欧州における膵臓がん死亡率低下のための投資が必要、他[Annals of Oncology誌プレスリリース]

EUと英国では、2021年に上位10種のがんによる死亡者数が140万人を超えると研究者が予測。付随論説では死亡率に対するCOVID-19の悪影響を警告。

Annals of Oncology誌プレスリリース

研究者らは、膵臓がん治療への取り組みに十分なリソースの提供を欧州各国の政策担当者に求めた。膵臓がんはほとんどの場合死に至る疾患であり、過去40年にわたりほとんど研究に進歩がみられていない。

有力ながん専門誌Annals of Oncology誌[1]に本日(月曜日)掲載された、伊ミラノ大学教授のCarlo La Vecchia医師らの2021年のEUと英国におけるがんによる死亡に関する最新予測では、男性の膵臓がん死亡率はほぼ横ばい、女性についてはほとんどのEU諸国で引き続き上昇すると述べられている。

2021年末までにEUで42,300人、英国で5,000人の男性が膵臓がんにより死亡すると研究者らは予測する。人口の年齢分布の違いを調整した2021年の男性の年齢調整死亡率は、EUで10万人当たり8人、英国で10万人あたり6.5人となる[2]。これは、2015年と比べて0.8%の減少である。女性では、EUで10万人当たり6人が膵臓がんにより死亡すると予測され、2015年と比較して0.6%の増加である。英国では10万人あたり5人が死亡し、死亡率は4%減少すると予測されている。

これに対して、他の主要ながん10種のうち9種については、2015年から2021年の間にEUのほとんどの国と英国において男性では7%、女性では5%の死亡率低下が予測されている

「膵臓がんは、主要ながんの中で4番目に多いがんであり、欧州における死亡率が過去30年にわたり男女とも全体的に低下していない唯一のがんです。こういった傾向を近い将来に改善するため、政府及び政策担当者は膵臓がんの予防、早期診断と管理に関する十分な資源を提供することが重要です」と、La Vecchia教授は述べた。

「早期にがんが検出できれば治療が成功しやすくなりますが、ほとんどの膵臓がん症例は、診断時点ですでに進行しています。喫煙と過度の飲酒を避けること、体重をコントールして糖尿病にならないようにすることなどが膵臓がんの予防に役立つと思われていますが、これらの要素は症例の一部にあてはまるにすぎません。新しい標的薬によって治療法は改善されつつありますが、それらがどれほど治療成果を改善しうる可能性を秘めているかを推しはかることは現時点では困難です」。

研究者らは、EU加盟国27か国 [3]全体のがん死亡率を解析し、これに英国の解析結果を加えることにより英国がまだEUに加盟していた過去の結果と比較できるようにした。また、最も人口の多い6カ国(フランス、ドイツ、イタリア、ポーランド、スペイン、英国)については、全がん種の死亡率と、個別に胃がん、腸がん、膵臓がん、肺がん、乳がん、子宮がん(子宮頸がんを含む)、卵巣がん、前立腺がん、膀胱がん、白血病のがん死亡率を男女別に調べた [4]。研究者らはこれらの予測を11年連続で発表している。La Vecchia教授らは、1970年から2016年の間の死亡に関するデータを世界保健機構(WHO)とEU統計局(Eurostat)のデータベースより収集した。

2021年における10種のがんによる死亡者数はEUと英国で合計1,443,000人(EU:1,267,000人、英国:176,000人)と研究者らは予測する。これは、EUにおける年齢調整死亡率が男性で10万人当たり130人(2015年以後7%減少)、女性で10万人当たり81人(5%減少)であることを意味する。英国の年齢調整死亡率は、男性が10万人当たり114人(2015年以後7.5%減少)、女性が10万人当たり89人(4.5%減少)となる。

がん死亡率のピークとなった1988年と比較すると、2021年までの33年間で、EUでは490万人以上、英国では100万人以上のがん死亡を避けることができたと推定される。2021年だけでもEUと英国において、それぞれ348,000人と69,000人のがん死亡が避けられると予測される。

