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がん免疫療法を改善、「疲弊した」T細胞の問題を克服する

  • 2019年8月27日
  • 発信元:米国国立がん研究所(NCI)ブログ~がん研究の動向~

がん免疫療法は、感染細胞や疾患細胞を排除する免疫系の主要因子であるT細胞に腫瘍細胞を攻撃、排除させることに頼っている。しかし、免疫療法には重大な障害物がある。それはT細胞の攻撃力が弱まること、しばしば疲弊化と呼ばれる現象である。

これまでに世界中の研究グループが、T細胞を強力ながん細胞破壊者から消耗して攻撃力が低下した傍観者に変貌させる中心的役割を果たすと思われる複数のタンパク質を特定している。

Nature誌に6月17日付けで発表された3本とPNAS(米国科学アカデミー紀要)に5月31日付けで最初に発表された1本を含む一連の最新研究は、一つのタンパク質、すなわち、TOXと呼ばれる転写因子にほぼ焦点を絞った。しかし、研究者らは、TOXが「一匹狼」ではないことを強調した。T細胞の疲弊化「プログラム」を編成するために、TOXは他のいくつかの転写因子とともに作用するのである。転写因子の主な働きは遺伝子のオン・オフ切り替えを助けることである。

研究の多くは実験室内とマウスモデルで行われたものであるため、今後さらに研究を進め、がん患者においてTOXと他の同様のタンパク質がT細胞疲弊化にどの程度影響するかをより深く理解する必要があると、John Wherry博士は言う。ペンシルベニア大学免疫学研究所所長である同氏はNature 誌に掲載された研究の一つを主導した。

今後の研究でT細胞疲弊化の制御におけるTOXおよび他の転写因子の役割が確認できれば、がん免疫療法の有効性を高める戦略を展開できるであろうとも言う。

免疫療法において、「私たちの仕事は免疫応答の方向を変えることです」と彼は言う。T細胞疲弊化を制御するイベントを理解すれば、「その仕事をよりうまくこなせるようになります」。

求められる研究分野

T細胞の種類は一つだけではない。T細胞には多様な個体群があり、それぞれ異なる機能を有する。問題のある細胞を殺すことを主な役割とする細胞傷害性T細胞というサブセット内でさえ、多種多様である。

たとえば、エフェクターT細胞は、ウイルスに感染した細胞や腫瘍細胞など特定の脅威を即座に探し出して破壊する。一部のエフェクターT細胞はやがて、メモリーT細胞に発達または分化する。メモリーT細胞は、同じ脅威が再び発生したら即座に機能するように永久に体内に留まる。

しかし、持続性ウイルス感染や増殖し続けるがんなどがあり、免疫系が長期間にわたり活性を強いられると、エフェクターT細胞は消耗して機能停止することがある。

疲弊化T細胞の特徴の一つは、PD-1やCTLA-4などのチェックポイントタンパク質がT細胞表面に増加することで、それらはT細胞の機能を停止させることがある。免疫チェックポイント阻害剤は、これらのチェックポイントタンパク質をブロックすることにより、腫瘍に対する免疫応答を活性化させる。

しかし、これまでの研究で、疲弊化T細胞ではチェックポイントタンパク質の活性をブロックしても、その目的は達成されないことが示唆されている。そして、それは重要な点である。なぜなら、免疫細胞をもち、免疫療法に反応する理想的な候補者であるはずの腫瘍、いわゆる「熱い腫瘍(hot tumors)」は、「多くの場合、疲弊化T細胞ばかりの状態であるからです」とWherry博士は説明した。

したがって、研究によってチェックポイント阻害剤などの免疫療法をより多くの患者で一層効果をあげることに成功しつつあるとすれば、疲弊化T細胞は「私たちがとりわけ理解を深めなければならないT細胞個体群です」と彼は述べた。

新たな容疑者

T細胞疲弊化の発生について知識を深めるために、前述の4研究はそれぞれ、ウイルス感染と腫瘍発生を再現する実験により、細胞傷害性T細胞にみられる遺伝子およびタンパク質の違いを分析した。

すべての研究グループが、発現の最大の違いの一つがTOXの遺伝子にみられることを発見した。この遺伝子は、疲弊化T細胞では非常に高いレベルで発現するが、エフェクターT細胞およびメモリーT細胞では非常に低いレベルであることで一貫していた。

Nature誌掲載の研究の一つにおいて、スローンケタリング記念がんセンターのAndrea Schietinger医師が率いる研究チームは、新たにウイルス感染した実験モデルにおいてTOXレベルが依然として低いことを示した。しかし、その感染が慢性化すると、TOXレベルは急上昇し、高い状態が続いた。

