修正FOLFIRINOX術前療法は、すい臓がんの生存率を改善

NCI Alliance試験により、FOLFIRINOX療法が望ましい治療法として確立される

切除可能境界膵がん患者を対象とした試験で、修正FOLFIRINOX療法による術前化学療法は、過去のデータよりも相対的に、あるいはFOLFIRINOX+寡分割照射療法と比較して、良好な生存が得られたことが、7月14日付JAMA Oncology誌に発表されたテキサス大学MDアンダーソンがんセンターの研究により明らかにされた。

米国国立がん研究所(NCI)の全米臨床試験ネットワーク(NCTN)の一部である多施設ランダム化第2相試験Alliance A021501試験は、このような患者に望ましい治療法として術前(ネオアジュバント)FOLFIRINOX療法を確立した。

本試験の初期結果は、米国臨床腫瘍学会2021の消化管がんシンポジウムで初めて発表された。

術前に修正FOLFIRINOX療法を受けた患者の18カ月全生存 (OS)率は66.7%であり、事前に選択したヒストリカルコントロール(既存の試験で得られたデータ)での 全生存率50%と、FOLFIRINOX療法後に放射線療法を受けた患者の全生存率47.3%の双方を上回った。術前FOLFIRINOX単独療法を受けた評価可能な患者のOS中央値は29.8カ月であり、放射線療法も受けた患者では17.1カ月であった。

「この患者集団の周術期の全身化学療法には明確な役割がある」と臨床試験責任医師のMatthew Katz医師(外科腫瘍学教授)は述べている。

「この研究から、主要な血管を巻き込んでいると思われる膵がんも、FOLFIRINOX療法後に良好な結果が得られれば、安全に切除できることがわかった」。

切除可能境界膵がんと診断された患者には、腹部の主要な血管を巻き込んでいる腫瘍がある。このような腫瘍を切除するには、複雑な手術が必要であり、全患者に効果があるわけではない。前治療を行わないと、術後短期間でがんが再発することが多い。術前化学療法は、がんを治療することと、手術が最も効果的であると思われる患者を選択するための両方の目的に用いられる。

切除可能境界膵がんでは化学療法と放射線療法が併用されることが多いが、最適な治療法については意見が分かれるところである。過去20年間に放射線治療に関する複数の試験が実施されたにもかかわらず、術前化学療法を支持するデータには一貫性がなく、その役割も依然として曖昧である。

本試験の目的は、切除可能境界膵がんに対する2つの術前化学療法を評価することであった。一つはFOLFIRINOX化学療法単独(フルオロウラシル[5-FU]、ロイコボリン、イリノテカン、オキサリプラチン)であり、もう一つは全身化学療法後に体幹部定位放射線治療(SBRT)を実施するものである。目標は、どちらか一方または両方の治療法を標準治療として確立し、将来の臨床試験で新規薬剤を追加するための治療の柱を特定することであった。

本試験では、米国の50施設で治療を受けている患者126人を対象とし、全身療法(70人)または全身療法と寡分割放射線照射法(56人)に無作為に割り付けた。各群に登録された評価可能な最初の30人のうち、化学療法単独群の17人および併用群の10人は完全切除を受けており、切除断端陰性であったため、併用治療群の患者登録を終了し、化学療法群の登録者が定員に達するまで継続した。

本試験では、全米で登録された120人中104人が白人であった。これは、より多様な患者を米国の膵がんの臨床試験に登録するためのシステムを開発する必要性を示している。

画像診断で基準を満たした患者を8サイクルのFOLFIRINOX化学療法または7サイクルのFOLFIRINOX+SBRTまたは寡分割放射線照射法による画像誘導放射線療法に無作為に割り付けた。再度病期分類を行ったのち、手術に適した患者には膵切除術を施行し、その後、フォリン酸、フルオロウラシルおよびオキサリプラチン(FOLFOX)の術後補助化学療法を4サイクル実施した。

化学療法単独群38人および化学療法+放射線療法群28人にプロトコルに基づいて手術を施行した。化学療法単独群32人および化学療法+放射線療法群19人に膵切除術を施行した。膵切除術を施行した患者のうち、化学療法単独群28人(88%)および化学療法+放射線療法群14人(74%)で完全切除(切除断端陰性)を達成した。

いずれの治療法も忍容性は良好であった。FOLFIRINOX治療に関すると思われるグレード3以上の有害事象で最もよくみられたのは、下痢(18%)、低カリウム血症(14%)および好中球減少症(12%)であった。放射線療法でよくみられたグレード3以上の有害事象は貧血(5%)であった。

「このような試験結果を踏まえると、『境界切除可能』とされた腫瘍を有する患者全員に、その後の膵切除術を見越して、FOLFIRINOXを4カ月間投与する必要があると考えている」とKatz医師は述べている。「このデータは、切除可能境界膵がんに対する今後の試験を構築し、患者に良い治療法と予後を提供するための基盤となる」。

本試験は、術前化学療法という状況のもと、化学療法と化学療法+放射線療法を直接比較するデザインではなかった。このような状況下での放射線療法の役割は依然として定まっていない。特定の患者が術前放射線療法から便益を得ることができるかどうかを明らかにし、その患者集団を明確にするにはさらに検討を重ねる必要がある。

本試験は、有望な新しいがん治療法の臨床試験を開発・実施し、最高の科学を駆使してがんの最適な治療法や予防戦略​、およびが​んやがん治療による副作用を軽減する研究法を開発するAlliance for Clinical Trials in Oncologyによる支援を受けたものである。Allianceは、米国国立がん研究所(NCI)の支援を受けている全米臨床試験ネットワーク(NCTN)の一部であり、NCI Community Research Oncology Program (NCORP)の研究基盤として機能している。Allianceは、米国とカナダの病院、医療センターおよび地域診療所の10,000人近い専門医で構成されている。

本試験は、米国国立衛生研究所の国立がん研究センターの支援を受けた(U10CA180821、U10CA180882、 U24CA196171、 UG1CA189960、 UG1CA233180、UG1CA233290、 UG1CA233329、UG1CA233331、 U10CA180820、 U10CA180868およびU10CA180888)。Katz医師には利益相反はない。共同研究者の完全な一覧表と開示情報については、本論文を参照のこと。

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日本語訳監修 :泉谷昌志(消化器内科、がん生物学/東京大学医学部附属病院)

翻訳担当者 渡邉純子

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