東アジア人の進行胃がんへのラムシルマブ併用、生存延長に達せずもPFSを改善

東アジア人の進行胃がん患者に対する二次治療としてパクリタキセルにラムシルマブを追加投与することにより、無増悪生存期間(PFS)が延長されることがRAINBOW-Asia試験で示された。

しかし、ラムシルマブ(販売名:Cyramza[サイラムザ]、Eli Lilly and Co.社)による全生存期間の有意な延長は認められなかったと、Lancet Gastroenterology & Hepatology誌で報告されている。

RAINBOW-Asia試験は、主に中国人患者を対象とした試験であり、2014年からの国際共同第3相RAINBOW試験とデザインが同じブリッジング試験であった。RAINBOW試験では、進行胃腺がんまたは進行食道胃接合部(GEJ)腺がん患者において、ラムシルマブとパクリタキセルの併用により、プラセボとパクリタキセルの併用と比較して全生存期間が有意に改善した。

北京大学がん病院・研究所のLin Shen医師らは、RAINBOW-Asia試験の目標は、「プラセボ+パクリタキセルに対するラムシルマブ+パクリタキセルの治療の統計学的優位性を示すこと」ではなかったと強調している。

また、RAINBOW-Asia試験は、「進行胃腺がんまたは進行食道胃接合部腺がんの中国人患者の二次治療において、ラムシルマブとパクリタキセルの併用が治療の選択肢となる可能性があるというエビデンスを示しています」とも述べている。

Shen医師の代理人であるEli Lilly and Co. 社(中国)のコミュニケーション・マネージャーのJunjun Liu氏は、「中国では進行胃がんに対して承認されている二次治療がありません。そのため、中国の進行胃がん患者に対する新たな治療法の開発が急務となっています」とロイター ヘルスにメールで伝えている。

胃がんは世界的によく見られる悪性腫瘍であるだけでなく、胃がん症例の約60%は東アジアで起きたものであり、胃がんによる推定死亡率も最も高くなっている。中国だけで、世界の胃がん患者数の約44%、胃がんによる死亡者数の約半数を占めている。

ラムシルマブは、血管内皮増殖因子(VEGF)受容体2の細胞外領域を標的とするヒトモノクローナル抗体であり、VEGF-A、VEGF-C、VEGF-Dのリガンドの結合を阻害する。

RAINBOW-Asia試験は、成人の進行胃腺がんまたは進行食道胃接合部腺がん患者を組み入れて、中国、マレーシア、フィリピン、タイの32施設で実施した、プラセボ対照二重盲検試験であった。

440人の参加者(年齢中央値57歳、68%が男性、89%が中国人)は、ラムシルマブとパクリタキセルの併用投与、またはプラセボとパクリタキセルの併用投与に2:1の比率で無作為に割り付けられた。

ラムシルマブ8mg/kgまたはプラセボを、28日サイクルの第1日目と第15日目に静脈内投与し、パクリタキセル80mg/m2を、第1日目、第8日目、第15日目に静脈内投与した。

中央値8カ月の追跡期間の後、363人の患者が死亡した。PFSの中央値は、ラムシルマブ群で4.14カ月、プラセボ群で3.15カ月であった(P<0.02)。

全生存期間の中央値は、ラムシルマブ群で8.71カ月、プラセボ群で7.92カ月であった(P=0.74)。なお先行のRAINBOW試験では、パクリタキセルにラムシルマブを追加投与することで、全生存期間の中央値が2.2カ月延長された。

著者らは、RAINBOW試験ではRAINBOW-Asia試験と比較して、中止後の全身療法(最も一般的な化学療法、血管新生阻害療法、および免疫療法)の実施率が高く、生存期間が比較的長かったことから、「ラムシルマブに関連する潜在的な生存期間延長効果が弱まった可能性があった」と指摘している。

ミネソタ州ロチェスターにあるメイヨークリニックのHarry H. Yoon医師は、付随する論説の中で、RAINBOW-Asia試験はブリッジング試験として「試験成功の閾値が高くなかった」と指摘し、「ラムシルマブの効果が臨床的に意味のあるものかどうかは疑問」とも述べている。

また同氏は、中止後の治療が全生存期間に影響を及ぼしている可能性に同意した上で、「中国人患者にとって、他の地域と比較して、血管新生阻害薬の効果が低いことを示す強力な証拠はない」とした。

RAINBOW-Asia試験はEli Lilly and Co.社の出資を受けており、共著者17人中2人はLilly社の社員である。

出典:https://bit.ly/3pkQ6w3
The Lancet Gastroenterology & Hepatology誌オンライン版2021年10月6日

翻訳担当者 瀧井希純

監修 野長瀬祥兼(腫瘍内科/市立岸和田市民病院)

原文掲載日 

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