OncoLog 2015年2月号◆House Call「放射線について」

2015年2月号(Volume 60 / Number 2)

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House Call「放射線について」

誰もが日々放射線に曝露されている。こう聞くと危険だと思うかもしれないが、ほとんどの放射線は自然由来で、小線量で害はない。医療や空路移動などの行動により、どれほど放射線曝露が増えるかを知れば、治療の決断の一助となるし、不必要な心配をしなくてすむ。

1年間の1人あたり放射線曝露量は約6.2ミリシーベルト(mSv。実効放射線量をあらわす単位)である。この量は放射線業務従事者における許容量の国際基準の年50mSv以下よりもはるかに少ない量である。

しかし、過剰な放射線曝露の害には気をつけるべきだ。特に、放射線の影響は生涯にわたり累積する。研究者の推測では、1,000mSv曝露されるごとに遺伝子変異が0.2個生じるという。遺伝子変異の中には癌のリスクを高めるものもあるが、すべての遺伝子変異が危険だというわけではない。平均的なヒトにはすでに50個の遺伝子変異が存在する。

自然放射線の発生源

放射線は電離放射線(原子や分子から電子を遊離させる能力があるもの)と非電離放射線に分類される。電離放射線(X線など)は非電離放射線(電波など)に比べると有害であるとされる。

われわれが曝露されている自然放射線の大半は空気中のラドン(放射性物質の一種)によるものである。空気中のラドンだけで平均的なヒトの年間曝露量の3分の1以上を占める(2.3mSv)。また、標高も放射線曝露量に関係する。海抜が1フィート上がるたび、太陽など宇宙空間からくる放射線である宇宙線による年間放射線量がごく微量増加する。

年間曝露量のうち地球(地上)放射線によるものは約0.2mSv(3.2%)である。その他、われわれが摂取するものも曝露源となる。食物には放射性同位体の炭素14およびカリウム40が含まれているし、水にはラドンを含有するものもある。しかし飲食物は問題となるような曝露源ではない。飲食物全体で、年間放射線曝露量のうち0.3mSv(4.8%)を占めるにすぎない。

放射線曝露量を増加させる要因

放射線のほとんどは自然由来だが、環境やライフスタイルなどの要因で曝露量が増加することがある。ただし、各要因による個人の放射線曝露量の増加は多くの場合非常に小さい点に留意したい。

建材は種類によって一定量のラドンを含有する。コンクリート、石材、アドべ、レンガによる建築物に居住している場合、年間放射線曝露量が増加する。

空路移動でも少量の放射線に曝露される。具体的には、飛行機で1時間旅行するごとに、0.005mSvの電離放射線に曝露される。なお、保安検査場のミリ波スキャナーは、有害でないことが知られる非電離放射線が用いられている。

1人あたりの年間放射線曝露量の約半分は、X線写真撮影やコンピュータ断層撮影(CTスキャン)など、医療での検査によるものだ。胸部X線撮影による患者への平均的な放射線曝露量は約0.1mSvである。一方、CTスキャンでは患者身体の3Dイメージを構築するため複数のX線ビームが用いられる。胸部CTスキャンを受ける患者への放射線曝露量は約7mSvである。X線やCTスキャンは患者を放射線に曝露させるもので不必要に利用すべきではないものの、これらの画像診断法で命を救うことができるメリットを得られることに留意することが重要だ。超音波および磁気共鳴画像診断(MRI)では、電離放射線を使用しない。

避けることができる放射線源としてはタバコの煙がある。タバコの煙には、他の発癌物質に加え、放射性同位体である鉛210とポロニウム210が微量に存在する。

携帯電話についても市民の間で心配されているが、高周波(非電離)放射線が用いられており、携帯電話と癌の関連は見つかっていない。しかし、携帯電話を数十年にわたって使用した人におけるデータが得られていないことから、国際がん研究機関(IARC)は高周波放射線がヒトに対する発癌物質である可能性があるものと分類している。

心配と誤解

放射線曝露が癌の主たる原因の一つであるという誤解は普通に聞かれる。これは主に化学物質の漏出事故、原子炉のメルトダウン、原子爆弾投下などによって、周辺地域の癌発生率が大きく増加したことがよく知られているためだ。しかし、これらの大惨事における放射線量は大量で(広島の原爆投下の場合約210mSv)、年間に普通に曝露される量よりはるかに多いものである。現実には、放射線は特定の化学物質や重金属などと比べると発癌物質としては弱いもののひとつである。

不必要な放射線曝露は避けるべきであるが、これまで述べたような放射線曝露のリスクは小さいということを正しくとらえておきたい。医療上必要なX線やCTスキャンを放射線への不安から避けるべきではなく、そのような不安がある患者は主治医と話し合うのがよい。

— N. Danckers

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翻訳担当者 橋本 仁

監修 前田 梓(トロント大学医学部医学生物物理学科)

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