AYA(若年)世代進行がん患者のケアに深刻なコミュニケーション不足
思春期から若年成人期(AYA世代)の進行がん患者の多くは、人生の最後の数週間まで、緩和ケアへの取り組み方について医師と話し合わないことが、若年患者約2,000人の医療記録調査から明らかになった。
また、死亡の2カ月以上前の時点で、がん治療をどの程度積極的に受けたいかなど、ケア目標を医療記録に記録していた患者はAYA世代の研究対象者にほとんどいなかったことも明らかになった。
この研究結果は、NCI(米国国立がん研究所)の資金提供を受けた研究から得られたものである。同研究では、進行がんを患うAYA世代の患者と医療提供者との間で記録されたケア目標に関する話し合いが、患者の人生最後の数カ月間にどのように変化したかを分析した。研究結果は12月19日、JAMA Network Open誌に掲載された。
NCIのヘルスケア提供研究プログラムに所属し、NCIの青少年腫瘍ワーキンググループの共同リーダーを務めるAshley Wilder Smith博士(公衆衛生学修士)は、「人生の終末期におけるケアと治療について話し合うことは、AYA世代進行がん患者のケアにおいて最も困難な側面の1つです」と述べている。同博士は、この新たな研究結果から、医師と患者が考慮すべき重要な知見を得られると付け加えた。
「若者が『早死に』につながる可能性のある病気に直面したとき、彼らにとって最も重要なこと、そして残された時間でのケアに関して彼らに起こり得ることを考える機会を設けるのは極めて重要です」と同氏は述べた。
不治の病を乗り越えるAYA世代患者のためのロードマップはない
2024年に米国では、15歳から39歳までの約84,000人ががんの診断を受けた。AYA世代がん患者の多くは生き残り、約86%が診断後5年以上生存しているが、昨年は推定8,900人ががんで死亡した。
「患者は不治の病に苦しんでいるのに、乗り越えていく方法を示すロードマップを患者も家族も持っていないのです」とSmith博士は述べ、若者の死は事故や怪我による場合が多いことを指摘した。「私たちは若者が死ぬことを予期しておらず、現実的に考えると、若者たちも死ぬことを予期していないでしょう」。
これまでの研究で、AYA世代がん患者は人生の終末期に集中的な医療ケアを受けることが多く、それが延命につながるどころか生活の質を悪化させる可能性があることがわかっている。
だからこそ、ケア目標を記録することが非常に重要であり、それによって医師は、AYA世代のがん患者の「大切にしたいもの」がどのように理解され尊重されるかを認識できる、と本研究の研究者の1人であるNCI小児腫瘍科部門のLori Wiener博士は述べた。
人生の終末期が近づくにつれてケア目標の話し合いが増加
研究チームは、この研究を行うにあたって、がんで死亡した時点で12歳から39歳であった1,900人以上の医療記録を分析した。全員がダナ・ファーバーがん研究所、またはカリフォルニア州にある2つのカイザー・パーマネンテ医療システムのいずれかで治療を受けていた。
研究者らは特に、患者が人生の最後の3カ月間に医療チームと行ったケア目標(つまり、どのような治療を希望し、どのように痛みやその他の症状を管理したいか)についての話し合いと、その期間中における目標の変化の様子に関する記録を調査した。
話し合いは、死亡前の早期(61〜90日)、中期(31〜60日)、後期(30日以内)に分類された。
記録を調査された患者の70%以上において、初期段階ではケア目標に関する話し合いが記録されていなかった。中期になると、半数弱がケア目標に関する話し合いを記録しており、人生最後の1カ月では80%以上が話し合いを記録していた。
目標としての緩和ケア
この研究の焦点の1つは、緩和ケアの選択であった。緩和ケアは、がんやその治療による身体的・心理的症状に対処することで生活の質を向上させることを目的とした治療である。
緩和ケアを希望する患者は、初期の約7%から中期には約17%に増加し、人生最後の1カ月では58%近くにまで増加した。
研究対象者の多くでは、ケア目標に関する話し合いは人生最後の1カ月まで行われなかったが、その話し合いでは主に緩和ケアへの希望が示されていた。
「この研究に参加した多くの患者は、ケア目標について最初に尋ねられた際に、緩和ケアの希望について語ってくれました。しかし、そうした話し合いは患者の人生の終末期が近づくまで行われていませんでした」とSmith博士は述べた。「患者が病気の初期段階で別の目標を持っていた可能性や、もっと早く緩和ケアを希望していた可能性も考えられますが、そうした話し合いの記録がなければ、それを判断する方法はありません」。
緩和ケアは、治癒を目的とした治療中や、意味のある延命を目的とした治療中を含め、がん治療のどの時点でも利用できる、と同博士は続けた。
「緩和ケアは人生の最後の数週間だけのためのものだという誤解が、多くの医師の間でさえあります」とSmith博士は述べた。
話し合いの記録はケアに影響
ケア目標の記録は、患者が受ける終末期ケアの種類にも影響を与えた。例えば、早期に緩和ケアを希望した患者は、人生最後の1カ月に集中治療室で治療を受ける可能性が低かった。
