膵臓がんの治験用RNAワクチンに対する免疫応答は、臨床的有用性と相関

中央値3年間の追跡調査結果

切除可能な膵臓がんの特定の患者において、autogene cevumeran(オートジーン セブメラン:治験中の個別化されたネオアンチゲン特異的mRNAワクチン)を含む術後治療レジメンは、持続的かつ機能的なT細胞応答を誘導し、疾患再発リスクの低下と関連することが、3年間の追跡調査結果によって明らかになった。この結果は、4月5日から10日まで開催された米国癌学会(AACR)年次総会2024で報告された。

膵臓がんは致死率の高い疾患であり、手術を受けた場合でも、診断から5年後に生存している患者の割合は約13%に過ぎないと、Vinod Balachandran医師は説明する。外科腫瘍医の同医師は、スローンケタリング記念がんセンターのDavid M. Rubenstein膵がん研究センターに所属している。「化学療法、放射線療法、標的療法、そして現在の免疫療法も、膵臓がんにはほとんど効果がないため、命に関わるこの病気に直面している患者には新たな治療法が大至急必要です」。

がんは患者自身の細胞から発生するため、免疫系ががん細胞を異物として識別し、それに対する反応を起こすことは難しい、とBalachandran氏は説明する。がんワクチンは、がん細胞を認識するように患者の免疫細胞を訓練することによって、抗腫瘍免疫反応を活性化することを目的としている。

研究者たちは、個々の腫瘍の変異によってネオアンチゲン(※がん細胞特有の遺伝子変異などによって新たに生じた抗原)が生じることを発見した。ネオアンチゲンは、がん細胞にのみ存在し、免疫反応を引き起こすタンパクであり、これによってネオアンチゲンは免疫療法の格好の標的となる。「ネオアンチゲン特異的がんワクチンは、患者ごとにオーダーメイドする必要があるため、迅速な製造と送達、そして強固な免疫活性化を可能にする技術が必要でした」とBalachandran氏は指摘する。

これらの要件に対処するため、Balachandran氏らは、各患者の腫瘍から同定された最大20の個別化されたネオアンチゲンを標的として、mRNAベースのがんワクチンであるオートジーン セブメランの使用を検討した。Balachandran氏は、mRNAプラットフォームによって、比較的迅速にワクチンを製造し、患者の治療を大幅に遅らせることなく患者に届けることができるかもしれないと説明した。

Balachandran氏らは、切除可能な膵がん患者を対象に、アテゾリズマブ(販売名:テセントリク)と修正FOLFIRINOX化学療法との併用による術後補助療法としてのオートジーン セブメランの安全性と免疫原性を評価するために、医師主導の単施設第1相臨床試験を実施した。先行して報告された臨床試験の結果では、この治療法は忍容性があり、実行可能であり、評価可能な患者16人中8人で免疫応答(強く応答するネオアンチゲン特異的T細胞の増加を測定)が誘発された。さらに、追跡調査期間中央値1.5年において、ワクチンによるT細胞応答を得た患者8人の無再発生存期間中央値は未到達であり、得られなかった患者8人の13.4カ月と比較して有意に長かった。

今年のAACR年次総会で、研究者らは拡大追跡調査の結果を報告した。追跡期間中央値3年後における無再発生存期間中央値についても、ワクチンによりT細胞応答が得られた患者8人では未到達であり、免疫応答が得られなかった患者8人(13.4カ月)と比較して有意に長かった。

さらに、オートジーン セブメランは応答患者8人において複数のCD8+ T細胞クローンの増大をもたらし、そのうちの98%はワクチン接種前には血液、腫瘍、隣接組織には存在しなかったものである。増大したCD8+ T細胞クローンの80%以上が、かなりの割合(中央値で全血中T細胞の0.1%)で長期間血液中に残存した。ワクチン接種後3年以内に単離されたCD8+ T細胞は、患者8人中6人の生体外再チャレンジ実験でも標的ネオアンチゲンに対する反応性を維持した。

「われわれのデータから、オートジーン セブメランはCD8+ T細胞を活性化することができ、その寿命は長く、その強さは相当なものであり、機能は持続的であると考えられます」とBalachandran氏はまとめた。「個別化ネオアンチゲン特異的がんワクチンが、疾患再発遅延と相関する強固な免疫応答を引き起こすという知見は、これらのワクチンの膵臓がん治療アプローチとしての有望性を引き続き支持するものです」。

また、現在進行中のランダム化第2相臨床試験では、切除可能な膵臓がん患者を対象に、オートジーン セブメランとアテゾリズマブ+FOLFIRINOXとの併用療法の有効性と安全性を、標準治療のFOLFIRINOXと比較検討する予定であると付け加えた。

本試験の限界は、サンプルサイズが小さいことと単群デザインであることである。

(試験開示情報は、原文を参照のこと)

  • 監訳 泉谷昌志(消化器内科、がん生物学/東京大学医学部附属病院)
  • 翻訳担当者 山田登志子
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  • 原文掲載日 2024/04/07

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