食道癌手術

MDアンダーソン OncoLog 2017年10月号(Volume 62 / Issue 10)

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食道切除術を回避する早期がん、異形成の内視鏡手術‐アブレーション治療

最近まで食道がん患者は、食道切除術、つまり食道病変部の切除および周囲リンパ節郭清と、その後の再建によって治療されていた。がん化のリスクが高い高度異形成を伴うバレット食道も、同様に治療されていた。しかし、食道切除術は、食事の制限や水平な体位で寝ることができないなど、生活様式に大きな変化をもたらす。また、手術自体が高齢の患者にとって危険となる場合もある。現在では、増加しつつある早期食道がんや異形成のバレット食道の患者を、食道温存手術およびアブレーションで効果的に治療することができる。

テキサス大学MDアンダーソンがんセンターの医師たちは、食道がんの診断、治療、予防に新しい方法を取り入れている。新しい治療の中には、食道を温存しながら内視鏡的に早期の腫瘍または異形成細胞を除去する局所療法がある。

「2007年頃に当院MDアンダーソンで早期の食道疾患の局所治療を行うプログラムを開始した」と、胸部・心臓血管外科学教室の教授で、食道手術プログラムのディレクターでもあるWayne Hofstetter医師は語った。 「前がん病変対してはアブレーションを、早期がんに対しては内視鏡下の粘膜切除とその後のアブレーションを行っている」。

ステージ診断

適切な治療法を決定するために、食道がんまたは異形成バレット食道の疑いのある患者には、ステージ分類の検査が徹底的に行われる。通常この検査には腫瘍組織を特定し、食道壁の浸潤度やリンパ節転移を診断するための超音波内視鏡検査が含まれる。

バレット食道による食道領域内の異形成部位、つまり酸や胆汁への曝露によって生じた前がん性の粘膜を特定するために、必要に応じて高度な内視鏡画像技術が用いられる。このような方法の一つには、共焦点内視鏡検査法がある。共焦点内視鏡検査は実況中継の病理検査のようなものである。内視鏡を通してプローブを挿入すると実際の細胞を見ることができる」と、胃腸・肝臓・栄養学科教室の教授であるMarta Davila医師は述べている。もう一つの方法は、食道の正常な粘膜下にある腸上皮化生腺(すなわち、バレット腺)を視覚化する容積計測型レーザー内視鏡(volumetric laser endomicroscopy)検査である。

内視鏡的粘膜切除(EMR)

検査により表在性と考えられる食道腫瘍の患者は、口と咽頭を介して根治的に食道を切除する、EMRを受けることができる。

EMRでは食道への全層損傷を回避することができ、患者にとって開胸・開腹手術よりも耐えることが容易である。開胸・開腹の食道切除術は6時間の手術であり、かなりの生理的予備力と病院での数日間の術後回復を必要とするが、EMRでは患者はわずか45分の麻酔に耐えるだけでよく、より良い生活の質につながる外来手技である。

効果的に行うためには、EMRには高いレベルのケアが必要であるが、まだ広く普及していない。「EMRには広い専門知識が必要である」とHofstetter医師は述べた。 「たくさんの食道がんの経験が必要であり、どこを切るべきでどこを切らないでおくべきか、どの深さまで切るか、いかに積極的に行うかを知っておく必要がある」。

EMRが根治治療であるかどうか、すなわち食道切除術を追加する必要がないかどうかは、切除組織の病理学的診断によって決定される。病理学的診断により、腫瘍が粘膜または表層の粘膜下組織に限局し、幅が2cm未満で、血管への浸潤がなく、切除断端陰性(断端に病巣が残っていない)の場合、患者は外科手術なしで根治切除された可能性が高い。しかし、病理学的診断が上記に当てはまらない場合は、患者は食道切除術を受けなければならない可能性が高い。

食道手術プログラムの経験により、Hofstetter医師らは、2013年に早期食道がんの治療に関する胸部外科学会のガイドラインを改訂した。以前の食道切除のゴールドスタンダードは、アブレーションと組み合わせたEMRによって置き換えられた。全米を代表とするがんセンターで結成されたガイドライン策定組織 (NCCN)ガイドラインも、現在では、EMRを早期疾患の標準療法として指定している。

