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乳がん予防薬の推奨グレード(USPSTF)[2019年9月更新・現在最新版]

乳がんリスクを下げる薬剤の推奨グレード(USPSTF)[2019年9月更新・現在最新版]
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対象者 : 乳がんリスクの高い女性
推奨グレード(詳細は、推奨グレードの定義参照): B(推奨)
推奨内容:USPSTFは、臨床医が、乳がんリスクが高く、かつ副作用の発現リスクが低い女性に対し、タモキシフェン、ラロキシフェン、アロマターゼ阻害薬といった乳がんリスクを低下させる薬の処方を提供することを推奨する。

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対象者 : 乳がんリスクの高くない女性
推奨グレード(詳細は、推奨グレードの定義参照): D(反対)
推奨内容:USPSTFは、乳がんリスクが高くない女性が、タモキシフェン、ラロキシフェン、アロマターゼ阻害薬といった乳がんリスクを低下させる薬を日常的に服用しないことを推奨する。
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*以下はJAMA誌掲載文の一部です。全文は原文サイトをご覧ください。
考察
疾病負荷
乳がんは、皮膚以外のがんで最も多く、女性のがんによる死亡原因の第2位である。2018年には、米国で、推定26万6120人の女性が新たに乳がんと診断され、これは、女性の全がん症例の30%に相当する。推定4万920人の米国の女性が乳がんで死亡し、これは女性のすべてのがんによる死亡の14%を占めている。2008年から2014年までのデータに基づくと、乳がんの5年生存率は推定89.7%であり、その範囲は、がんが局所にとどまったステージで診断された場合の98.7%から、遠隔転移のステージで診断された場合の27%である。罹患率は白人女性とアフリカ系アメリカ人女性で類似しているが(それぞれ10万人あたり128.6人対126.9人)、死亡率はアフリカ系アメリカ人女性の方が高い(10万人あたりの死亡者数は、アフリカ系アメリカ人28.7人対白人20.3人)。罹患率は、アジア/太平洋諸島系、非ヒスパニック系アフリカ系アメリカ人、およびヒスパニック系女性では増加しているが、非ヒスパニック系白人およびアメリカインディアン/アラスカ先住民女性では横這いである。

レビューの範囲
米国予防医学専門委員会(USPSTF)は、乳がんリスクを低減する薬物治療が有用となる女性を同定するため、リスク評価方法の精度に関するエビデンスを検討した。また、有効性、副作用、これらの薬物治療(厳密には、選択的エストロゲン受容体モジュレーターであるタモキシフェンならびにラロキシフェン、アロマターゼ阻害薬であるエキセメスタンならびにアナストロゾール)による乳がんサブグループ間の差についてもエビデンスを検討した。USPSTFは、乳がんまたは非浸潤性乳管がん(DCIS)の既往歴がない女性について、ランダム化試験、観察研究、およびリスク層別化モデルの診断精度研究から得られたエビデンスをレビューした。BRCA1/2遺伝的の病的変異を有する女性を含んだ研究もレビュー基準に含まれたが、この群における有用性と有害性を把握する研究は限られたものであった。

リスク評価モデルの有効性
米国予防医学専門委員会(USPSTF)は、良質で公正な25の研究から、リスク層別化の18モデルについてエビデンスをレビューした(n>5,000,000)。レビューを行ったモデルは、Gail、乳がんサーベイランス・コンソーシアム、Rosner-Colditz、Tyrer-Cuzick、Chlebowski、およびイタリアの各モデルである。これらのモデルにおいて特定の部分集団に焦点を当てた際の違いや、乳房密度や良性乳房疾患に関する新たなデータを含んだ場合のモデル間の差についてもレビューした。

最初に臨床的に利用されたGailモデルのオリジナル版には、年齢、初経年齢、最初の出産年齢、第一度近親者の乳がんの家族歴、過去の乳房生検の回数、および異型過形成の既往歴が含まれる。Gailモデル現行版は乳がんリスク評価ツールで使われており、NCIのウェブサイトにて利用可能である。Gailモデルを拡張した新しいモデルには、人種/民族性、過去のマンモグラフィでの偽陽性結果あるいは良性の乳房疾患歴、肥満度指数および身長、エストロゲンあるいはプロゲスチンの使用、母乳育児歴、閉経の状態あるいは年齢、喫煙、飲酒、身体的活動、教育、乳房密度、および食事などのデータが含まれる。

