ハイリスク乳房病変の管理

MDアンダーソン OncoLog 2018年7月号(Volume 63 / Issue 7)

 Oncologとは、米国MDアンダーソンがんセンターが発行する最新の癌研究とケアについてのオンラインおよび紙媒体の月刊情報誌です。最新号URL


医師の強い勧めがあれば、非浸潤性小葉がんや異型過形成の女性はもっと予防治療を行うようになる

予防治療は非浸潤性小葉がん(lobular carcinoma in situ :LCIS)や異型過形成患者の乳がんリスクを低下させる可能性があるにもかかわらず、ほとんどの患者はこの予防治療を行わないことを選択する。そこでテキサス大学MDアンダーソンがんセンターの臨床医らは、予防治療の重要性に関するLCISや異型過形成の患者向け教育プログラムを作成した。そして乳がんのリスク低下のために必要なこのステップを選択するよう啓発した。

治療介入がない場合、LCISや異型過形成の女性は、そうでない女性と比較して生涯で乳がんを発症する可能性が少なくとも4倍である。タモキシフェンまたはラロキシフェンを用いたホルモン療法によりこのリスクを75%低減できる可能性がある。

これらの治療薬はかかりつけの内科医も処方でき、自身のクリニックで患者の経過を観察することができます」とMDアンダーソンがんセンターの臨床がん予防部門教授であり、Nellie B. Connally Breast Centerのmedical directorであるAbenaa Brewster医師 は述べた。「あるいは、これら薬剤の処方を不安に思う内科医は、自分の患者を専門病院であるハイリスククリニックに紹介してもよいでしょう」。

MDアンダーソンがん予防センター(MD Anderson’s Cancer Prevention Center)はこの「ハイリスククリニック」のひとつである。Brewster医師と臨床がん予防部門教授でがん予防センターのmedical directorであるTherese Bevers医師らの調査によると、LCISや異型過形成の患者が予防治療を選択するケースは半分にも満たないことがわかった。調査を行った医師らは、予防治療の使用を増やすために、予防治療の良い点を患者に理解してもらい、かつ内科医が予防治療を強く勧めていること確認するプログラムを組んだ。

予防治療

乳がん発症リスクの高い女性に対する予防治療としてタモキシフェンあるいはラロキシフェンを用いる場合、通常これら薬剤を5年間服用する。タモキシフェンは閉経前または閉経後女性いずれも適応承認されている。ラロキシフェンの承認は閉経後女性に対してのみである(訳注:国内未承認) 。

ほとんどの女性はタモキシフェンまたはラロキシフェンによる有害事象を経験しない。しかしいずれの薬剤も、ほてりなどの更年期症状が現れることがある。また、まれに重篤な副作用として血栓、特に深部静脈血栓症や肺塞栓症が報告されている。また、タモキシフェンにより子宮内膜がんの 発症リスクが増加する。ラロキシフェンは報告されていない。

「患者と医師が、これら薬剤を服用することについてその良い点と悪い点を考え、バランス良く判断する必要があります」とBevers医師は述べた。「タモキシフェンによる子宮内膜がんのリスク増加を心配する患者や医師もいますが、これは宝くじ(ナンバーズゲーム)のようなもの。子宮内膜がんを生じる人もわずかに存在しますが、一方でもっと多くの乳がんを予防しています。LCISや異型過形成の女性のうち、過去に血栓の既往がある女性など、絶対禁忌の対象を除けば、リスク低減効果は非常に大きく、薬剤により発生しうる有害性をはるかに上回ります」。

強い推奨度に設定

予防的ホルモン療法は利益がリスクを大きく上回っており、全米総合がん情報ネットワーク(National Comprehensive Cancer Network)の複数のガイドラインでLCISあるいは異型過形成女性に対しこの治療を強く推奨するよう医師に求めている。しかし、これらガイドラインがあるにもかかわらず、ハイリスククリニックのLCISあるいは異型過形成女性のうちわずか20%~30%しか予防治療を行っていない。

「医師はリスクとベネフィットを説明してから、患者本人に判断を任せてきました」とBrewster医師は語った。「もちろんどんな治療に対しても最終的に決めるのは患者ですが、もし主治医が『私はこの治療を行うことを強く勧めます』と言えば結果は違ってきます」。

Brewster医師やBevers医師らは、MDアンダーソンのLCISあるいは異型過形成患者に対する予防治療の強い推奨度を確立させるプログラムを作成した。メッセージがはっきりと伝わり理解されたか確かめるため、医療者と患者を対象に毎回診察後に推奨度の強さについて調査した。さらに、タモキシフェンあるいはラロキシフェンを処方された患者割合を追跡する監査システムを導入し、各医療者は3カ月に1回、自己の処方パターンのフィードバックを受けた。

