2012/03/20号◆癌研究ハイライト「喫煙率の低下は肺癌死亡率低下に予想以上に寄与する」「膵臓癌の治療耐性にひそむメカニズムが発見された」「癌のプロファイリングの拡大により急性骨髄性白血病についての手掛かりが得られる」「前立腺癌検診に関するヨーロッパでの試験データで、依然リスク低下がみられた」

同号原文

NCI Cancer Bulletin2012年3月20日号(Volume 9 / Number 6)

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◇◆◇ 癌研究ハイライト ◇◆◇

・喫煙率の低下は肺癌死亡率低下に予想以上に寄与する
・膵臓癌の治療耐性にひそむメカニズムが発見された
・癌のプロファイリングの拡大により急性骨髄性白血病についての手掛かりが得られる
・前立腺癌検診に関するヨーロッパでの試験データで、依然リスク低下がみられた
(囲み記事)
・その他のジャーナル記事:急性リンパ芽球性白血病の小児および青年患者における生存期間の改善

喫煙率の減少は肺癌死亡率低下に予想以上に寄与する

NCIが資金提供を行った研究により、喫煙率の低下はこれまで考えられていた以上に肺癌による死亡率低下に寄与しており、喫煙者がさらに減少していればより多くの死亡を回避できたことがわかった。NCIの癌介入・調査モデルネットワーク(CISNET)の研究者らによる本研究では、コンピュータモデルを用い、米国における喫煙率の低下が肺癌による死亡率に及ぼす影響の定量化を行った。研究結果は3月14日付のJournal of the National Cancer Institute誌に発表された。

研究者らは、3つのシナリオを作成した。1つは実際の喫煙行動に基づいたシナリオ、もう1つは1964年に発表された公衆衛生局長官による喫煙と健康に関する最初の報告を受けてすべての喫煙者が禁煙するというシナリオ、3つ目は報告の発表前と同じ高い喫煙率のままというシナリオ(禁煙政策がまったく実施されないとどうなるかを示すもの)である。

喫煙率の実質的な低下により、1975年から2000年までに平均して795,000人の肺癌患者がその命を救われたと推測された(本計算結果は他の癌種または喫煙関連疾患による死亡は含まない)。1964年の長官報告の翌年である1965年の間にすべての喫煙者が禁煙したとすると、同期間に250万人、すなわち現在のシカゴの人口よりわずかに少ないほどの人数が、肺癌による死亡を回避できたであろう。

推測された死亡率の低下は、それまでの研究で予測されていたものよりもずっと大幅なものであった。これまでの研究に比べ、「(われわれの研究は)ずっと詳細な解析であった」と、共著者であるフレッド・ハッチンソンがん研究センターのDr. Suresh Moolgavkari氏は説明した。「われわれは全米国人について、喫煙歴とそれに関連する肺癌リスクについて根本的に再検討を行った」。

アメリカ癌協会(ACS)のDr. Thomas Glynn氏は付随論評において、CISNET研究は「さらに広範囲にわたって公衆衛生に関する今後の分析の模範となるべきである」と述べた。結果は、「『そうなっていたかもしれない』シナリオがあったことを考えるともどかしいものであるが、もっと重要なのは、米国における今後のタバコ管理についての明確な見解を与えているという点である」と続けた。

研究から得られた知見より、「最初の長官報告から大きな進展を遂げ、喫煙率の低下にも大きく貢献してきたことが示されている」と、共著者であるNCIの癌制御・人口学部門のDr. Eric “Rocky” Feuer氏は述べた。「しかしながら、まだ先は長く、気を緩めてはいけない」。

膵臓癌の治療耐性にひそむメカニズムが発見された

化学療法が膵臓癌細胞に及ぼす作用を阻害する物理的メカニズムおよびそのメカニズムに拮抗する方法について、フレッド・ハッチンソンがん研究センターのDr. Sunil Hingorani氏らは、研究結果を3月19日付のCancer Cell誌で発表した。

膵臓癌で最もよくみられる膵臓腺癌は、化学療法および放射線治療に耐性を示すことで知られており、その結果として5年全相対生存率は5%未満である。遺伝的にヒトの膵臓腺癌と同等の腫瘍を有するマウスを用いた実験により、研究者らは腫瘍の増殖に伴いマトリクス(間質)が分厚くなり、それが腫瘍細胞の周囲を取り囲むことを明らかにした。