喫煙パターンの変化、食糧貯蔵法の改善、治療法の向上が、肺がん、胃がん、乳がんなどの死亡率の低下に大きく寄与している。その一方、男性の肺がん死亡率が減少しているのに対して、多くの国で女性の死亡率はまだ増加しており、これは、女性は男性に比べて20世紀の遅い時期に喫煙を開始する傾向にあった事実を反映している。EUでは、男性の肺がん死亡率は10万人当たり32人(10%減少)であるが、女性では10万人当たり15人(7%増加)と予測される。英国では状況が異なり、男性で11.5%減少(10万にあたり24人)、女性で5%減少(10万人当たり19人)である。

「英国の男性の肺がん死亡率は、27のEU加盟国に比べて25%低いですが、これは男性の喫煙率が英国ではより早く、より大きく減少したことによります。このことは、がん全体の死亡率が英国男性で低いと予測されることにも反映されています。EUにおいても英国よりは遅いものの男性の禁煙が進んでおり、EU諸国において男性の肺がん死亡率が低下すると予測されるのはこのためです」と、共著者でローザンヌ大学(スイス)生物学・医学部名誉教授のFabio Levi博士(医師)は述べた。

「英国女性の肺がん死亡率はEU諸国よりも高く、このことは女性のすべてのがん全体の死亡率が英国において高いことに反映されています。しかし、英国女性の肺がん死亡は望ましい減少傾向を示すと私たちは予測しています。これとは対照的に、EU諸国女性では持続して増加傾向にあり今後10年間に肺がん死亡率が10万人当たり16人から18人にも達する可能性があります」。

「欧州では、がんは依然として心血管疾患に次ぐ主要な死亡原因となっています。今年は、多くのがんの死亡率が減少すると私たちは予測していますが、高齢化により死亡の絶対数は増加し続けるでしょう。このことが、がん対策の公衆衛生上の重要性が増していることの根底にあります。COVID-19パンデミックのためにがんの診断や治療が遅れることで、がんの疾病負荷が今後数年間にわたり増加する可能性があります」と、共著者でAnnals of Oncology誌疫学担当編集委員、Stony Brook大学(米国 ニューヨーク)人口科学部教授/アソシエイトディレクター、ボローニャ大学(イタリア)教授のPaolo Boffetta教授は述べた。

「私たちの今年の報告では、膵臓がんと女性の肺がんの死亡率の今後の推移が、他の主要ながんのような良好なパターンを示していないこと、これらのがんの研究とコントロールにさらなる努力が必要であることを特に強調しており、とりわけ重要なものです」。

「がん死亡率を継続して改善するための方策としては、禁煙(とくに女性)、体重と飲酒量のコントロール、乳がん、大腸がん、(中欧および東欧での)子宮頸がんの検診と早期診断の最適化が考えられます。欧州全域、特に中欧と東欧で最新のデータマネジメントが導入される必要があります。ヒトパピローマウイルスにより引き起こされる子宮頸がんをなくすために女性が広くワクチンを受けられるようにするとともに、肝臓がんに関連するB型肝炎ウイルスに対するワクチンも広く受けられるようにするべきです。また、C型肝炎の効果的な治療は肝臓がんのコントロールにも貢献します」。

記事に付随する論説[5]でバレンシア大学(スペイン)のJosé Martín-Moreno教授とEuropean Observatory on Health Systems and Policies(ベルギー ブリュッセル)のSuszy Lessof氏は、La Vecchia教授らによる11年にわたる死亡予測は称賛されるべきものであり、「過去を理解し、未来にどうアプローチするかの鍵はデータでにある」と述べている。これは希望の持てる解析結果であるとMartin-Moreno氏らは信じている一方、がんは「COVID-19感染者にとって重大なリスクファクターであり、ICU入院、人工呼吸器装着、死亡の可能性が高い」ことから、COVID-19がもたらす潜在的な課題も強調している。

