報告から、自己免疫疾患を有するがん患者はそうでないがん患者と同様に免疫療法薬に反応する可能性があることが示唆されている。

「免疫系が活性化すると、予想通り、自己免疫疾患を有するがん患者は免疫関連有害事象を多く発症することがあります」とAlexandra Drakaki医学博士(カリフォルニア大学ロサンゼルス校デイヴィッド・ゲフィン医科大学院)は述べ、「しかし、こうした有害事象を発症する患者は現在でも免疫チェックポイント阻害薬に反応するでしょう」と続けた。

「NCIが主導する本新規臨床試験から、これら自己免疫疾患合併がん患者に関してより学ぶことができます」と言い添えた。

「私は免疫療法薬を使用して、臨床試験としてではないものの自己免疫疾患を有する進行がん患者の一部を治療したことがあります。また、免疫関連有害事象の多くは管理可能です」と述べた。

自己免疫疾患を合併するがん患者の治療に関する最近の論文で、Drakaki氏らはがん死亡リスクの可能性が自己免疫症状(大部分は回復可能)の増悪という被害の可能性より重大であると記した。

他の有効ながん治療選択肢が有効ではない場合、自己免疫疾患を合併する進行がん患者を免疫チェックポイント阻害薬の臨床試験に参加させることが適切な可能性があると指摘した。

Drakaki氏が担当する自己免疫疾患を有する進行がん患者の一部は入院している病院内で、自己免疫症状の増悪リスクをあえて受け入れることで、有望ながん治療を受けることを望んでいる。こうした患者は比較的健康で、自己免疫疾患は「適切に管理されている」と指摘した。

「彼らはただ生きたがっているだけです。自己免疫症状が一時的に増悪しようとも、気にしません」とDrakaki氏は述べた。

しかし、こうした患者のがんだけでなく自己免疫疾患も管理可能な集学的医療チームを作る必要性を強調した。

「自己免疫疾患を有するがん患者に免疫療法薬を使用するがん専門医として、私たちは免疫関連有害事象の治療・管理を専門とする仲間と緊密に協力する必要があります。私たちがん専門医だけでは、このようなことはできないし、してはいけないでしょう」と述べた。

専門医チーム

自己免疫疾患とがんの専門医をまとめ上げるという発想が、本臨床試験の進展の要となった。

「私たちは米国の一流の自己免疫疾患専門医の一部と共に、自己免疫疾患を合併するがん患者における自己免疫疾患の重症度分類に関するガイダンスを提供しています」とTawbi氏は述べた。

本臨床試験参加患者の自己免疫疾患の各疾患に対して、専門医チームは本臨床試験を通して、自己免疫疾患の重症度を綿密に監視する戦略と具体的な方法を開発している。

Tawbi氏らは、自己免疫疾患の重症度分類と治療効果に関する標準的な基準を作成することで、免疫療法の対象となる自己免疫疾患を合併するがん患者の選択に今後適用可能な科学的証拠の基盤を作り出したいと考えている。

また、臨床データを収集するだけでなく、更なる研究のために、自己免疫疾患とがんの両者に罹患している器官由来組織などの血液・組織検体を採取することにしている。

最終的に、Tawbi氏らは自己免疫疾患患者における免疫関連有害事象を引き起こす機序をより詳しく理解したいと考えている。この機序は自己免疫疾患の生物学的機序だけでなく免疫療法の副作用を理解する上での手掛かりとなる可能性がある。

「私たちは抗腫瘍免疫応答と自己免疫反応の相互作用を研究します。この研究は私たちに、フレアの動態など、免疫関連有害事象に関する一連の問題を調査する機会をもたらすでしょう」と Tawbi氏は述べた。

「本臨床試験の進展において心躍る点は、全米の主要大学病院出身の自己免疫疾患専門医らと共に研究できることです」とSharon氏は指摘し、「この共同研究が数多くの情報をもたらすことを期待します」と言い添えた。

「免疫療法を受けている自己免疫疾患を合併するがん患者で、免疫系が変化する機序をより詳しく理解したいと私たちは考えています。私たちが知ることが最終的に、自己免疫疾患患者だけでなくがん患者に対する新規治療法をもたらすことでしょう」と述べた。

翻訳渡邊 岳

監修田中謙太郎(呼吸器内科、腫瘍内科、免疫/九州大学病院 呼吸器科)

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