いくつかのモデルが米国の大規模な集団で質の高い研究において検証され、低~中程度の精度にすぎなかった。乳がんサーベイランス・コンソーシアムモデルは、約240万人のコホートで発症した1万1638を超える乳がん症例から作成された。Rosner-Colditzモデルは、Nurses’Health Studyの5万8520人の参加者で発症した1761の乳がん症例から作成された。Chlebowskiと同氏のチームは、女性の健康イニシアチブ研究でみられた3236の症例に基づいてモデルを発展させた。イタリアおよび英国でのモデルも多数の集団に基づいたものであるが、米国では検証されていない。これらのモデルは、母集団のリスクを予測する適切な較正を示しているが、(つまり、母集団で発生すると予測される乳がん症例数は、観察された症例数と密接に一致)、今後5年間で乳がんを発症する女性と、発症しない女性とをそれぞれ正確に分類し、区別する正確性はそれほど高くなく、C統計量は、0.55~0.65の範囲であった。モデルに乳房密度、閉経後ホルモンの使用、およびより広範な家族歴が含まれると、予測推定値はわずかに改善する。

ほとんどのモデルは、年齢だけのものと比較すると、リスク予測として性能がわずかに優れていると報告されている。リスク評価の最適な年齢や頻度を評価した研究はない。

リスク低減薬の効果
米国予防医学専門委員会(USPSTF)は、乳がんリスク低減薬による治療効果を評価した、10件の試験のエビデンスをレビューした。4件の試験(n=28,193)で、乳がん高リスクの閉経前および閉経後の女性に対するタモキシフェンを評価した(乳がんリスクが高くない閉経後女性に対する、低用量のタモキシフェン投与を調査した1件の追加試験では、低用量のタモキシフェンでは乳がんリスク低減は見られず、USPSTFによってそれ以上の考察はなされなかった)。2件の試験 (n = 17,806)で乳がん高リスクの閉経後女性に対するラロキシフェンを評価、1件の試験(n=19,747)で乳がん高リスクの閉経後女性におけるラロキシフェンとタモキシフェンとを直接比較(STAR試験)、2件の試験では、乳がん高リスクの閉経後女性におけるアロマターゼ阻害薬(エキセメスタン[n=4560]およびアナストロゾール[n=3864])を評価した。乳がん高リスクの女性を対象とした各研究は、年齢、家族歴、過去の異常ではあるが良性の乳腺病変、またはリスクツールによって推定された予測乳がんリスク(Gailモデルによって計算された、5年間に乳がんに罹患するリスクは通常>1.66%)など、異なる組み合わせのリスク基準を用いて、参加者を募集した。ラロキシフェン試験は、乳がんのリスクが高くない閉経後女性を対象としたことから(主要目的は乳がんリスク低減ではなく乳がん発生数だった)、他の試験の女性よりも年齢が高かった(中央値67〜67.5才)。それとは対照的に、タモキシフェン試験は閉経前の女性を含んでいたため(年齢中央値範囲47~53才)、わずかに年齢が低かった。試験の多くが他施設共同試験で、主に米国、英国、およびヨーロッパの国々の多数の施設で行われた。試験参加者の多くは白人であった(この情報を報告した研究では84%〜97%が白人)。

