ビタミンDとがんの予防

MDアンダーソン OncoLog 2016年10月号(Volume 61 / Issue 10)

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ビタミンDとがんの予防

研究は有望だがいまだ結論に至らず

「日光ビタミン」として知られているビタミンDは、体内のカルシウムとリン酸塩の量を調節することによって骨、甲状腺、腎臓の健康を改善するとされてきました。

さらに、最近の研究では、適量もしくは平均以上のビタミンD摂取が、ある種のがんの予防に寄与したり、進行を遅くしたりする可能性があるのではないかと示唆されています。しかし、それらの研究結果を裏付けるには、さらなる証拠が必要です。

「われわれはビタミンやサプリメントに、そしてそれらががん とどう関連するかに大いに関心があります」と言うテキサス大学MDアンダーソンがんセンターのがん予防センター医長である臨床癌予防部門教授Therese Bevers医師は、こう続けました。 「今のところ、得られているデータは限定的で、とりわけ、臨床上の推奨を左右し得るような高水準のデータはきわめて限られています。 とはいえ、ある種のビタミンやサプリメントが、発がんリスクを下げるのに有用であり得るかも知れないことを示す研究もなかにはあり、その一つがビタミンDなのです」。

体内でビタミンDはどう代謝されるか

太陽からの紫外線を浴びると、ヒトの身体はビタミンDを生成します。次に、肝臓がビタミンDを25-ヒドロキシ〔水酸化〕ビタミンD、別名25(OH)Dに変えます。これが血流に乗って腎臓に到達し、そこで身体が利用できる活性化ビタミンDになります。

日光にあたると皮膚がんのリスクが高まりますが、日光曝露によって生成されるビタミンDは、それ以外のがんのリスクを低減するかも知れません。1980年代の研究では、米国南部の住民の方が、日照が相対的に少ない北部の住民よりも、ある種のがんの発がん率ないしはそれによる死亡率が低いことが示されました。

日光曝露だけではなく、たとえばサケやマグロなど脂肪の豊富な魚、栄養強化された牛乳や穀類・シリアルを食べることによっても、ビタミンDを摂取することができます。相対的に日照が少ない地方に住む人や魚を食べない人にとっては、ビタミンDサプリメントがもっとも簡便な摂り方です。

研究結果

ビタミンDサプリメントは乳がん、大腸がん、膵臓がん、前立腺がんのリスクを低減する可能性があることを示す研究があります。しかしながら、これらの研究は結論的なものではありません。さらに、今年カリフォルニア大学サンディエゴ校医学部で行われた研究では、血中ビタミンD濃度が高い試験参加者(すべて女性)は、ビタミンD濃度が低い女性に比べ、がんリスクが67%低いことがわかりました。そこで、ビタミンD濃度が高いと発がんのリスクが下がるのではないかと思われます。

これも最近の研究ですが、スタンフォード大学医学部の研究者らは、ビタミンD濃度が低いマウスは、適正水準であるマウスに比べ、乳がんの成長が早く、より多くの部位に転移することを見いだしました。Bevers教授は、ビタミンDががんの進行を遅らせる特性を持っている可能性があることをこの研究結果は示唆していると述べています。しかし、マウスで起こることがヒトでも起こるとは限りません、と彼女は付け加えました。

がんとビタミンDの関係は、まだ臨床試験によって証明されたわけではないとBevers教授は言います。実のところ、食事内容や日光を浴びる時間もビタミンDの体内量に影響するため、がんリスクに対するビタミンDサプリメントの効果を臨床試験で確かめるのは困難です。

十分なビタミンDの摂取

概して専門家は、1日当たり、1歳未満の乳児なら400国際単位(IU)、1~70歳の人は600 IU、70歳超は800 IUのビタミンD摂取を推奨しています。しかしながら、これらの一日許容量は、がん予防の可能性ではなく骨の健康に与えるビタミンDの効果にもとづいて定められたものです。 Bevers教授はこう述べました。

「現時点では、がん予防に対するビタミン・サプリメントに関して、いかなる推奨も致しません。続行中の研究がないと言っているわけではありません。でも、なんらかの推奨をするには、確たる証拠がもっとたくさん必要です」。

—–Z. Ahmed

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【画像キャプション訳】

上 : 治療前のCTスキャン画像。肛門管扁平上皮がんの転移(矢印)がみられる。下 : 同患者に対しニボルマブを22サイクル投与した後のCT画像。改善がみられた。画像提供: Cathy Eng医師

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翻訳担当者 盛井有美子

監修 大野 智(補完代替医療/大阪大学・帝京大学)

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