癌ゲノムアトラス(TCGA)研究者が胃癌の4つのサブタイプを特定

米国国立がん研究所(NCI)プレスリリース

原文掲載日 :2014年7月23日

胃癌は4つの異なる分子サブタイプに分類できることを、癌ゲノムアトラス(TCGA)ネットワークの研究者らがつきとめた。本研究は2014年7月23日付けのNature誌電子版に発表された。研究者らはこの知見により、胃腺癌とも呼ばれる胃癌の治療開発に対する研究者の考え方を変える可能性があると考えている。

これまでのように胃癌を単一の疾病と考えるのではなく、今後は胃癌が有する特定のゲノム異常をもとに患者を分類し、治療法を探ることができるだろう。胃癌は世界的にも癌関連死亡の主要な原因であり、胃癌により推計で年間72万3千人が死亡している。

胃癌の臨床特性を調べる過去の試みは、たとえ同一の腫瘍から採取した癌細胞でも、顕微鏡下では大きく異なる細胞に見えることが障害となっていた。研究者らは新たな分類体系が、現行の未分化型、分化型という二大分類を有益に補完すると期待している。

「本プロジェクトでの重要な進展は、異なる分子特性を持つ胃癌を区分するのに非常に役立つ分類体系を特定、開発したことです。同時に異なる患者群の中で、そうした特性を追跡するための主な標的も特定しました」と、ハーバード大学医学部、ダナ・ファーバー癌研究所、ボストンのBroad研究所所属で、本研究の主任研究員を務めたAdam Bass医師は話した。「これは胃癌を分類する上で、またそのように分類し、われわれが癌の分類を変える要因となっている重要な分子変異に基づいて臨床試験を開発する上で、重要な基礎となります」。

研究者らは295個の腫瘍の分子データについて複雑な統計的分析を行うことで、新たなサブグループを特定した。分析には、DNA配列決定、RNA配列決定およびタンパク質配列を含む6つの分子分析プラットフォームを使用した。

腫瘍の9%を占めた最初のグループは、エプスタイン・バール・ウィルス(EBV)陽性で、その他もいくつかの分子的共通点があった。2つ目のサブグループ(腫瘍の22%)は、マイクロサテライト不安定性を高率に認めた。これはDNA反復配列に変異を蓄積する特質を持つ。残りのサブグループは、体細胞性コピー数変化(SCNAs)のレベルの違いである。SCNAsはゲノムの一部を複製または欠失することで生じる。腫瘍の20%にあたる3番目のサブグループは、低レベルのSCNAsでゲノム安定性と呼ばれる。腫瘍の残り50%を占めるグループは、高レベルのSCNAsで、染色体不安定性と分類された。

EBV陽性サブグループの腫瘍は、特に興味深い。米国においてEBVは、発熱や喉の痛み、特に頸部のリンパ腺の腫れに特徴づけられる伝染性単核球症の原因として知られている。EBVはまた、鼻咽頭癌やある種のリンパ腫を含むいくつかのがんの原因としても疑われている。過去の研究では胃癌の少数例でEBVが検出され、それらの腫瘍ではEBV遺伝子が発現していることが明らかになっている。しかしながら本研究では、胃癌にEBVがあると、それ以外にも多数の分子特性に関連することを発見した。

まずEBV陽性腫瘍では、細胞の増殖や分化や、それ以外の癌にとって重要な多くの細胞活動に欠かせないPI3キナーゼというタンパク質の要素をコードするPIK3CA遺伝子が高頻度で変異していた。EBV陽性腫瘍の80%はPIK3CAタンパク質が変化する変異を含んでいたが、他の胃癌サブタイプにおいてはPIK3CAの変異が発見されたのは3%から42%だった。EBV陽性腫瘍はPI3キナーゼ阻害剤に反応する可能性があると、研究者は示唆している。PI3キナーゼ阻害剤のいくつかは初期段階の臨床試験に入っているものの、一般使用で米国食品医薬品局の承認は受けていない。

EBV陽性サブグループのいくつかの腫瘍では、さらにJAK2遺伝子を含む染色体領域により多くの遺伝子コピーがつくられていた。JAK2タンパク質は細胞の増殖や分化を促す。JAK2の発現増加は、細胞増殖を不適切に活発化させる可能性もある。増幅された領域はまた、免疫反応を抑制するPD-L1とPD-L2という二つのタンパク質の遺伝子を含んでいる。これらのタンパク質はその発現増加により、腫瘍が免疫による破壊を免れることを助けている可能性もある。研究者らはこれらの発見が、EBV陽性胃癌の治療としてJAK2阻害剤やPD-L1/2拮抗薬の評価の裏づけであると示唆した。

加えてEBV陽性サブグループは、TCGA研究者が報告した他の癌サブタイプと比べ、はるかに多くのDNAの過剰メチル化を呈していた。メチル化はメチル基をDNAに加えるプロセスで、遺伝子発現を低減させる。このメカニズムが異常に続くと過剰メチル化となり、活性化すべき遺伝子を非活性にする。EBV陽性腫瘍サブグループにおいて、過剰メチル化は遺伝子のプロモーター領域に最も多くみられ、遺伝子発現を妨げる。

「EBVと胃癌との関連について、こうした洞察を得るといった画期的な研究に関わることができてNIHとしても嬉しく思う。この発見がもたらす臨床的意義の可能性に期待しています」と、NIH所長のFrancis S. Collins医学博士は述べた。

「本研究は、多くの異なる癌タイプの腫瘍におけるゲノムの多様性と類似性を研究するうえで、われわれが用いているアプローチの価値を強化するものです」と、NCI所長のHarold Varmus医師は話した。「こうした体系的な分析によってのみ、EBVといくつかの誘発的分子特性を結びつける観察が可能でした」。

また他の3つの胃癌サブグループの分析からも、重要な知見が得られた。例えばゲノム安定性サブタイプの腫瘍は、しばしばRHOAと呼ばれる遺伝子の変異を有していた。RHOAの変異は他の細胞タンパク質に作用し、細胞の形状変化や遊走を助長するため、腫瘍の増大にとって重要である可能性もある。この知見は、このサブタイプの腫瘍の治療における標的の可能性を示している。さらに染色体不安定性サブタイプの腫瘍には、細胞の外側にある受容体タンパク質をコード化する遺伝子の増幅が多くみられた。これは異常な細胞増殖の促進につながる。これらいくつかのタンパク質の活動を抑制する薬剤は、すでに利用可能である。

「この最新のTCGA研究は、この研究の網羅的なデザインの重要性を再び証明しました」と、米国立ヒトゲノム研究所長のEric Green医学博士は話した。「これらの結果は、致命的な癌の原因を明らかにする重要かつ新たなゲノム情報を与えてくれました」。

TCGAは、30種類以上の癌の包括的なゲノム特性を明らかにするため、国立衛生研究所(NIH)の一部である国立癌研究所(NCI)と国立ヒトゲノム研究所(NHGRI)により共同運営されている。TCGA研究ネットワークは何種類もの癌についてのデータを生成し、解析結果を公表している。すべての情報はTCGAのウェブサイト(http://www.cancergenome.nih.gov)で閲覧可能である。

参考文献: The Cancer Genome Atlas Research Network. Comprehensive Molecular Characterization of Gastric Adenocarcinoma. Nature. 電子版July 23, 2014. doi:10.1038/nature13480

原文

翻訳担当者 片瀬ケイ 

監修 畑啓昭(消化器外科/京都医療センター)

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