アブレーション

内視鏡アブレーションは、表在性腫瘍を有する患者に行うEMRの補助療法として、または結節性以外の異形成バレット食道の患者に行う単一治療として使用される。 2つのアブレーション様式のどちらか1つが使用される。一つ目の様式、高周波アブレーションは、熱エネルギーを食道上皮に送り組織の破壊をもたらす。高周波アブレーションは、バルーンカテーテルや内視鏡の先端に取り付けられた金属プレート、または他の装置によって行われる。二つ目の様式、クライオアブレーションは、液体窒素または二酸化炭素のような冷たい気体をプローブの末端から吐出し、異常細胞を凍結および殺傷する。

それぞれの患者に選択されるアブレーション様式は、解剖やバレット病変部位の特性に依存する。 「バレット食道の平坦な部位を治療する場合は、高周波アブレーションが好まれる」とDavila医師は述べた。 「病変部位に小さな結節形成があり、以前にEMRによってがんが除外されている場合は、粘膜よりもやや深い粘膜下層に到達できるクライオアブレーションが好まれるかもしれない」。クライオアブレーションは、高周波アブレーションでは切除できなかった患者にも使用される。

EMRを受け、食道切除術を必要としない患者は、典型的には2〜3ヶ月間隔で3回または4回のアブレーション術を受ける。これらのアブレーションはMDアンダーソンで治療された患者の92〜93%において、残存する異形成およびバレット食道を完全に取り除き、正常な扁平上皮の新たな成長をもたらしている。

低または高悪性度の異形成を有するが、腫瘍結節のないバレット食道の患者は、通常EMRを行わず、すぐに内視鏡下アブレーションを行う。Davila医師は、10年前であればそのような患者の多くは、高悪性度の疾患であるためにがんに進展する可能性が高く、食道切除術を行うよう勧められていたであろうと指摘した。「アブレーションはこの疾患の治療を根本的に変えた。これは画期的なことである」と彼女は語った。

次のステップ

将来、食道温存療法はより多くのタイプの食道がん患者に行える可能性がある。例えば、現在は食道切除術で治療されている局所リンパ節へのがん転移を有する患者の場合、食道内部にはEMRとアブレーションを合わせて行い、病変リンパ節に対しては外科手術または化学放射線療法によって治療できるかもしれない。

また、新しい組み合わせでの全身療法も将来可能性がある。 Hofstetter医師は、「我々は、患者に手術の必要がなくなるところまで、医学療法や化学放射線療法の効果を高める方法を見つけようと努力している」と語った。

技術の進歩は、ベストプラクティスをもさらに高めている。Davila医師はMDアンダーソンと他の数か所のセンターで最近採用された、新しいクライオバルーンアブレーションツールについて説明した。この装置は内視鏡に取り付けるバルーンカテーテルで、膨張すると同時に、使い捨ての携帯用装置から出される亜酸化窒素によって冷却される。バルーンは、他のアブレーションデバイスでは操作することが困難な狭い領域で、特に有用である。

全体的に、MDアンダーソンの食道手術プログラムは食道がんを治療する第一線の方法に焦点を当て、早期の病気の患者のためにより良い前向きな選択肢を探し続けている。 「我々はいつも、がんの初回治療が最善の治療である、と言っている」とHofstetter医師は語った。

【写真キャプション訳(上段)】

左:悪性および異形成の特徴を有する病変を示す(矢印)内視鏡画像。

中央:内視鏡的粘膜切除中、病変はアブレーション(白い部分)によってマークされている。

右:病変の除去後の食道。 画像は、Wayne Hofstetter医師の厚意により掲載。

【写真キャプション訳(下段)】

内視鏡に取り付けられた高周波アブレーションカテーテル(画像の上部)で治療されているバレット食道の一部。 Marta Davila医師の厚意により掲載。

For more information, contact Dr. Marta Davila at 713-563-4382 or mdavila@mdanderson.org or Dr. Wayne Hofstetter at 713-563-9130 or whofstetter@mdanderson.org.

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翻訳担当者 中村 奈緒美

監修 林 正樹(血液・腫瘍内科/社会医療法人敬愛会中頭病院)

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