Gardasil〔ガーダシル〕ワクチンの安全性

Gardasil〔ガーダシル〕ワクチンの安全性
Gardasilワクチンの安全性に関するFDAおよびCDCからの情報

2009年8月20日

消費者、父兄、医療従事者などから、ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンであるGardasilの安全性に関する疑問が挙げられている。FDAおよび米国疾病予防管理センター(CDC)は、ワクチンの安全性に関する懸念を深刻に受け止め、Gardasilの安全性を慎重に監視している。

下記に示すのは、Gardasilワクチンの安全性監視活動および結果の概要である。FDAおよびCDCはワクチン安全性情報の継続中評価に基づいて、Gardasilが安全かつ有効なワクチンであるかどうかを検討している。また、国民の健康と安全を最優先事項と考え、本ワクチンの安全性を継続して監視している。

Gardasilの背景
FDAは2006年6月8日にGardasilを承認した。本剤は、ヒトパピローマウイルス(HPV)16型および18型を原因とする子宮癌、外陰部癌および膣癌やHPV 6型および11型を原因とする生殖器疣を予防するため、9〜26歳の女性を対象として承認された。CDCの予防接種諮問委員会(Advisory Committee on Immunization Practices:ACIP)は、11〜12歳の女児を対象として一定間隔で3回のワクチン接種を推奨した。本ワクチンはまた、13〜26歳の女児や女性のうち、まだワクチン接種の経験がないものや接種回数3回未満のものにも推奨されている。

約21,000人の女児および女性を対象とした試験が、Gardasilの安全性および有効性を評価するため、FDAによる承認を受ける前に実施された。試験参加者の約半数が本ワクチンを受け、残りの半数が対照薬を受けた。これらの試験によると、HPV 6型、11型、16型および18型に感染していない女性では、子宮癌、外陰部癌および膣癌に進行することの多い前癌病変を予防するうえで、またこれらのHPV型を原因とする生殖器疣を予防うえで、本ワクチンは非常に有効であった。

本ワクチンは重要な子宮癌予防ツールであり、数百万人の女性の健康に有益であると考えられる。米国では毎年、女性約12,000人が子宮癌の診断を受け、約4,000人が子宮癌で死亡する。世界的には、子宮癌は女性で最も一般的な癌の2番目に挙げられ、年間で新規診断例は470,000例、死亡例は233,000例と推定されている。

Gardasilの安全性の監視
ワクチン安全性概要

FDAおよびCDCはワクチン有害事象報告システム(VAERS)を介し、あらゆるワクチンの安全性を慎重に監視している。VAERSは、米国においてGardasilや全承認済みワクチンの使用後に発現した副作用の可能性のある(関連性)未確定の有害事象報告を受領している。VAERSの報告は、有害事象(副作用の可能性)に関する安全性の懸念や傾向について、定期的に審査されている。

ワクチンはロットとよばれるバッチで製造される。すべてのワクチンロットは使用前に慣例的に検査を受け、すべての検査に合格しなければならならず、またワクチン製造者は厳格な製造基準を満たさなければならない。FDAはまた、各ロットに関連する有害事象(副作用の可能性)を分析し、異常な傾向がみられれば調査する。本ワクチンが承認されて以降、そのような傾向はHPVワクチンロットのFDA審査で認められたことはなかった。

CDCにはVAERSに加え、すべての承認済みワクチンの安全性を監視するためのシステムが他に2つある。ワクチン安全性データリンク(Vaccine Safety Datalink:VSD)プロジェクトはCDCと8つの管理医療団体による共同事業であり、ワクチンの安全性を監視し、予防接種後の稀かつ重篤な副作用に関する科学的知識の隔たりに対処している。臨床予防接種安全性評価(Clinical Immunization Safety Assessment:CISA)ネットワークは、米国内の6つのアカデミックセンターによる共同事業であり、ワクチンに伴う有害事象について臨床研究を実施している。

Gardasil接種後の有害事象報告
実施された接種数が多いことを考慮すると、偶然としても、重篤な有害事象や死亡がワクチン接種後の一定期間にこの大規模集団で報告されると予測される。詳細な医学的審査、統計データマイニング(解析)手法および報告率(有害事象数/接種実施数)解析など、われわれの監視や報告書解析は、予測以上の割合で発現する重篤な有害事象を検出することを目的としている。

VAERSでは、予防接種後に発現する多くの事象の報告を受けている。これらの事象にはワクチン接種後の一定期間内に偶然発現していると考えられるものもある一方、ワクチン接種が原因と考えられるものもある。VAERSデータに関するわれわれの解析では、ワクチンに関連すると考えるのが妥当な有害事象のパターンを調査している。有害事象のそれらの傾向については、さらに研究が必要であろう。

2009年8月19日発行のJournal of the American Medical Association(JAMA)誌において、2006年6月の承認から2008年12月31日までにVAERSに報告された一部の有害事象についてGardasilの安全性データを審査した記事(JAMA. 2009; 302(7): 750-757)を、FDAとCDCが共著者となって掲載した。この記事には、Gardasilワクチン接種後に発現した有害事象の報告が12,424件挙げられている。これらのうち、772件は重篤な事象(報告の6.2%)であり、残りの11,652件(93.8%)は非重篤な事象に分類された。製造会社であるMerck and Co.社はこの期間中、米国内でGardasil投与数2,300万回分以上を販売した。この最新情報に含まれる情報は、JAMAに掲載された記事に含まれる同じ情報に基づいている。FDAは、有害事象の報告件数や販売された投与数に関する情報について最新情報を今後更新していく予定である。