同様に、早期に緩和ケアを受けた患者は、人生最後の月に初めて緩和ケアについて話し合った患者や、緩和ケアを含まない目標を表明した患者よりも、人生最後の月に救急外来を受診したり入院したりすることが少なかった。
こうした話し合いが患者の受けるケアに影響を与えたことは、「『ケア目標』について早いうちから頻繁に話し合うことが本当に重要」である理由を示していると、Smith博士は述べた。
ケア目標を記録することは重要
患者と医療チームの間で治療に関する話し合いが非公式に行われることもあるが、こうした話し合いを医療記録に記録しておくことが重要であると、Wiener博士は強調した。
「ケア目標に関する会話を記録することは、医師が行うことができる最も基本的なステップの1つです。その目的は、提供されるケアが患者にとって最も重要なことを反映していること、つまり、ケアが患者のニーズを満たし、患者の好みや価値観と一致しているということを確認することです」と同博士は述べた。
例えば、患者が主治医に「もうICUに入りたくない」と伝えた場合、その話し合いを記録しておくことで、その患者を診る他の医師に患者の希望を伝えることができる。
「特に患者が重篤な状態にある場合、患者にとって最も大切なことが尊重されるようになります」とWiener博士は述べた。
ケアに関する話し合いは治療以外にも及ぶ
Wiener博士は、ケア目標を記録することに加え、こうした話し合いには、病状が悪化した場合に患者が自分の価値観をどのように尊重してほしいかを反映する話題も含めるべきであると述べた。
「こうした話し合いでは、患者がどのようなサポートを受けたいのか、どのように苦痛を和らげて欲しいのかを話し合うべきです」と同博士は述べた。「診察や治療の際に誰がそばにいてほしいのか?最期の日々を迎えるにあたり、誰がそばにいてほしいのか?家族や友人にはどのように記憶され、偲ばれてほしいのか?」
もう1つの考慮すべき点は、患者が最後の日々をどこで過ごしたいかということである。
同じ研究チームによる最近の別の論文では、ダナファーバー・カイザー・パーマネンテ・コホートで研究対象となったAYA世代のがん患者の約63%が、自宅、病院、ホスピス施設など、死を迎えたい場所について話し合ったことが記録されていた。死を迎える場所について話し合った人のうち、ほぼ半数は希望を表明せず、32%以上が自宅での死を希望した。
死を迎えるAYA世代患者に発言権を与えるため、医師は十分な努力をしているだろうか?
両研究とも、これらの重要な問題について記録された話し合いは、人生最後の1カ月まで行われていないことが多いと判明した。この研究結果は、医師がAYA世代の患者に対し、これらの終末期の問題を十分に提起していない可能性があることを示唆している。このことについて、アラバマ大学バーミンガム校のEmily E. Johnston医師とダナ・ファーバーがん研究所のJennifer M. Snaman医師が、AYA世代の末期がん患者が死を迎えたい場所に関する研究の付随論説で述べている。
「ケア目標に関する話し合いに不安を抱えていた医師が、こうした話し合いに参加しなかったのであろうか?こうした話し合いは行われたものの、記録に残されていなかったのであろうか?院外での死はないであろうと考えたため、医師はAYA世代の患者と[死を迎える場所]に関する希望について話し合わなかったのであろうか?」と同医師らは述べている。
同医師らによると、AYA世代患者に特化した会話ツールの開発と試験が進められており、小児患者向けのツールを改良した動画ベースのツールやガイドも含まれている。「Voicing My Choices」と呼ばれるツールが、終末期ケアに関する多様な希望を体系化し、記録するのに役立つツールとして挙げられている。
自分の選択を声に出す
「Voicing My Choices™」は、命に限りのある病気を抱える若者や、人生の終末期を迎えている若者のためのプランニングガイドである。NCI小児腫瘍科が開発したこのガイドは、進行がんやその他の重篤な病気を抱えるAYA世代の患者からの意見を取り入れて作成された。2022年の研究では、このガイドを完了したAYA世代の患者は不安が少なく、終末期の目標について家族と話し合う可能性が高かったことがわかった。家族と自分の考えを共有した患者のほとんどは、この研究に参加していなければ、おそらくそうしなかったであろうと回答している。
- 監修 高野 利実
- 記事担当者 仲里芳子
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- 原文掲載日 2025/04/15
【この記事は、米国国立がん研究所 (NCI)の了承を得て翻訳を掲載していますが、NCIが翻訳の内容を保証するものではありません。NCI はいかなる翻訳をもサポートしていません。“The National Cancer Institute (NCI) does not endorse this translation and no endorsement by NCI should be inferred.”】
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