大腸がん検診の推奨グレード(USPSTF)[2016年6月更新 最新版]

* 米国予防医学専門委員会(USPSTF)は、米国医療研究品質調査機構(AHRQ)の独立委員会で、検診や予防医療の研究レビューを行って米国政府の推奨グレードを作成します。

米国予防医学専門委員会(USPSTF)は、米国政府とは独立した立場で推奨内容をまとめています。本推奨内容は米国医療研究・品質調査機構(AHRQ)や米国保健福祉省の公式見解と解釈されるべきではありません。

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大腸がん検診の推奨グレード(USPSTF)[2016年6月 現在最新版]

(**表がスマホ表示で崩れる可能性があります。対応策を検討中**)

50~75歳の方  :【A】
USPSTFは、50歳から75歳までの大腸がん検診受診を推奨する。
利益・不利益は検診方法によって異なる。検診方法の詳細については、臨床的検討事項の欄と表を参照のこと。76歳から85歳までの方が検診をうけるべきか否かは、対象者の全身状態や受診歴などを考慮して個別に判断すべきである。

76歳から85歳までの方  :【C】
この年齢層に入る方で受診歴がない方は利益があるとみられる。
受診に適している方は以下の通りです。

大腸がんが発見された場合に治療を受けられる程度に健康な人
余命が大幅に制限されるような合併症がない人

米国医師会誌(JAMA)推奨事項全文 
JAMAエビデンスサマリー

以下、抜粋訳 全文は原文をご覧ください。

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序文
米国予防医学専門委員会(USPSTF)は、明らかな関連徴候や症状が認められない人向けに、特定の予防医療の有効性に関する推奨事項をまとめている。

USPSTFの推奨事項は、予防医療の利益・不利益に関するエビデンスや、それらのバランス評価を基にまとめられている。予防医療に要する費用は考慮されていない。

臨床的決定を下すにはエビデンス以外にも検討すべき事項があることをUSPSTFは認識している。臨床医はエビデンスを理解したうえで個々の患者や状況に合わせて判断する必要がある。同様に、政策や補填の決定には臨床的利益・不利益以外の検討事項が絡むこともUSPSTFは認識している。

根拠
重要性
大腸がんは、米国におけるがんによる死因の第2位である。2016年には134,000人の方が大腸がんと診断され、そのうちの49,000人が大腸がんで亡くなると推測されている。大腸がんと診断されるのは65~74歳までがもっとも多く、大腸がんが原因で死亡した人の年齢の中央値は73歳である。

・検出
米国予防医学専門委員会(USPSTF)は、いくつかある大腸がんの検査方法において、それぞれ早期大腸がんおよび腺腫性ポリープを正確に検出しうるとの確かなエビデンスを得ている。

1回の検査の精度は重要な課題ではあるが、現在導入され進行中の検診プログラムにおいては、一定期間における検査の感度の方が重要である。しかし、一定期間における検診プログラムで大腸がんおよび腺腫を検知するさまざまな検査方法の評価や直接的な比較に使えるデータは、分析モデリングによるものに限られている。

・検診と早期介入による利益
USPSTFは、50〜75歳の人においては、大腸がん検診が大腸がんによる死亡率を低下させるという説得力のあるエビデンスを確認した。各検診戦略を直接比較してそれらの有効性の優劣を実証した研究は確認できていない。しかし、各検査は、さまざまなレベルのエビデンスによって有効性が支持されていると同時に、それらエビデンスには強みや保留が付されるべきことも確認している。米国において、受診資格のある成人の約3分の1が大腸がん検診を受診したことがなく、大腸がんの検診戦略に関して複数の選択肢を提示することが受診率の増加につながる可能性がある。したがって、検査方法を好ましい順番やランキング順に並べることはしていない。それより、受診者数を最大化することに目標を置いている。なぜなら、大腸がんによる死亡を減らすにはそれが一番効果的だからである。

大腸がんの早期発見および介入による利益は75歳以降減少する。大腸がん検診を受診したことがある高齢者が76~85歳まで受診を続けることにより得られる利益は、最大で中程度である。しかし、同じ年齢層でも、大腸がん未検診者は、既受診者に比べて利益を得られる可能性の方が高い。

