ハーセプチンを化学療法に追加してもHER2陽性胃癌患者のQOL(生活の質)を損なわない

キャンサーコンサルタンツ
2010年2月

国際ランダム化第3相臨床試験の研究者らは、ハーセプチン(トラスツズマブ)による治療が、HER2陽性で手術不能な進行胃癌や進行食道胃接合部癌の患者の生活の質(QOL)を損なわずに生存を改善することを報告した。この結果は1月に開かれた2010年消化器癌シンポジウムで発表された[1]。

ハーセプチンはHER2陽性乳癌女性の治療成績をあげることに多大に貢献した標的治療薬である。HER2経路は、細胞の複製と増殖に関与する生物学的経路である。約20〜25%の乳癌でHER2タンパク質の過剰発現がみられ、HER2陽性といわれる。ハーセプチンはこのHER2タンパク質を標的として阻害するため、早期および進行両段階のHER2陽性乳癌に使用される。

HER2の過剰発現は胃癌や食道胃接合部癌にもみられる場合がある。HER2陽性で手術不能な進行した胃癌もしくは食道胃接合部癌患者におけるハーセプチンの安全性と有効性を評価するため、594例を対象に国際第3相臨床試験が実施された。半数の患者は化学療法単独の治療を受け、残りの半数は化学療法+ハーセプチンの併用治療を受けた。この化学療法はフルオロピリミジン(ゼローダ(カペシタビン)または5-FU)+シスプラチンである。

全生存期間は化学療法+ハーセプチン併用群が13.8カ月であったのに対し、化学療法単独群は11.1カ月間であった。無進行生存期間の中央値は化学療法+ハーセプチン併用群が6.7カ月であったのに対し、化学療法単独群が5.5カ月であった。

2010年消化器癌シンポジウムではこの試験のQOLデータが発表された。総合的健康スコアは両群で化学療法後に増加したが、ハーセプチン投与後はさらなる改善をみせた。認知機能は両群で同程度であった。症状スコアは化学療法後に両群で改善した。著者らは、ハーセプチンを化学療法に追加すると患者のQOLを損なわずに全生存を改善すると結論づけた。

コメント:この結果は、ハーセプチンがHER2陽性の進行胃癌や進行食道胃接合部癌患者のQOLを損なわずに生存を改善することを証明している。このデータは、HER2の状態の判定を胃癌や食道胃接合部癌の全患者に対する標準的な治療とすべきことを示唆する。

参考文献:
Satoh T, Leon J, Lopez RI, et al. Quality of life results from a phase III trial of trastuzumab plus chemotherapy in first-line HER2-positive advanced gastric and GE junction cancer. 2010 ASCO Gastrointestinal Cancers Symposium. Abstract number 7.


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翻訳担当者 白井千恵子

監修 金田澄子(薬学)

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