マトリクスは腫瘍に対し非常に大きな圧力を与える。その圧力は通常の血管内圧をはるかに超えるほどのものであり、腫瘍の血管の圧迫閉塞を引き起こす。この閉塞が、血流中の化学療法剤が腫瘍細胞に到達するのを阻害する。

Hingorani氏らは、こうした高圧となったマトリクスの大部分を形成するヒアルロン酸という物質を発見した。ヒアルロン酸を分解する酵素であるPEGPH20をマウスに投与すると、腫瘍内の圧力は通常に戻り、血管も通常の形状および機能を取り戻した。

さらにPEGPH20+化学療法剤ゲムシタビンを併用投与したところ、1サイクルの投与のみで膵臓に存在する腫瘍の83%が縮小し、3サイクル終了後には全腫瘍で縮小が認められた。同様の反応は転移性腫瘍でもみられた。この併用療法を受けたマウスの生存期間は、PEGPH20+プラセボを投与されたマウスに比べほぼ2倍に延長した。

「ゲムシタビンは、腫瘍床にうまく入り込めば、この疾患に対し実に有効な薬剤となるだろう」と著者らは述べた。転移性膵臓腺癌患者を対象としたPEGPH20およびゲムシタビンの併用を検討する早期臨床試験が現在実施されている

癌のプロファイリングの拡大により急性骨髄性白血病についての手掛かりが得られる

大規模臨床試験データのレトロスペクティブ解析によると、急性骨髄性白血病(AML)患者の癌細胞を1パネル18種類の遺伝子変異について検査することで、医師が個々の患者の再発リスクを予測する手助けとなり得ることが示された。この癌のプロファイリングとも呼ばれるアプローチにより、どの患者が特定の治療の恩恵を最も得ることが出来るのかについて、情報を得ることが可能となるかもしれない。この研究結果は3月14日付New England Journal of Medicine誌に発表された。

医師は、AMLの診断および再発リスクに準じた患者の分類に様々な手法を用いる。これまでは、一部の患者で、AMLに関連する3種類の遺伝子変異を用いて癌のプロファイリングが行われてきた。しかし、より多くの遺伝子の解析が、予後良好、中間、不良といったより正確なサブグループに患者を分類するのに有用なことが、この新たな研究により示唆された。

この結論を得るために、スローンケタリング記念がんセンターのDr. Ross Levine氏らは、米国東部腫瘍学共同研究グループ(ECOG)が率いた試験で2009年に論文発表された大規模臨床試験に参加した約400人の保存検体を用いてプロファイリングを行った。その後、同試験の別の104人でその結果を検証した。

患者の97%において、少なくとも1つの癌関連遺伝子の変異が認められた。研究者らは、特定の変異が同時に発現する傾向があり、そのことがAMLで活性化している経路についての手掛かりを示していると述べた。さらに、より多くの遺伝子を検討するこの遺伝子パネルは、臨床の場で現在使用されているこれまでの遺伝子パネルよりも質の高い予後情報をもたらした。

「新たに発見された変異を用いることで、リスクプロファイルが良好あるいは不良であるといった患者の分類が大幅に改善された」とLevine氏は語った。

癌のプロファイリングにより、治療の決定についての情報も得られる可能性があると、同氏は述べた。ECOG試験の結果では、50歳未満のAML患者において、治療初期に高用量ダウノルビシンを用いる化学療法により効果が得られる可能性が示された。一方、新たな解析では、患者のタイプにより効果に差があることが示された。

具体的に述べると、癌細胞にDNMT3AまたはNPM1の遺伝子変異、あるいはMLL遺伝子転座が認められた患者においては、高用量ダウノルビシンの化学療法により生存率が改善されたが、これらの遺伝子に変化がない癌患者では改善が認められなかった。著者らは、これらの所見には裏づけが必要であると言及した。

今後の研究では、AMLの原因となる付加的遺伝子異常およびエピジェネティックな変化(DNA配列以外の変化に起因する遺伝子機能の変化)をさらに特定することが求められている。「今後の課題は、それぞれの遺伝子変化を独立した変動要因と考えるのではなく、新たな遺伝子変化により、その他の既知の変異も合わせて予後モデルが改良され、治療の選択について情報が得られるようになるのかを検討することである」とLevine氏は語った。

「この新たな研究によって、終了している臨床試験のDNA検体およびデータの解析から何を学べるのかが示された。Levine氏は基本的に、冷凍庫から検体を取り出し、AMLに関する新たな疑問の解明にそれらを使用しただけであった」と、付随論説の著者でシカゴ大学医療センターのDr. Lucy Godley氏は述べた。

