OncoLog 2014年4月号◆新たなキナーゼ阻害剤(イブルチニブ、イデラリシブ)が慢性リンパ性白血病(CLL)などのB細胞性悪性腫瘍に有望

MDアンダーソン OncoLog 2014年4月号(Volume 59 / Number 4)

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新たなキナーゼ阻害剤(イブルチニブ、イデラリシブ)が慢性リンパ性白血病(CLL)などのB細胞性悪性腫瘍に有望

慢性リンパ性白血病(CLL)に対する新たな分子標的療法は、標準的化学免疫療法を用いた場合に比べ、奏効率がほぼ同等で、毒性作用は低いことが明らかになりつつある。

B細胞受容体(BCR)経路を阻害する新規標的薬は、ほかの薬剤と併用され、さらに、長期追跡データが蓄積されるにしたがって、CLLをはじめとするB細胞性悪性腫瘍の治療に占めるこの薬の役割がさらに不動のものになりつつある。

BCR経路阻害剤

CLLに関して、BCR経路阻害剤が標準治療に勝る大きな利点として、この標的薬が細胞傷害性化学療法において、時に重篤にもなり得る古典的な副作用を引き起こさないという点がある。

「これまでのCLL治療の最大の問題として、既存の治療法のほとんどが骨髄抑制を引き起こすということがありました」とテキサス大学MDアンダーソンがんセンター白血病科教授、Susan O’Brien医師は言う。「CLL患者に白血球数の上昇がみられる場合、白血球数は減らしたいと同時に、血小板やヘモグロビンの減少といった、場合によっては輸血が必要となるような非特異的な作用は回避したいのです」。

BCR経路阻害剤では、骨髄抑制が起こらないため、細胞傷害性の化学療法剤に比べて、感染症のリスクも低い。このような特質があることから、標的薬は、高齢であったり、併存症があったりするために、従来の化学療法を受けることができないCLL患者にとって、最適な薬剤となっている。このような患者集団をはじめ、さまざまな集団を対象に、現在、多くの臨床試験が実施され、BCR経路阻害剤の単独療法または他剤との併用療法が検討されている。

BCR経路阻害剤は、細胞傷害性の薬剤よりも特異的にCLL細胞を標的にする。BCR経路阻害剤は、CLLにおいて異常に活性化をしているBCR関連のシグナル伝達経路における酵素を阻害することにより、この経路の機能を停止させる。たとえば、ibrutinib(イブルチニブ)はブルトン型チロシンキナーゼを阻害し、idelalisib(イデラリシブ)はPI3キナーゼδを阻害する。いずれも、BCRシグナル伝達にきわめて重要な酵素である。このシグナル伝達の阻害により、CLL細胞の増殖能や生存能が失われるだけでなく、CLLの増殖にとって望ましい環境であるリンパ節を見つけ出して浸潤し、そこに残存する能力も失われる。リンパ節中のCLL細胞のほとんどが、このような能力をなくすことによって、末梢血中に放出される。

CLL細胞の急速な再分布は、一過性のリンパ球増多を引き起こす。BCR経路阻害剤を検討した初期の臨床試験では、この事象が治療中止を決める誤った判断材料となった。「患者のリンパ球数は、最初は上昇します。しかし、この上昇を疾患進行の徴候であると解釈してはいけませんし、これを根拠に投薬をやめるべきではありません」とO’Brien医師は言う。

臨床試験

BCR経路阻害剤のうち、多くのB細胞性悪性腫瘍に対する臨床試験で、第3相にまで進んだイデラリシブおよびイブルチニブに、最も大きな期待が寄せられている。

再発CLLまたは難治性の低悪性度非ホジキンリンパ腫の患者を対象にイデラリシブを検討した試験では、有望な結果が得られており、こうした疾患に対する米国食品医薬品局(FDA)からの承認が待たれている。

イブルチニブは、2013年11月、少なくとも1回の前治療歴があるマントル細胞リンパ腫患者の治療にFDAから承認されたが、今年2月、前治療歴1回以上のCLL患者の治療に承認され、ふたたび注目を浴びた。さらに最近、65歳以上で未治療のCLLまたは 小リンパ球性リンパ腫 (SLL) の患者を対象に第1b/2相臨床試験が実施され、イブルチニブの安全性および有効性が明らかになったことから、さらに多くのB細胞性悪性腫瘍患者にイブルチニブが承認される可能性がある。

患者選択

「高齢であるために化学免疫療法の対象にならない患者や高リスクの併存疾患がある患者に、今では迷いなくイブルチニブを勧めることができるようになりました。17p欠失が認められる場合は特に勧めます」と白血病科准教授、Jan Burger医師は言う。

染色体17p領域の欠失は、化学免疫療法に十分な奏効が期待できないことをほぼ例外なく示す予後不良因子である。一方、イブルチニブは17p欠失患者で比較的良好な反応性が得られており、診断時にCLL患者の5~10%に認められる17p欠失に対する初回治療に使用される可能性もある。

「再発・難治性の患者で17p欠損を有する場合、イブルチニブの無増悪生存期間中央値は約2年です」とO’Brien医師は述べた。「最新の化学療法薬による治療を受けた17p欠損の患者における無増悪生存期間中央値はだいたいの場合1年で、2年というのは今まで報告されたものよりもよい成績」だという。「今なら、17p欠損の患者に対してためらわず素直にイブルチニブ治療を行います。これらの患者に細胞毒性のある化学療法の結果が芳しくないことがわかっているからです」。

