遺伝子プロファイルでニボルマブが有効な腎がんが特定可能に

腫瘍の代謝関連遺伝子が治療効果無効との間に相関を示す

PD-L1タンパクが陽性で抗PD-1治療薬ニボルマブ(商品名:オプジーボ)が奏効しなかった腎細胞がん患者では、PD-L1陽性でニボルマブが奏効した患者よりも代謝に関わる遺伝子の発現量が有意に高いことが、米国がん学会(AACR)のCancer Immunology Research誌に発表された臨床試験により明らかとなった。

ジョンズホプキンス大学医学部腫瘍外科教授であり、メリーランド州ボルチモアのシドニーキンメル総合がんセンターでMelanoma Programの所長を務めるSuzanne L. Topalian医師は、「腎臓のがんに最も多いタイプである腎細胞がんでは、ニボルマブなどのPD-1/PD-L1経路を標的とする免疫療法薬を投与して、大きな効果が持続して認められるのは患者全体の15~30%です。研究者らは目下、免疫療法薬が奏効する可能性の低い患者が時間を無駄にすることなく、利益を得られる可能性が低い治療から有害作用を受けずに済むようにすべく、同治療が有効であるかどうかを予測する因子を明らかにしようと試みています」と語った。

「いくつかの試験から得られた科学的根拠から、PD-L1陽性の腎細胞がん患者の方が、PD-L1陰性の患者よりPD-1経路遮断薬が奏効する可能性が高いものの、PD-L1陽性の腎細胞がんに必ずしもこの免疫療法が奏効するわけではないことが示唆されています。われわれは今回の試験で、ニボルマブが奏効しなかったPD-L1陽性腎細胞がん患者では、代謝に関わる遺伝子の発現量が多いことを見出しました。このデータがさらに多くの患者を対象に再現されれば、腎細胞がん患者の治療方針を決定するにあたりこの情報を指針とすることができる可能性があります」と、ジョンズホプキンス大学ブルームバーグ・キンメルがん免疫療法研究所の副所長でもある同医師は説明した。

Topalian医師と、Topalian研究室に勤務する博士研究員Maria Libera Ascierto医師らは、PD-L1陽性の転移性腎細胞がん患者で、臨床試験によりニボルマブを投与された13人の、保存された治療前の腫瘍検体を分析した。13人のうち4人をニボルマブ奏効患者、9人を無効患者に分類した。

29,377の遺伝子を網羅する全ゲノム発現プロファイリングを実施し、ニボルマブ無効患者の腫瘍で発現量が有意に増大している110種の遺伝子を確認した。さらに分析を実施したところ、無効患者の腫瘍で発現量の増大が認められた遺伝子の大半が、細胞内でエネルギーを産生し、老廃物を排出する化学的工程である代謝に関わるものであることが明らかになった。これらの遺伝子は培養腎がん細胞に発現することも確認された。

Topalian医師は、「ニボルマブが免疫系のブレーキを外すことによって作用することから、これまでに行われた治療抵抗性に関する試験は、免疫系に関わる機序を調べることに焦点を当てたものがほとんどでした。われわれのデータは、腫瘍に特異的な機序によっても治療抵抗性が引き起こされる可能性があることを示唆しています」と語った。

さらに同医師は、「われわれは、全ゲノム発現プロファイリングを用いた客観的な手法が成功したことを受けて、このような試験を拡大して別種のがんを分析するとともに、抗PD-1療法を受けた別の患者の腎細胞がんを用いてわれわれの今回の試験成績を確認することを目指しています。そのような試験を実施すれば、抗PD-1療法と併用するための新たな薬物標的も明らかにできるかもしれません。」と付け加えた。

Topalian医師によれば、今回の試験の主な制約は、少数の患者から得た検体を後向きに解析した点にある。ただ、研究チームは、予備的ではあるものの統計的に有意なこの結果が、ジョンズホプキンス大学をはじめとする施設で、さらに大規模なコホートを対象に今後検討を実施するための出発点となることを期待していると同医師は語った。

本試験は、Bristol-Myers Squibb社、米国国立がん研究所(NCI)、ジョンズホプキンス大学ブルームバーグ・キンメルがん免疫療法研究所およびStand Up To Cancer–Cancer Research Institute Cancer Immunology Dream Team Translational Research Grantから研究資金の提供を受けた。Stand Up To Cancerは、AACRが運営するEntertainment Industry Foundationのプログラムのひとつである。Topalian医師はBristol-Myers Squibb社から研究資金の支援を受けている。Ascierto医師は利益相反がないことを宣言している。

翻訳担当者 尾川 愛

監修 榎本 裕(泌尿器科/三井記念病院)

原文を見る

原文掲載日 

【免責事項】
当サイトの記事は情報提供を目的として掲載しています。
翻訳内容や治療を特定の人に推奨または保証するものではありません。
ボランティア翻訳ならびに自動翻訳による誤訳により発生した結果について一切責任はとれません。
ご自身の疾患に適用されるかどうかは必ず主治医にご相談ください。

腎臓がんに関連する記事

腎がんを皮下注射型ニボルマブで治療、点滴より簡便になる可能性の画像

腎がんを皮下注射型ニボルマブで治療、点滴より簡便になる可能性

米国国立がん研究所(NCI) がん研究ブログ進行した腎がんの患者にとって、皮下注射投与型ニボルマブ(販売名:オプジーボ)は、本来の静脈内投与の適切な代替方法であることが、臨床試験の初期...
進行腎がんに対する免疫療法薬+グアデシタビン新治療の可能性を示す研究の画像

進行腎がんに対する免疫療法薬+グアデシタビン新治療の可能性を示す研究

オハイオ州立大学総合がんセンター進行淡明型腎細胞がん(ccRCC)の一部の患者に対する2剤併用療法はさらなる研究に値することが、Big Ten Cancer Research Cons...
腎がん術後キイトルーダの延命効果が初めて試験で示されたの画像

腎がん術後キイトルーダの延命効果が初めて試験で示された

米国臨床腫瘍学会(ASCO)ASCO専門家の見解「KEYNOTE-564試験の最新結果は、腎臓がんの術後療法におけるペムブロリズマブ(販売名:キイトルーダ)の有効性に焦点を当て...
体幹部定位放射線治療(SBRT)が早期腎臓がんの重要な治療法となる可能性の画像

体幹部定位放射線治療(SBRT)が早期腎臓がんの重要な治療法となる可能性

米国国立がん研究所(NCI) がん研究ブログ一部の腎臓がん患者にとって、体幹部定位放射線治療(SBRT)と呼ばれる治療法は、手術が選択できない場合に非常に有効な治療法と考えられることが...