このプログラムは期待通りの効果を見せた。2015年にこのプログラムを開始した時、MDアンダーソンのLCISあるいは異型過形成患者に関する調査では予防治療を受けている、または受けたことがある患者はわずか44%であった。しかし2015年から2017年の間、LCISまたは異型過形成患者の82%が予防治療のための薬剤を処方された。しかも、処方を受けた患者のうち、初めて診断された患者の76%、以前から診断されていた患者の48%が6カ月間適正に服用した。「初めて診断された患者と過去に診断された患者のこの差は興味深いことを私たちに教えてくれました。つまり、患者が予防治療を受け入れるには最初が肝心であるということです」Brewster医師は述べた。

このプログラムは、LCISや異型過形成の患者がいるMDアンダーソンのヒューストン地区にある施設全体に拡大している。「LCISと異型過形成はリスクの高い病変です」Bevers医師は話した。「私たちは、予防治療が良いことは明らかなことを女性たちに理解してもらえるよう働きかけるべきです。と同時に、この治療を強く推奨すると伝えていかなければならなりません」。

グラフキャプション】

この棒グラフは、タモキシフェンを用いた治療による乳がんリスクの低下率と、他の事象に対する介入によるリスク低下率とを比較している。Therese Bevers医師の厚意により提供。

For more information, contact Dr. Therese Bevers at 713-745-8048 or tbevers@mdanderson.org or Dr. Abenaa Brewster at 713-745-4929 or abrewster@mdanderson.org.

FURTHER READING

Brewster AM, Thomas P, Brown P, et al. A system-level approach to improve the uptake of anti-estrogen preventive therapy among women with atypical hyperplasia and lobular cancer in situ. Cancer Prev Res (Phila). 2018;11:295–302.

The information from OncoLog is provided for educational purposes only. While great care has been taken to ensure the accuracy of the information provided in OncoLog, The University of Texas MD Anderson Cancer Center and its employees cannot be held responsible for errors or any consequences arising from the use of this information. All medical information should be reviewed with a health-care provider. In addition, translation of this article into Japanese has been independently performed by the Japan Association of Medical Translation for Cancer and MD Anderson and its employees cannot be held responsible for any errors in translation.
OncoLogに掲載される情報は、教育的目的に限って提供されています。 OncoLogが提供する情報は正確を期すよう細心の注意を払っていますが、テキサス大学MDアンダーソンがんセンターおよびその関係者は、誤りがあっても、また本情報を使用することによっていかなる結果が生じても、一切責任を負うことができません。 医療情報は、必ず医療者に確認し見直して下さい。 加えて、当記事の日本語訳は(社)日本癌医療翻訳アソシエイツが独自に作成したものであり、MDアンダーソンおよびその関係者はいかなる誤訳についても一切責任を負うことができません。

翻訳担当者 武内 優子

監修 原 文堅(乳がん/四国がんセンター)、

原文を見る

原文掲載日 

【免責事項】
当サイトの記事は情報提供を目的として掲載しています。
翻訳内容や治療を特定の人に推奨または保証するものではありません。
ボランティア翻訳ならびに自動翻訳による誤訳により発生した結果について一切責任はとれません。
ご自身の疾患に適用されるかどうかは必ず主治医にご相談ください。

乳がんに関連する記事

HER2陰性進行乳がんにエンチノスタット+免疫療法薬が有望の画像

HER2陰性進行乳がんにエンチノスタット+免疫療法薬が有望

ジョンズホプキンス大学ジョンズホプキンス大学キンメルがんセンターの研究者らによる新たな研究によると、新規の3剤併用療法がHER2陰性進行乳がん患者において顕著な奏効を示した。この治療で...
英国、BRCA陽性の進行乳がんに初の標的薬タラゾパリブの画像

英国、BRCA陽性の進行乳がんに初の標的薬タラゾパリブ

キャンサーリサーチUKタラゾパリブ(販売名:ターゼナ(Talzenna))が、英国国立医療技術評価機構(NICE)による推奨を受け、国民保健サービス(NHS)がBRCA遺伝子変異による...
乳がん術後3年以降にマンモグラフィの頻度を減らせる可能性の画像

乳がん術後3年以降にマンモグラフィの頻度を減らせる可能性

米国がん学会(AACR)  サンアントニオ乳癌シンポジウム(SABCS)50歳以上で、初期乳がんの根治手術から3年経過後マンモグラフィを受ける頻度を段階的に減らした女性が、毎年マンモグ...
早期乳がんにリボシクリブとホルモン療法の併用は転帰を改善:SABCSの画像

早期乳がんにリボシクリブとホルモン療法の併用は転帰を改善:SABCS

MDアンダーソンがんセンターアブストラクト:GA03-03

Ribociclib[リボシクリブ](販売名:Kisqali[キスカリ])とホルモン療法の併用による標的治療は、再発リスクのあ...