成人がんサバイバーの慢性疼痛管理に新ガイドライン

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即時報道発表

米国臨床腫瘍学会(ASCO)は、本日、成人がんサバイバーの慢性疼痛管理に関する新しい診療ガイドラインを発行した。このガイドラインは、がん治療の後に経験する疼痛を包括的に扱っており、がんサバイバーの慢性疼痛に焦点を当てている点がユニークである。また、持続性の疼痛を安全かつ効果的に治療するための根拠に基づいたさまざまな戦略が推奨されている。

がんの診断法、治療法が著しく進歩した結果、米国ではがんサバイバーがこれまでで最多の1400万人となっている。しかしながら、40%のがんサバイバーが、がん治療の結果、生活の質にとって有害な持続性の疼痛を経験していると推定される(1)。

ASCOは、長年用いられてきたアプローチと新しいアプローチの双方を推奨しており、これらには、日常的な慢性疼痛スクリーニング、催眠術や瞑想といった代替的な疼痛管理法、法的に認められている州における特定の状況下での医療用大麻の使用やオピオイドの過剰使用の可能性の評価などが含まれる。

このガイドラインを開発したASCO専門家パネル共同議長のJudith A. Paice博士・正看護師は、次のように述べている。「多くの腫瘍医やかかりつけ医は、がんに伴う長期的な疼痛を認識したり治療したりするためのトレーニングを受けていません。このガイドラインは、臨床医が疼痛を早期に発見し、幅広いアプローチを用いて包括的な治療プランを立てるのに役立ちます」。

このガイドラインで推奨されている内容は、腫瘍内科学、血液学/腫瘍学、疼痛医学、緩和ケア、ホスピス、放射線腫瘍学、ソーシャルワーク、症状管理研究、リハビリテーション、心理学や麻酔学など多分野の専門家パネルだけではなく、患者代表も加わって開発された。この専門家パネルは、1996年から2015年の間に発表された医学文献のシステマティックレビューを行った。

進行したがんに伴う疼痛や非がん患者における慢性疼痛の緩和を扱ったガイドラインは他にもあるが、今回発行されたガイドラインは、増加しつつある慢性疼痛をかかえるがんサバイバーに焦点を絞った数少ないガイドラインのひとつである。また、このガイドラインは、がん治療に伴うさまざまな疼痛症状について記載している点でもユニークである。

ガイドラインの鍵となる推奨は以下のものを含んでいる

  • 臨床医は、出会った全ての患者に対して疼痛スクリーニングを実施すべきである。再発病変、二次がんや遅発性に生じる治療の影響を、評価、治療、監視すべきである。
  • 臨床医は、物理療法、リハビリテーション、統合治療(例、鍼やマッサージ)、介入治療や心理学的アプローチ(例、誘導イメージ法、催眠術や瞑想)といったような非薬理学的介入を行ってもよい。
  • 慢性疼痛軽減や身体機能改善のために、非オピオイド鎮痛薬(非ステロイド性抗炎症薬、アセトアミノフェン)や補助鎮痛薬(選定された抗うつ薬と抗てんかん薬)の全身投与をおこなってもよい。
  • 臨床医は、より保守的な疼痛管理に反応せず、疼痛に関連した悩みや身体機能の障害が続いている慎重に選定されたがん患者に対して、オピオイドを試しに処方してもよい。
  • 臨床医は、疼痛管理に使用されるオピオイドの有害事象の危険性について評価し、乱用、中毒や有害事象を最小限にするための普遍的予防策を講じるべきである。
  • 臨床医は、利用できる製剤のリスクベネフィットを考慮したうえで、慢性疼痛をもつ患者に対して医療用大麻や大麻類の使用を認める特定の州の規制に従ってもよい。

Paice氏は次のように述べた。「最も重要なのは、個人の疼痛を適切に評価するだけでなく、オピオイドに過度に依存する可能性も適切に評価することに、注意喚起していることです。このガイドラインは、持続性の疼痛をもつがんサバイバーが、オピオイドを確実に、安全かつ効果的に使いつつ、中毒と闘っている場合には使用を制限することに役立つ予防策について概説しています」。

本ガイドライン「Management of Chronic Pain in Survivors of Adult Cancers: American Society of Clinical Oncology Clinical Practice Guideline」は、本日、Journal of Clinical Oncology誌に補足資料とともに掲載され、www.asco.org/chronic-pain-guidelineで参照することが出来る。

ASCOは、腫瘍医、開業医や患者がこのガイドラインに対するフィードバックをwww.asco.org/guidelineswiki.へ寄せることを推奨している。

1 van den Beuken-van Everdingen MH, et al. Update on Prevalence of Pain in Patients With Cancer: Systematic Review and Meta-Analysis. J Pain Symptom Manage. 2016 Jun;51(6):1070-1090.e9.

翻訳担当者 伊藤彰

監修 佐藤恭子(緩和ケア内科/川崎市井田病院)

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