Burger医師によると、イブルチニブ、イデラリシブともにCLL治療の選択肢として優れているという。患者にどの薬を投与するかの判断は、最終的に患者の副作用に対する忍容性と、併用されている薬の種類による。例えば、イブルチニブは出血リスクを高めることがあり、ワルファリンなどの抗凝固剤を服用している患者に最適とは言えない。

「各患者群において、ある薬が別の薬よりも優れているかを知るには時間がかかります」とBurger医師。「BCR経路阻害剤で治療した患者の追跡はまだ3年から3.5年にしかなりません。フォローアップ期間としてはまだ日が浅いと言えます」。

長期的なデータで答えが出る

長期間のフォローアップデータがないためにBCR経路阻害剤の使用に関連する問題やその影響について悩ましい問題がいくつか残っている。そのうちもっとも大きい問題として、最新薬による治療を受けている患者が、しっかりとした治療効果を期待しているにもかかわらず、完全寛解ではなく部分寛解である場合が圧倒的に多い、ということがある。ただ、BCR経路阻害剤の効果が表れるのには非常に時間がかかり、患者の追跡が短期間しか行われていないことを考えると、完全寛解に至る前の状態を見ている可能性がある。

「BCR経路阻害剤で治療して部分寛解となった患者の一部は、やがて完全寛解に移行するものと考えています。まだ長期的な追跡データがありませんので、実際にどれくらいの患者で完全寛解が得られるのかはわかりません」とO’Brien医師は述べた。

長期的な追跡データの不足は、BCR経路阻害剤の副作用に関する研究に不透明な点を残す。

「大規模集団に対して治療を行えば、初期の臨床試験にはなかったような安全性の問題が出てくるでしょう」とBurger医師は話す。「キナーゼ阻害剤は心血管系の副作用を起こすことがあります。BCR経路阻害剤の場合でも同じことが起こる可能性があり、そのことには注意が必要です」。

長期的なデータを得ることでCLL細胞のBCR経路阻害剤耐性の獲得についても知見が得られそうだ。この耐性は今のところ多くはないが、重要な問題である。

「これらの薬は1つの伝達経路を標的としていて、それは間違いなく重要な経路ですが、悪性の細胞が異常な伝達経路を1つしか持っていないということは稀です」。O’Brien医師はこのように話している。「標的が1つでは足りない可能性があるのです」。

併用療法

単独治療での成功、高い忍容性、経口薬であることなどの理由から、イブルチニブやイデラリシブなどのBCR経路阻害剤を、さらに高い治療効果を期待して、他のCLL治療薬と併用することが行われるようになってきた。

標的治療と細胞毒性のある化学療法との併用による現在進行中の第2相臨床試験では、骨髄抑制を起こさないというBCR経路阻害剤の利点は失われているものの、有望な結果が出てきている。

CLLに治療におけるさらに有望なアプローチとして、モノクローナル抗体と併用する方法があるかもしれない。例えば、イブルチニブと、CLL患者の生存に大きな効果があるモノクローナル抗体のリツキシマブとを併用するパイロット研究をBurger医師は最近終えたところであるが、この研究で患者40人のうち38人(95%)は完全寛解または部分寛解に達した。治療効果が得られなかったのは、副作用や治療関連合併症のために早期に臨床試験を中断した患者においてのみであった。

「8~9種類の治療をやってどれも効果がないという患者が1人いました。本当に治療法が何もなくなっていました。その患者にイブルチニブとリツキシマブを併用する臨床試験に参加してもらい、治療後2年たちますが、彼は今元気にヨーロッパ中を旅行しています」、とBurger医師は言う。「他に治療選択肢のない患者はこの治療なくしてはここにいられません。そういう患者は相当います」。

イブルチニブ単剤治療の患者と同様、イブルチニブとリツキシマブの併用患者も大半は部分寛解に達するのみで、完全寛解に達するのは患者の10%にすぎない。しかし、イブルチニブ単剤治療を受けた患者よりCLLに対する効果が早く表れ、その結果として無増悪生存期間の延長につながっている可能性がある、とBurger医師は話している。MDアンダーソンでは、CLL患者208人を登録して、イブルチニブ+リツキシマブ併用とリツキシマブ単剤を比較する臨床試験が現在進行中である。

Burger医師は、CLL治療におけるBCR経路阻害剤などの標的治療薬の今後は明るいと考えている。「患者はこのような薬を待ち望んでいます。これらの治療薬の臨床試験に登録した患者からのフィードバックは非常に好評です」とBurger医師は述べた。「さらに進んで、われわれはこれらの薬をもっと頻繁に、広範囲に使用していくつもりです。このように標的を絞った治療アプローチは、大部分の患者において、副作用以上に大きな利益をもたらすものと考えています」。

「CLL治療において、細胞毒性のない治療法が求められていると思います」とO’Brien医師は話す。「これらの新しい薬から、新たな併用法の可能性に関する提案が数多く生まれ、将来には細胞障害性のある化学療法が完全になくなるかもしれません」。

— Joe Munch

【画像キャプション訳】
他に治療選択肢のない患者はこの治療(イブルチニブ+リツキシマブ)なくしてはここにいられません。

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翻訳担当者 中村幸子、橋本 仁

監修 佐々木裕哉(血液内科、血液病理/久留米大学病院)

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