大腸がんの検出・治療から死亡率の低下が実する現までには相当な時間が必要である。したがって、86歳以上の人が大腸がんの早期発見および介入によって得られる利益は多めに見積もっても小さい。

これまで、検査方法を問わず、また年齢層を問わず、大腸がん検診が総死亡率(原因を問わない死亡率)を低下させるというエビデンスは確認されていない。

・検診と早期介入の不利益
50〜75歳の人における大腸がん検診の不利益は小さい。不利益の大部分は、検診または他の検査で検出された陽性所見の精密検査で行われる大腸内視鏡検査に起因する。大腸がん検診による重篤な有害事象の発生率は年齢とともに増加する。したがって、76歳以上の人における大腸がん検診の不利益は、低~中程度である16

USPSTFによる評価
USPSTFは、50〜75歳の人における大腸がん検診の正味利益(すなわち、利益から不利益を差し引いたもの)が大きいことを高い確信をもって結論づけた。

USPSTFは、検診を受けたことがある76〜85歳の人における大腸がん検診の正味利益が小さいことを中程度の確信をもって結論づけた。大腸がん検診未受診者は利益を得られる可能性の方が高い。

臨床上の検討事項

 ・対象となる患者集団
この推奨は、大腸がんの生涯リスクを高めることが知られている遺伝性疾患(リンチ症候群や家族性大腸腺腫症など)の家族歴、炎症性腸疾患、腺腫性ポリープの既往、または大腸がんの既往の病歴がない,大腸がんリスクが平均的な、50歳以上の無症状の成人に適用される。

検診で大腸腺腫または大腸がんと診断されるとサーベイランスによるフォローアップが行われ、検診は推奨されなくなる。USPSTFは、腺腫性ポリープまたは大腸がんと診断され、切除された後のサーベイランスの有効性に関するエビデンスについては検討していない。

リスク評価
大部分の成人にとって、大腸がんの最も大きなリスク因子は高齢である。大腸がんの大部分は50歳以上で発症し、診断時の年齢中央値は68歳である。3
(既知の遺伝性家族性症候群を除く)家族歴は、大腸がんの約20%に関連していると考えられている。大腸がん患者の約3~10%は、第一度近親者に大腸がんの病歴がある。7  USPSTFは、高リスク集団における検診のエビデンスについて具体的に検討は行っていない。しかし、他の専門機関は、大腸がんの家族歴を有する患者(若年性大腸がん患者が第一度近親者に一人いる、もしくは大腸がんの第一度近親者が複数いる)は、検診をより頻回に、より若い年齢から、大腸内視鏡検査によって行うことを推奨している。8 

男性およびアフリカ系人種は、大腸がんの発生率および死亡率がともに高い。アフリカ系成人は、他の人種/民族と比較して大腸がんの発生率および死亡率がもっとも高い。3  この理由については完全には解明されていないが、これまでの研究から、検診、診断、フォローアップ、治療の格差によることが報告されている。また、通常は同等の治療が受けられれば同等の予後が得られることも示唆されている。9-11 したがって、高リスク集団が推奨される検診、フォローアップ、治療を確実に受けられるようにする取り組みが必要であるという認識のもとで、この推奨はすべての人種/民族に適用される。

検査方法
は、さまざまな大腸がん検査と想定される頻度、各検査の考慮点を示している。は、検査の種類別に、検診を受けた50~75歳の成人1000人あたりの推定生存年数の延長、大腸がんによる死亡回避、生涯に必要な大腸内視鏡検査、検査による合併症を示している。これらの推定はがん介入・調査モデルネットワーク(CISNET)のモデル分析から導かれたもので、本推奨はこの情報をもとにしている。2,12