Gardasil安全性審査では次の有害事象を審査した:注射部位局所反応、失神、(浮動性)めまい、悪心、頭痛、過敏症反応(発疹など)、蕁麻疹、そう痒(かゆみ)、アナフィラキシー、ギラン・バレー症候群(GBS)、横断性脊髄炎、運動ニューロン疾患、静脈血栓梗塞症(VTE)、膵炎、自己免疫疾患、妊娠および死亡。これらのすべての事象はGardasilの添付文書に掲載されている。VARESでは、Gardasilの報告の大部分が、他のワクチンと比較して高頻度に発現する失神およびVTEであった。しかし有害事象(失神およびVTEを含む)のうち、この安全性審査において、該当する年代や性別の集団やこれらの有害事象の交絡(原因となる既知の他の)因子を有する集団で、予測される以上の割合(有害事象数/接種実施数)で報告されているものはない。

VAERS報告には、失神、注射部位疼痛、頭痛、悪心および発熱が含まれている。失神は、特に思春期の場合に注射やワクチン接種の後で発現することが多い。失神後の転倒は頭部外傷などの重篤な外傷の原因となる場合があるが、ワクチン接種後15分間程度座らせておくなどの簡単な対応で予防できる。FDAおよびCDCでは予防接種の実施者に対し、転倒して負傷する可能性を避けるためにワクチン接種後15分間注意深く監視するよう推奨している。FDAは2009年6月9日に添付文書の改訂を承認し、警告および注意の項目にこの情報を掲載し、また失神した場合には強直性間代性(痙攣)運動や発作行動の発現が認められることもあることを示す新情報を追加した。FDAおよびCDCはまた新学期予防接種キャンペーンの一環として、医療従事者に対して失神や失神を原因とする外傷の可能性を予防するための対応策を取るよう推奨している。

Gardasil投与を受けた人々にて血栓塞栓性障害(血液凝固)が発現したとVAERSに報告されている。これらの大半は、血栓の危険性を上昇させると知られている経口避妊薬を使用するなど、血液凝固の危険因子を有していた。JAMAの記事には56例が掲載されているが、そのうち31例は血液凝固の報告例として確認された。28例(90%)は、ホルモン産生制御、遺伝的凝固異常、肥満、喫煙および不動状態などの危険因子を基礎疾患として保有していた。CDCのVSDでは、450,000回以上のGardasil投与が行われた後でも、血液凝固が予測以上に発現するとは認められなかった。

Gardasil投与後における死亡例の報告について懸念が上がっている。2008年12月31日時点で、32件の死亡例がVAERSに報告されている。本ワクチンによって引き起こされたことを示唆する死亡の共通傾向はない。剖検結果、死亡証明書および医療記録のある症例の大多数では、死因は本ワクチン以外の因子であるとされている。

Gardasilワクチン接種後におけるギラン・バレー症候群(GBS)も報告されている。GBSは筋力低下を引き起こす稀な神経障害である。本疾患は、ワクチン接種を受けていなくともさまざまな特定の感染症の発症後に突然発現する。FDAおよびCDCは、VAERSに提出されたGBSの報告を審査した。現在までに、Gardasilによって通常予測される以上にGBS発現率が上昇することを示すエビデンスは認められていない。われわれはVAERSに提出されたGBSの報告を慎重に分析しているが、同データからはGardasilとGBSの関連性は現時点で示唆されていない。

VAERSデータは受動的報告システムの多くの制限を受けているため、FDAおよびCDCは他の監査ツールも利用している。これは、8つのマネージドケア(管理医療)団体と共同するCDCのVSDであり、450,000回以上のGardasil投与と関連する健康記録を現在有し、いくつかの考えられる危険性(血栓性事象[血液凝固]、痙攣、失神、虫垂炎、アナフィラキシーおよびGBS)に焦点を当てている。現在までに、VSDの研究において安全性の警鐘やこれらの事象に関する懸念は認められていない。また、製造会社は本ワクチンの安全性をさらに評価するため、大規模な製造販売後調査を行うことになっている。

要約
FDAおよびCDCが現在得られている情報を審査した結果、依然としてGardasilは安全かつ有効であり、その有益性は危険性を上回っている。

CDCはGardasilの使用に関して推奨を変更していない。FDAも本ワクチンの使用方法について処方情報に変更を加えていない。また、FDAは定期的に製造情報を審査しているが、Gardasilの安全性、純度および効力に影響を与える問題を特定していない。

国民の健康および安全性はFDAおよびCDCにとって優先事項である。すべての承認済みワクチンと同様に、われわれはGardasilの安全性を慎重に監視している。FDAおよびCDCはGardasilについて、安全かつ有効なワクチンであり、女性における子宮癌、外陰部癌および膣癌、生殖器疣、およびその他のHPV関連の生殖器疾患を引き起こす本ワクチン内のHPV型から防御することで、数百万人の女性の健康に利益があるであろうと考えている。

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齊藤 芳子 訳
後藤 悌(呼吸器内科/東京大学大学院医学系研究科)監修 
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原文


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