試験では、3種類の薬物全てが浸潤性およびER陽性の乳がんを減少させたが、ER陰性の乳がんは減少しなかった。プラセボ対照試験をプールした結果を用いて、5年間の有用性を予測すると、タモキシフェンの使用により、浸潤性乳がんが7例減少し(リスク比[RR]、0.69[95%CI、0.59-0.84])、ER陽性乳がんは8例減少すると考えられる(RR、0.58[95%CI、0.42-0.81])(特に明記しない限り、すべての症例数は5年間の薬物投与を行った女性1000人あたり)。ラロキシフェンを使用すると、浸潤性乳がんが9例減少し(RR、0.44[95%CI、0.24-0.80])、ER陽性乳がんが8例減少すると考えられる(RR、0.33 [95%CI、0.15-0.73])。さらに、乳がんリスクの低減に加えて、タモキシフェンとラロキシフェンは骨折のリスクも低減することがわかった。タモキシフェンを使用すると非脊椎骨折が3例少なく(RR、0.66[95%CI、0.45-0.98])ラロキシフェンを使用すると脊椎骨折が7例少なくなると予想される(RR、0.61[95%CI、0.53-0.70])。アロマターゼ阻害薬は、浸潤性乳がん16例(RR、0.45[95%CI、0.26-0.70])、ER陽性乳がん15例(RR、0.37[95%CI、0.19-0.63])の低減をもたらすと推測される。2件の研究では、浸潤性およびER陽性の乳がんで、タモキシフェン中止後最大8年間リスク低減が持続した(ラロキシフェンおよびアロマターゼ阻害薬について、同様の長期追跡調査に関するデータは現在得られない)。薬剤の有効性(試験中)は、年齢や更年期の状態によって差はなかった。タモキシフェンの試験のうち1件、アナストロゾールの試験のうち1件の試験では、生検で非定型過形成や上皮内小葉乳房異常などの乳房異常がみられたことがある女性でリスク低減が大きいことが判明した。リスク分類5年予測(Gailモデルで決定)による部分集団の結果を報告したほとんどの試験では、全てのリスク分類においてリスクが低下し、タモキシフェンの1件の研究でもリスクの低減が示され、最もリスクの高いグループで最大であった。

プラセボ対照試験はそれぞれ参加者の特性が異なるため、3種類の薬物(タモキシフェン、ラロキシフェン、アロマターゼ阻害薬)の有効性を比較することはできないが、大規模なSTAR試験では、乳がんリスク低減に関してタモキシフェンとラロキシフェンを直接比較、タモキシフェンが長期フォローアップで浸潤性乳がんリスクを大幅に低減することがわかった(5例少ない[95%CI、1-9])。

リスク評価とリスク低減薬の潜在的な有害性
乳がんのリスク低減薬の有用性について報告した上記10件の同試験でも有害性が報告された。プラセボ群と比較してタモキシフェンで多くみられたのは、静脈血栓塞栓症が5例(RR、1.93[95%CI、1.33-2.68])、子宮内膜がんが4例(RR、2.25[95%CI、1.17-4.41])、白内障が26例(RR、1.22[95%CI、1.08-1.48])であった。タモキシフェンにより血管運動症状も増加した。タモキシフェンにより、深部静脈血栓症、肺塞栓症、冠動脈心疾患(CHD)イベント、または脳卒中の発症率に有意差は認められなかった。

ラロキシフェンは、プラセボと比較すると、静脈血栓塞栓症の症例が7例多かった(RR、1.56[95%CI、1.11-2.60])。またラロキシフェンでは、血管運動症状も増加した。ラロキシフェンにおいて、CHDイベント、脳卒中、子宮内膜がん、あるいは白内障の発症率に有意な差は認められなかった。STAR試験に基づくと、タモキシフェンは、ラロキシフェンよりも多くの有害性が報告された。タモキシフェンでは、静脈血栓塞栓症が4例(95%CI、1-7)、深部静脈血栓症が3例(95%CI、1-5)、子宮内膜がんが5例(95%CI、2-9)、および白内障が15例(95%CI、8-22)、それぞれラロキシフェンより多くみられた。アロマターゼ阻害薬の試験ではどちらも、アロマターゼ阻害剤の方が、血管運動症状および筋骨格症状がプラセボより多く報告された。アロマターゼ阻害剤については、VTE、深部静脈血栓症、肺塞栓症、CHDイベント、脳卒中、子宮内膜がん、および白内障の発症率に有意差は報告されなかったが、一次予防研究ではこれらの転帰における差を検出する能力は不十分である。