便検査
複数のランダム化臨床試験(RTC)により、グアヤック法便潜血反応検査(gFOBT)による検診が大腸がんによる死亡を減少させることが示された。1 便中の変性していない(訳注:消化液による変性がない)ヒトヘモグロビンを検出する免疫学的便潜血反応検査(FIT)は、gFOBTと比較して大腸がんの検出感度に優れる。1 米国食品医薬品局(FDA)に承認され米国で利用可能なFITの中で、OC-LightやOC-AutoなどのOC-FIT CHEKシリーズ(Polymedco社)の性能が最も優れている(感度、特異度ともに最も高い)。1 マルチターゲット(複数標的)便DNA検査(FIT-DNA)は新しく登場した検査方法で、FITと便中に流出した細胞の変異DNAバイオマーカー検査とを組み合わせたものである。マルチターゲット便DNA検査は、単独で行う検査として、FIT単独に比べて大腸がんの検出感度に優れている。13 便検査による不利益は、主に陽性判定時に行われるフォローアップ大腸内視鏡検査に伴う有害事象によるものである。1 FIT-DNAの特異度はFIT単独に比べて低く、13 つまりこれは、偽陽性の割合が高く、検診1回あたりのフォローアップ大腸内視鏡検査とそれによる有害事象が増加することを意味する。FIT-DNA検査で異常を認め、その後大腸内視鏡検査で結果が陰性であった症例を適切に長期間フォローアップした経験的データは存在しない。そのため、医師や患者がFIT-DNA検査の遺伝的要素の影響を心配し、過度に集中的な監視が行われる可能性がある。

直接視覚化試験
いくつかのRTCで、軟性S状結腸鏡検査単独で大腸がんによる死亡が減少したことが示された。1 1つの試験において、軟性S状結腸鏡検査とFITの組み合わせは、軟性S状結腸鏡検査単独よりも大腸がん特異的死亡率を低下させることが示された。14  CISNETが行った複数のモデル分析研究でも、軟性S状結腸鏡検査単独よりも検査を組み合わせることでより生存期間が延長し、大腸がんによる死亡を回避できると推定されている。2 軟性S状結腸鏡検査は、大腸内視鏡検査に比べて発生率が大幅に低いとはいえ、大腸穿孔や出血などの直接的な不利益を引き起こす可能性がある。1 これらの不利益はフォローアップ大腸内視鏡検査によっても発生し得る。

完了している軟性S状結腸鏡検査に関する複数の臨床試験によると、大腸内視鏡検査(同様の内視鏡検査による検診)が大腸がんの死亡率を減少させるという間接的なエビデンスが示された。前向きコホート研究では、大腸内視鏡検査による検診を受けていると自己申告した患者と大腸がん死亡率低下との間に関連があることが示された。15 大腸内視鏡検査には間接的な不利益と直接的な不利益の両方がある。これらの不利益は、大腸の検査前処置(脱水、電解質異常など)、検査中の鎮静(心血管イベントなど)、または検査そのもの(感染、大腸穿孔、出血など)により発生する。

大腸コンピュータ断層撮影(CT)検査の有効性を評価するためのエビデンスは、検査の特徴に関する研究に限られている。1  大腸CT検査は、患者の健康を全く脅かさず、検診を行わなければ発見されることのなかった重要性の低い偶発的な大腸外病変に対する,不要な診断検査や治療につながる可能性がある(過剰診断、過剰治療)。1  大腸外病変はごく一般的にみられ、検診の約40~70%でみられる。これら病変の5~37%でフォローアップ診断が必要となり、約3%で最終的な治療が必要となる。1  他の検査方法と同様に、大腸CT検査の間接的な不利益は、結果が陽性であった際のフォローアップ大腸内視鏡検査によって起こる可能性がある。

血清学的検査
FDAは循環血中メチル化SEPT9 DNAを検出する血液検査(商品名:Epi proColon、Epigenomics社)を2016年4月に承認した。16 ある単独検査特性試験がこの推奨を支持するシステマティックエビデンスレビューの採択基準を満たしたが、SEPT9 DNA検査による大腸がんの検出感度は低い(48%)とされている。17

検査開始年齢と終了年齢
これまでのgFOBTと軟性S状結腸鏡検査のRTCでは、それぞれ45~80歳と50~74歳の患者が組み入れられた。gFOBTの試験では、多くの参加者は50歳または60歳で試験に参加し、軟性S状結腸鏡検査の試験では、参加者の平均年齢は56~60歳であった。1

