再発性卵巣癌に対する有効性の高い薬剤併用療法が臨床試験解析で示唆される

米国国立がん研究所(NCI)プレスリリース

原文掲載日 :2014年5月31日

本日、シカゴで開催された米国臨床腫瘍学会(ASCO)年次総会において、再発性卵巣癌に対する薬剤併用療法が著しく改善したことが報告された(late breaking abstract #5500)。これは、卵巣癌に対し、経口投与可能な複数の薬剤を併用した初めての試験である。米国国立衛生研究所(NIH)の一部門である米国国立癌研究所(NCI)の支援を受け、第1相併用試験に続きランダム化第2相試験にてこれらの薬剤を検討した。

この試験では、オラパリブ(DNA修復阻害剤)+セディラニブ(血管新生阻害剤)の2剤併用療法と、オラパリブ単剤療法との効果を比較した。試験の結果、併用療法において単剤療法の2倍近い無増悪生存期間(PFS:治療中から治療後にかけて癌の増悪がみられなかった期間の長さ)が達成されたことがわかった。

「今回の試験で得られた知見には胸が躍ります。経口標的治療薬の2剤併用療法が卵巣癌に顕著な有効性を示し、その効果はオラパリブ単剤療法を上回るということが確認されたのですから」と、試験責任医師であるボストンのダナ・ファーバー癌研究所、Susan F. Smith女性癌センターの腫瘍内科医であるJoyce Liu医師・公衆衛生学修士は述べた。「この併用療法をさらに探求し、卵巣癌患者に有効な治療選択肢が増える可能性に期待します」。

米国では、毎年2万2000人以上が卵巣癌の診断を受ける。そのうち75%は高悪性度の漿液性卵巣癌に分類され、その他の卵巣癌と比較して診断時の病期がより進行しており、腫瘍の攻撃性がより高い。この高悪性度型卵巣癌患者のおよそ4分の3が初回治療に反応するが、ほぼ全員で再発し追加治療が必要となる。追加治療は、すでに受けた治療に対する患者の癌の反応の仕方によって計画される。プラチナ製剤を含む化学療法レジメンに対する反応にもとづき、以下の2つのカテゴリーに分けられる。

・プラチナ製剤感受性: このタイプの患者には、ポリ(ADP-リボース)ポリメラーゼ(PARP)阻害剤が有益となる可能性が最も高い。オラパリブのようなPARP阻害剤は、DNA損傷修復など細胞内の多くの機能に関わる酵素を阻害する標的治療薬である。

・プラチナ製剤耐性: 従来の化学療法(シスプラチンまたはカルボプラチン)終了後6ヵ月以内に疾患が再発した患者で、通常はその後の治療への反応性が低くPARP阻害剤にも反応しないタイプである。最近、このタイプの治療には、プラチナ製剤以外の化学療法剤を単独で、またはベバシズマブと呼ばれる血管新生阻害剤との併用で用いている。

セディラニブと呼ばれる抗血管新生剤すなわち血管新生阻害剤(VEGFRとして知られるタンパク質を阻害)およびPARP阻害剤であるオラパリブは、どちらも再発性卵巣癌に対して臨床的効果を示す。前臨床研究において、これらの薬剤は相互に活性を増幅し合うことが示唆されており、早期第1相試験ではセディラニブとオラパリブの併用は副作用発現率が最小限で忍容性がよいことが示された。

こうした理由から、第2相臨床試験にて9施設90人の患者をオラパリブ(カプセル剤400mg1日2回)を投与する群、またはオラパリブ(カプセル剤200mg1日2回)とセディラニブ(錠剤30mg1日1回)の2剤を併用投与する群のいずれかに無作為に割り付けた。これらの試験群をBRCA遺伝子変異状態および抗血管新生剤治療歴により層別化した。BRCA遺伝子は、乳癌で最もよく変異が認められる遺伝子の一つである。

患者の年齢の中央値は58歳で、2011年10月から2013年6月にかけて登録された。2014年3月の時点での無増悪生存期間の中央値は、オラパリブ群で9.2カ月、併用療法群で17.7カ月であり、併用療法群で顕著な効果が認められた。全体的な毒性発現率は併用療法群の方が高かった。最も頻度の高い毒性作用は、疲労、下痢および高血圧であったが、いずれも管理可能な程度であった。

「特筆すべき点は、今回の試験で用いた薬剤が両剤ともに経口薬であるため、静注化学療法の代替となる可能性があるということです」と、NCIの治験薬部門副部長であるPercy Ivy 医師は述べた。「したがって、世界中どこでも下痢や高血圧などのオラパリブとセディラニブによる副作用を安全に監視することのできる環境であれば、この併用療法を実施できる可能性があります」。

これらの結果にもとづき、NCIの新規の癌臨床試験ネットワーク(National Cancer Trial Network Group)のひとつであるNRG Oncology Group (以前は、National Surgical Adjuvant Breast and Bowel Project (NSABP)、Radiation Therapy Oncology Group (RTOG)、  Gynecologic Oncology Group (GOG) の3つの共同臨床試験グループであった)により、プラチナ製剤感受性卵巣癌患者およびプラチナ製剤耐性卵巣癌患者を対象とした2つの第3相臨床試験が計画されている。

この試験は、NCIからの助成金およびリカバリー・アクト(American Reinvestment and Recovery Act)基金からの補助金を受けた。

参考文献 : Liu, JF, et al. A randomized phase 2 trial comparing efficacy of the combination of the PARP inhibitor olaparib and the anti-angiogenic cediranib against olaparib alone in recurrent platinum-sensitive ovarian cancer. NCT 01116648.  ASCO late breakingabstract#5500. http://www.cancer.gov/clinicaltrials/search/view?cdrid=673213&version=HealthProfessional

原文 

翻訳担当者 吉田文

監修 高濱隆幸(腫瘍内科/近畿大学医学部附属病院)

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