前立腺癌検診に関するヨーロッパでの試験データで、依然リスク低下がみられた

前立腺特異抗原(PSA)検査を用いた検診により前立腺癌による死亡率が減少することが、ヨーロッパにおける大規模な臨床試験で、11年の追跡調査後も引き続き示された。この結果はヨーロッパにおける前立腺癌検診に関するランダム化試験(European Randomized Study of Screening for Prostate Cancer:ERSPC)によるもので、定期的にPSA検査を受けていた男性は、そうでない男性に比べ前立腺癌による死亡率が21%低いことが示された。これは9年の追跡調査後に報告されたものと同等のリスク減少である。

これまでの試験結果と同様、PSA検査には重大な有害性もあると、エラスムス大学医療センターのDr.Fritz Schröder氏らは3月15日付のNew England Journal of Medicine 誌で報告している。PSA検査に基づいた診断の半数は、過剰診断、すなわち、生命を脅かす可能性がないと思われる前立腺癌であったという。

以上のことから、研究者らは、1例の前立腺癌による死亡を防ぐために1,055人の男性がPSA検査を受け、37例の癌が発見される必要があると考えた。

8カ国で約182,000人が参加したERSPC試験は、過去最大規模の前立腺癌に対するPSA検査に関するランダム化試験である。今年初めには、2番目に大規模であるNCI出資の77,000人を対象とした米国の前立腺癌・肺癌・大腸癌・卵巣癌スクリーニング試験(U.S. Prostate, Lung, Colorectal, and Ovarian Cancer Screening Trial:PLCO)で、13年間追跡した結果が発表された。PLCO試験では、毎年のPSA検査により前立腺癌死亡リスクの低下は認められなかった。また、PSA検査による過剰診断もかなりの割合でみられたもののERSPC試験における割合よりは低かった。

付随論説においてトロント大学のDr. Anthony Miller 氏は、相反する結果は試験間で多数の根本的な相違点があるためだと述べた。2つの試験はカットオフポイントとして異なるPSAスコアを用いており、参加者の検査間隔も異なっていた。PLCO試験ではかなりの「コンタミネーション(汚染)」もあった。すなわち、PLCO試験における対照群の男性の半数以上が、試験外でPSA検査を受けていた。また、ERSPC試験ではPSA検査を受けた参加者と対照群が受けた前立腺癌治療に相違があった可能性も指摘した。

「われわれは未だ満足できない状況にある。多くの医療従事者が、前立腺癌のPSA検査を行わないようすすめるのに十分なデータがないと考えるだろう」とMiller氏は述べている。PLCO試験のほうが米国の臨床現場に当てはまるため、(米国では)前立腺癌リスクが低いと考えられる男性のPSA検査の中止を推奨する米国予防作業部会の勧告声明案に従うことが「望ましい」と同氏は述べた。

その他のジャーナル記事:急性リンパ芽球性白血病の小児および青年患者における生存期間の改善米国小児腫瘍学グループ(COG)の率いる臨床試験に参加し急性リンパ芽球性白血病(ALL)の治療を受けた小児および青年患者21,000人のデータの解析により、5年生存率が、1990~1994年の83.7%から2000~2005年の90.4%に上昇したことが示された。生存率の上昇は、年齢、性別、人種または民族性、あるいはALLのサブタイプに関わらず、1歳を超える全小児で認められた。しかしながら、死亡の相対リスクはサブグループ間で異なっており、例として、低年齢の小児の方が青年よりも良好な結果を示した。これまでの解析で最多の小児ALL患者を含む研究の結果は、3月12日付Journal of Clinical Oncology誌の電子版にて発表された。著者らは、「(本研究において示された)生存率が改善された主な原因は、再発リスクの低下によるものと考えられる」と述べた。既存の化学療法を用いた治療法の改善により、小児ALL患者の生存率が1960年以降著しく上昇した。今後の生存率の改善は、1歳未満の乳児を含む治療が困難な小児白血病の治療薬となる新薬の開発に大いに依存する」と、筆頭著者であるコロラド大学のDr. Stephen Hunger氏は述べた。

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北川瑠璃子、栃木和美 訳
廣田 裕(呼吸器外科/とみます外科プライマリーケアクリニック) 、東 光久(血液癌・腫瘍内科領域担当/天理よろづ相談所病院・総合内科) 監修 
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