CISNETによるマイクロシミュレーション分析(研究の詳細モデルを使ったコンピュータによる分析)では、50歳よりも45歳で大腸がん検診を開始すると生存期間がわずかに延長し、生存年数の延長と生涯における大腸内視鏡検査回数(検診負荷の代用指標)とのバランスが良いとの推定を得た。2 しかし、さまざまな検査方法において、検診の開始年齢を45歳まで引き下げ、同じ検診間隔を維持すると、生涯における大腸内視鏡検査回数が増加した。大腸内視鏡検査の場合、3つのモデルのうち2つは、45歳で検診を開始することにより検診間隔を10年から15年に延長できる可能性を示した。この方法では、10年に1回の検診を50歳で開始するのと同等(もしくはわずかに長い)生存年数が得られ、生涯における大腸内視鏡検査回数も増加しない。しかし、別の1つのモデルでは、より長い検診間隔とより若い年齢での検診の開始は、生存年数をわずかに短縮すると推定された。2 

USPSTFはこれらの知見を踏まえ、エビデンスに基づき、一般集団における検診の開始年齢は50歳が最適であること示していると結論付けた。検診をより若い年齢で開始しても生存年数の延長はわずかであることに注目し、検診開始年齢を引き下げた場合の検診間隔の延長についてはモデル間で結果に不一致がみられ、また若年集団では経験的なエビデンスが不足していた。

患者の期待余命、健康状態、併存疾患、過去の検診状況により、大腸がん検診の利益と不利益のバランスが悪くなる年齢は変化する。74歳以降の検診結果については、ランダム化試験の経験的データが非常に少ない。CISNETの3つのモデルの推定では、過去に適切な検診を受けた平均的リスクの成人において、検診を75歳以降まで延期した場合、生存年数がわずかに延長することで一致している。2

USPSTFは、86歳以上の成人に対する定期的な大腸がん検診は推奨していない。この年齢層は、競合する死因によって大腸がん検診の利益が不利益を上回らなくなってしまうためである。

検診間隔
年1回もしくは2年に1回のgFOBTによる大腸がん検診は、3~5年に1回の軟性S状結腸鏡検査と同様に大腸がんによる死亡を減少させるというエビデンスが複数のRTCによって示された。1 CISNETのモデルでは、50~75歳の成人においていくつかの検査方法が生存年数を同等に延長し(非大腸内視鏡検査方法での生存年数延長は大腸内視鏡検査の90%以内)、利益と不利益の効果的なバランスが得られることを示した(詳細はCISNETレポートの完全版を参照2,12)。検査方法には次のものが含まれる。1)年1回の免疫学的便潜血反応検査(FIT)、2)10年に1回の軟性S状結腸鏡検査と年1回のFIT、3)10年に1回の大腸内視鏡検査、4)5年に1回の大腸CT検査。大腸CT検査については、検診負荷の代理指標(生涯における大腸内視鏡検査回数や下剤による大腸の検査前処置)によって結果が異なる。CISNETの3つのモデルのうち2つは、3年に1回のFIT-DNA検査(製造元の推奨)による生存年数の延長は、大腸内視鏡検査による延長の90%未満であった(それぞれ84%、87%)。つまり、CISNETのモデル分析の結果、3年に1回のFIT-DNA検査は5年に1回の軟性S状結腸鏡検査単独による検診と同等の利益をもたらす()。2

治療
Stage I~IIIの大腸がんの治療は、一般的に大腸粘膜に限局した腫瘍の局所切除もしくは単純ポリープ切除、またはより広範な局所病変の(腹腔鏡下もしくは開腹での)外科的切除と吻合である。

他の予防的措置
USPSTFは、平均的リスクの成人において、心血管疾患と大腸がんの一次予防にアスピリンを推奨している。(https://www.uspreventiveservicestaskforce.org/)。

翻訳担当者 関口 百合、山岸 美恵野

監修 斎藤 博(がん検診/青森県立中央病院)、畑 啓昭(消化器外科/京都医療センター)

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原文掲載日 

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