他の研究では、アロマターゼ阻害薬による原発性乳がんのリスク低減以外に、その効能効果について検証した。早期ER陽性乳がんの女性に対する術後薬物療法におけるアロマターゼ阻害薬の投与期間延長を評価した試験の最近のメタアナリシスでは、アロマターゼ阻害薬は、プラセボまたは無治療と比較して、心血管疾患イベントの潜在的な増加を示唆した(オッズ比[OR]、1.18[95%CI、1.00- 1.40]、7件の研究;n=16,349)。非浸潤性乳管がんの女性に対する治療として、アナストロゾールを、タモキシフェンとを比較した別の研究では、アナストロゾールによって、脳血管イベントの大幅な増加(OR、3.36[95%CI、1.04-14.18])がみられ、一過性脳虚血発作の有意でない増加(OR、2.69 [95%CI、0.90-9.65])がみられた。早期乳がんの治療についてアロマターゼ阻害薬をタモキシフェンと比較した研究を評価した別のメタアナリシスでは、静脈血栓塞栓症、脳血管イベント、または冠動脈心疾患のイベントに差はみられなかった。別の各研究からの文献ではまた、アロマターゼ阻害薬は骨折リスクを増加させることを示した。タモキシフェン(骨折リスクを低減する)と比較すると、アロマターゼ阻害薬の方がより多く骨折がみられた。アロマターゼ阻害薬投与の期間延長についてプラセボまたは無治療と比較して評価したメタ分析では、アロマターゼ阻害薬に関連した骨折が多くみられたが(OR、1.34[95%CI、1.16-1.55])、延長期間において、プラセボや無治療の参加者の中には、初期治療でタモキシフェンやラロキシフェンを投与されていた可能性がある。これらの研究は、乳がんや非浸潤性乳管がん女性の治療に焦点を当てており、プラセボよりもタモキシフェンとの比較の中で行われることから、これらの結果が一次予防の集団まで一般化できるかは不明である。

ネット・ベネフィット(純便益)の大きさの推定
リスク低減薬がネット・ベネフィット(純便益)をもたらすかどうかは、潜在的な薬の有害性のバランスを考慮した、女性の乳がんリスクによる。したがって、乳がんのリスクが低い女性に対するUSPSTFの推奨は、リスクが高い女性に対する推奨とは異なる。

USPSTFは、乳がんのリスクが高い女性の場合、乳がんのリスク低減薬を服用によって、ある程度のネット・ベネフィットが得られると、中程度の確実性で結論づけている。タモキシフェンは、ラロキシフェンと比較して乳がんのリスクは大きく低下するが、子宮内膜がん(子宮を持つ女性)、白内障、および静脈血栓塞栓症のリスクも高くなる。これらのリスクは、年齢と共に増加する。タモキシフェンとラロキシフェンは、どちらも骨折のリスクは減少させるが、血管運動症状のリスクを増加させる。アロマターゼ阻害薬は、高リスク女性の乳がんのリスクも低下させる。アロマターゼ阻害薬と、タモキシフェンまたはラロキシフェンとを比較する、原発性乳がんのリスク低減に関する研究は現在行われていない。早期乳がんまたは非浸潤性乳管がんの女性の治療に使用されるアロマターゼ阻害薬のいくつかの試験では、アロマターゼ阻害薬により、脳卒中などの心血管疾患のわずかな増加があることが示唆されている。骨折リスクを減らすタモキシフェンと比較すると、アロマターゼ阻害薬は骨折リスクを高める。アロマターゼ阻害薬が、プラセボや無治療と比較して骨折のリスクを増加させるかどうかは明らかになっていない。

米国予防医学専門委員会(USPSTF)は、乳がんリスクが高くない女性にとって、タモキシフェン、ラロキシフェン、およびアロマターゼ阻害薬が乳がんリスクの低減に有用となるのはわずかであるが、中程度に有害であることをみとめた。USPSTFは全体として、タモキシフェン、ラロキシフェン、およびアロマターゼ阻害薬の潜在的な有害性は、乳がんリスクが低い女性の潜在的な利益を上回ると、中程度の確実性で結論づけている。

 

* 米国予防医学専門委員会(USPSTF)は、米国医療研究・品質調査機構(AHRQ)の独立委員会で、検診や予防医療の研究レビューを行って米国政府の推奨グレードを作成します。米国予防医学専門委員会(USPSTF)は、米国政府とは独立した立場で推奨内容をまとめています。本推奨内容は米国医療研究・品質調査機構(AHRQ)や米国保健福祉省の公式見解と解釈されるべきではありません。

翻訳平沢沙枝

監修下村昭彦(乳腺・腫瘍内科/国立がん研究センター中央病院)

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