「長期的に良い結果をもたらす効果的なアクションの余地があるという具体的なエビデンスがLa Vecchia教授の論文の肯定的な面であるわけですが、COVID-19パンデミックの影の部分を覆い隠してはなりません。パンデミックのがん患者に対する影響(とそれによる恐怖)は差し迫ったものです。この新型コロナウイルスが免疫不全者や特に弱い立場にある人々に直接的に害を与えるばかりでなく、包括的な臨床ケアへの打撃や研究の中断といった影響もあります。長期的に最も懸念されるのは、おそらく予防プログラム、検診、早期診断が停滞することでしょう。2020年3月以後、ここ数十年進歩してきたこれらの活動がすべて突然中止となりました。コロナウイルスがもたらした影響の全体像を描写するにはもちろん時期尚早ですが、劇的にとは言わないまでも著しい影響をもたらすものになったことは避けられそうにありません」とMartin-Moreno氏らは記している。「COVID-19パンデミックが2020年、2021年、そしてそれ以降の実際の死亡率に影響を与える可能性があり、警戒が必要です」と彼らは結論する。

  1. “European cancer mortality predictions for the year 2021 with focus on pancreatic and female lung cancer”, by G. Carioli et al. Annals of Oncologyhttps://doi.org/10.1016/j.annonc.2021.01.006
  2. Age-standardised rates per 100,000 of the population reflect the annual probability of dying.
  3. At the time of this analysis, the EU had 27 member states, with Croatia joining in 2013 and the UK leaving in 2020. However, Cyprus was excluded from the analysis due to excessive missing data.
  4. The paper contains individual tables of cancer death rates for each of the six countries.
  5. “Predictions of cancer mortality in Europe in 2021: room for hope in the shadow of COVID-19?” by José M. Martín-Moreno and Suszy Lessof. Annals of Oncologyhttps://doi.org/10.1016/j.annonc.2021.02.001

翻訳担当者 伊藤彰

監修 橋本仁(獣医学)

原文を見る

原文掲載日 

【免責事項】
当サイトの記事は情報提供を目的として掲載しています。
翻訳内容や治療を特定の人に推奨または保証するものではありません。
ボランティア翻訳ならびに自動翻訳による誤訳により発生した結果について一切責任はとれません。
ご自身の疾患に適用されるかどうかは必ず主治医にご相談ください。

膵臓がんに関連する記事

意図せぬ体重減少はがんの兆候か、受診すべきとの研究結果の画像

意図せぬ体重減少はがんの兆候か、受診すべきとの研究結果

ダナファーバーがん研究所意図せぬ体重減少は、その後1年以内にがんと診断されるリスクの増加と関連するという研究結果が、ダナファーバーがん研究所により発表された。

「運動習慣の改善や食事制限...
定位放射線療法(SBRT)と増感剤スーパーオキシドの併用は膵臓がんの治療成績を改善の画像

定位放射線療法(SBRT)と増感剤スーパーオキシドの併用は膵臓がんの治療成績を改善

MDアンダーソンがんセンター高線量の体幹部定位放射線療法に対する腫瘍の放射線感受性を高める局所進行膵臓がんにおいて、増感剤と特定の放射線療法との併用がより効果的で、より高い無増...
膵がん患者の不安治療にロラゼパム投与は転帰の悪化に関連か ーアルプラゾラムは有効の画像

膵がん患者の不安治療にロラゼパム投与は転帰の悪化に関連か ーアルプラゾラムは有効

米国がん学会(AACR)がん治療中の不安に対して一般的に処方されるベンゾジアゼピン系薬剤であるロラゼパム(販売名:ワイパックス)を使用した膵がん患者は、使用しなかった患者よりも無増悪生...
膵がんワクチンにニボルマブとウレルマブを併用で膵がんの免疫系反応が促進の画像

膵がんワクチンにニボルマブとウレルマブを併用で膵がんの免疫系反応が促進

ジョンズホプキンス大学外科手術可能な膵がん患者に膵がんワクチンのGVAX、免疫チェックポイント治療薬のニボルマブ(販売名:オプジーボ)、抗CD137アゴニスト抗体治療薬のウレルマブ(u...