嚥下機能を維持する治療

MDアンダーソン OncoLog 2018年8月号(Volume 63 / Issue 8)

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放射線治療を受ける頭頸部がん患者を対象とした複数の嚥下機能維持治療法を検証する新試験

放射線療法によって頭頸部がん患者の多くが治癒するが、嚥下障害をおこすことがあり、患者のQOL(生活の質)が低下したり、栄養不良や肺炎の危険にさらさらされたりすることがある。頸部への放射線治療中に嚥下訓練を行うと嚥下障害が回避されたり、軽減されたりするが、訓練の最適な方法はまだ確立していない。嚥下訓練実施の適切な時期やその強度を見極めるため、テキサス大学MDアンダーソンがんセンターが多施設ランダム化試験を主導した。

「単一施設で行った小規模試験や後ろ向き研究のデータでは、強度の高い嚥下訓練によって、頸部への放射線治療中に嚥下能力を維持できることが示されました」と、頭頸部外科の准教授で言語聴覚セクションの研究担当副部長であるKate Hutcheson博士は語る。「ですが、最近のコクランレビューでは、十分な検出力のあるランダム化比較試験がないとして、この分野の最良の治療法を明らかにすることができませんでした」。

嚥下訓練ガイドライン作成のデータを集めるため、Hutcheson医師らは、発症後治療群(嚥下障害発症後に訓練を開始)と、治療強度の異なる2種類の事前嚥下訓練を行う群とを比較するランダム化比較試験を考案した。PRO ACTIVE (No. NCT03455608)と名付けられた本試験は、頭頸部がんに対し根治目的で放射線療法を行う予定の患者の登録を最近開始した。

臨床試験

PRO ACTIVE試験は、頸部両側に総量60 Gy以上の放射線照射を6~7週間行う患者を対象としている。登録時に嚥下障害のある患者は除外する。登録時に、患者を発症後治療群と低強度事前嚥下訓練群、高強度事前嚥下訓練群にランダムに割付けた。

発症後治療群の患者には、最初は嚥下訓練を行わない。放射線治療期間中、質問票で毎週患者の症状をモニターし、食事や飲み物でむせる傾向がみられたり、栄養チューブが必要になったりするなど、嚥下困難の症状が現れる患者には強度の高い嚥下訓練を開始する。

低強度事前嚥下訓練群の患者は、放射線治療の開始時点に医療言語聴覚士と面談し、その後2週間ごとに面談を行う。放射線治療の期間中,医療言語聴覚士は患者に毎回の食事の際に励行すべきことを指導し,そのことが安全な食物や,やや難しい段階の食物摂取ができることとしている。この嚥下訓練法は、食事に関わる筋肉を使い続けることでその機能を温存できるという考えを前提にしている。また,摂取する食物は図の階段で示されているように,様々なレベルの難度を持っていることを理解するように,医療言語聴覚士は患者に指導することとしている。「放射線治療中に、嚥下チャレンジの階段のできるだけ上のレベルで可能な限り長く維持するのが目標です」。とHutcheson医師は述べた。

高強度嚥下訓練群の患者は、低強度嚥下訓練群と同じ訓練を行うが、さらに嚥下に使う筋肉を鍛えるためのエクササイズも毎日行う。この訓練はMDアンダーソンの嚥下障害予防プログラムで行われているものと同様である(Swallowing Therapy for Head and Neck Cancer Patients, OncoLog, February 2016を参照)。

それぞれの治療の有効性は、患者が栄養チューブを用いた期間、ビデオX線透視(VF)で測定した嚥下力、症状スコアとQOLアンケートで測定する。「高強度事前嚥下訓練が最良の結果をもたらすと仮定しましたが、負荷の少ない低強度の訓練が、少ない負担で嚥下能力を維持する方法であるということになるかもしれません」とHutcheson医師は語る。

アクセスの拡大

PRO ACTIVE試験は米国とカナダの複数施設で登録を行っている。ヒューストンでは、テキサス医療センターのMDアンダーソン本院のほかに、シュガーランド、ベイエリア、ケイティの各分院で行っている。

「以前は、ヒューストン近郊の分院で放射線療法を受ける患者が嚥下訓練を行う場合は本院に来なければならなりませんでしたが、今は各施設において嚥下訓練のほかにも頭頸部がん患者向けに医療言語聴覚的な様々なサービスを行う予定です」と Hutcheson医師は語った。

キャプション】
嚥下訓練では医療言語聴覚士(speech pathologists)が患者を指導し、「嚥下チャレンジ」という観点から、上図に示されている各階段の食物を捉えてもらうようにする。“EAT Through Radiation,”から転載。© University Health Network in Toronto.

For more information, contact Dr. Kate Hutcheson at 713-792-6513 or karnold@mdanderson.org. For more information about clinical trials at MD Anderson, visit www.clinicaltrials.org

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翻訳担当者 大倉 綾子

監修 松本 恒(放射線診断/仙台星陵クリニック)

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