Nature誌に掲載された別の研究では、ドイツのミュンヘン工科大学と米国テネシー州のSt. Jude Children’s Research Hospitalの研究者らが率いるチームが、疲弊化T細胞の形成にTOXが不可欠であると考えられることを示した。

しかし、単独で作用できるタンパク質はほとんどない。また、PNASの研究では、カリフォルニア州のラホーヤ免疫研究所のAnjana Rao医師が率いる研究チームが、TOXと関連タンパク質TOX2、さらに他のいくつかの転写因子(NR4Aと呼ばれる群とNFATと呼ばれるものを含む)との間に強い相互依存関係があることを示した。

Rao医師のグループは先行研究で、NR4A転写因子が疲弊化T細胞に高レベルでみられることを見出した。実際、彼女の研究グループがこれまで関与した疲弊化T細胞の研究すべてにおいて、TOX、TOX2、およびNR4A転写因子はどれも「何度も何度も」非常にはっきりとみとめられたと同医師は強調する。

疲弊の原因は?

それでは、TOXと他の転写因子はどのように疲弊を引き起こすのだろう。

これまでの研究のいくつかから得られたエビデンスが示したのは、エピジェネティックなメカニズムである。つまり、細胞核内の遺伝物質の分子的収納構造であるクロマチンの構造変化である。 この変化により、クロマチンが転写機構の転写因子や他の成分へ接近する可能性が変化した。クロマチンの特定の領域が開いているか閉じているかによって、どのタンパク質が最終的に細胞内で産生されるか、すなわち細胞の挙動に影響が出る。

たとえば、前述のペンシルベニア大学主導の研究では、TOXはクロマチンの開閉に関与する複数の特定酵素と相互作用することがわかっている。

NCIのがん生物学部門Susan McCarthy博士は、TOXがこのようにクロマチンに影響を及ぼすという事実は、これらの発見を潜在的治療アプローチに展開するという観点から重要であると言う。

これらの転写因子の挙動に影響を与える治療法は、「イメージとしては[T細胞を]別の状態に反転させることです」とMcCarthy氏は言う。

免疫療法の進展?

実際、複数の研究でT細胞のTOXを除去したらどうなるかを検討している。

Schietinger医師らが、TOX遺伝子を人工的に欠損させたT細胞を腫瘍マウスに入れたところ、T細胞は強力になってがん細胞を殺傷するどころか、次々に死んでしまった。

彼らによる研究結果は、T細胞の疲弊化は免疫系の欠陥ではなく、生物学的な自己防衛メカニズムであるという考えを裏づけるものである。 Schietinger医師は、疲弊化が起きるのは「[T]細胞が過剰に刺激されて死ぬのを防ぐ」という「理由」のためであると、ニュースリリースで述べている。

McCarthy医師も同意見であり、T細胞の疲弊化は「単なる段階や不運な結果ではない」という考えを研究結果は裏づけていると言う。むしろ、疲弊化T細胞はT細胞の「別の系統」であり、果たすべき役割を依然として担っている。

一方、Rao医師のグループは別のアプローチを採用し、TOXおよびTOX2の両方を欠損させたCAR-T細胞を作製した。彼らが使用したCAR-T細胞は、それ以外の点では、白血病とリンパ腫の治療用に食品医薬品局(FDA)の承認をすでに受けている2つの治療法に類似していた。

この遺伝子操作CAR-T細胞をメラノーマ(悪性黒色腫)腫瘍が定着したマウスの治療に使用したところ、その治療は、標準のCAR-T細胞あるいは、TOXとTOX2の一方のみを欠く細胞よりもはるかに効果的であった。

しかし、TOXとTOX2を取り除くことが同じ目的を達成するための唯一の手段ではないかもしれない、とRao医師は言う。同医師グループによる先行研究では、NR4A欠損のCAR-T細胞は、同じメラノーマのマウスモデルで、改変していないCAR-T細胞よりもはるかに効果的であった。

「この結果は、異なる転写因子[の除去]がほとんどまったく同じ働きをすることを強力に示しています」と同医師は話す。

実用的な観点から、体内ですでに疲弊化したT細胞の転写機構を操作できる薬剤の開発は特に難しいかもしれないとMcCarthy医師は言う。したがって、研究室でエフェクターT細胞の遺伝子を操作できるCAR-T細胞療法のようなアプローチが、これらの知見を新規治療法に展開するうえで最良の選択肢かもしれない、と彼女は述べた。

翻訳山田登志子

監修下村昭彦(乳腺・腫瘍内科/国立がん研究センター中央病院)

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