大腸がん術後に化学療法3カ月の新たな標準治療が確立

ダナファーバーがん研究所

画期的なグローバル共同臨床試験の結果により、一部のステージ3の大腸がん患者の術後補助化学療法の回数を半分に減らすことが可能となり、コスト、治療期間、化学療法の毒性の長期的影響を大幅に削減できることが初めて明らかとなった。New England Journal of Medicine誌で発表された。

この臨床試験の結果は、手術で腫瘍とリンパ節を摘出したステージ3の大腸がん患者の一部で、標準的な6カ月間の術後化学療法が不要となる可能性があることを示した。また、低リスクの大腸がん患者の多くは、6カ月と比較したとき、3カ月の化学療法でもがん再発率に大幅な違いはなく、有害な副作用の発現を防止することを示している。有害な副作用には、抗がん剤オキサリプラチンによって引き起こされる永続的な痛み、痺れ、刺痛などの神経障害などがある。

この結果をもたらした臨床試験は、International Duration Evaluation in Adjuvant Chemotherapy(IDEA)共同試験として知られている。IDEA共同試験は、2007年に開始され、現在でもそのデザインとグローバルな規模は他から抜きんでている。この臨床試験では、北米、ヨーロッパ、アジアの12カ国で並行して実施された6件の第3相試験に12,834人の適格な患者が登録された。北米では、米国国立がん研究所(NCI)の全米臨床試験ネットワークのメンバーであるAlliance for Clinical Trials in Oncology(腫瘍臨床試験同盟)とSWOGがこの臨床試験を実施した。

メイヨークリニックがんセンターの腫瘍内科医で、Alliance for Clinical Trials in Oncologyの責任医師であるAlex Grothey医師がIDEAの共同臨床試験を監督し、NEJM誌のこの記事の筆頭著者でもあった。この臨床試験の最初の結果は、2017年6月の第53回米国臨床腫瘍学会(ASCO)年次総会で発表され、次いで、2017年9月の欧州臨床腫瘍学会(ESMO)総会でも発表された。この結果は、世界的な注目を集め、すでに実地臨床を変えている。2018年1月には、National Comprehensive Cancer Network(NCCN=「全米総合がんセンターネットワーク」*全米を代表とするがんセンターで結成されたガイドライン策定組織、NCCN日本語版)がIEDAの結果に基づく新しい標準治療を含む大腸がん治療のガイドラインを発表した。

IEDAの責任医師たちがこの臨床試験で明らかにしようとしていたのは「大腸がんの術後補助化学療法の最も適切な期間」である。2017年に発表されたGut誌のデータによると、大腸がんは世界で三番目に多いがんであり、60%の増加率で増加し続け、2030年までに220万人以上の新規患者と110万人のがんによる死亡者が見込まれているため、これは非常に重要な事項であった。

IDEA試験は、リンパ節に転移のあるステージ3の大腸がん患者を対象とした。リンパ節転移のあるステージ3大腸がんでは、通常は再発予防の化学療法として、FOLFOXまたはCAPOXのいずれかのレジメンで治療を行う。両方のレジメンに共通するオキサリプラチンの副作用は、重症で遷延性の神経障害である。がんの再発がなく、かつ、これらの副作用の発現頻度が減少したかどうかをみるために、患者は3カ月もしくは6カ月の化学療法群にランダムに割り付けられた。

結果:3カ月の化学療法の方がすべての条件において良好だったわけではなかった。むしろ、化学療法の期間は、使用される薬剤の組み合わせと各患者のがんの特性(腫瘍の大腸壁での深さ、転移したリンパ節数)によるべきであることが示された。低リスク患者(腫瘍がまだ浅く、リンパ節転移が3個以下)の場合は、CAPOXによる3カ月の化学療法が安全で有効であり、6カ月の化学療法に比べて副作用が少なく、無病生存率は同じであった。一方で、高リスク患者の場合は、状況によっては、6カ月の方がやや良好な結果が見られた。

「患者に及ぼす影響の大きさを考えたとき、この結果は非常に喜ばしいことだ」とSWOGの責任医師であり、Barbara Ann Karmanos Cancer Institute副所長かつ、Wayne州立大学医学部教授であるAnthony Shields医学博士は述べた。「私は低リスクの大腸がん患者に対してすでにこの新しい標準治療を用いて、治療期間を大幅に短縮し、6カ月の化学療法では発現する副作用を防止している。全世界で年間に40万人がオキサリプラチンベースの術後化学療法の対象となっているため、この結果は非常に大きな影響を持っている」とも語った。

Shields医学博士は、ダナファーバーがん研究所とハーバード大学のJeffrey Meyerhardt医師(公衆衛生学修士)とともに臨床試験の北米部分の共同主催者である。Meyerhardt医師はAlliance for Clinical Trials in Oncologyの責任医師でもある。全世界で同時に6件のランダム化臨床試験を実施するデザインは、Alliance for Clinical Trials in Oncologyの統計学者であり、不慮の病のために2016年に死亡したDaniel Sargent博士(メイヨークリニック)の発案による。

Meyerhardt医師は、「がん患者にとって臨床的に重要かつ影響力のある課題を研究する際、国際協力が非常に重要であることをIDEA試験が示した」と述べた。また「結果は、大腸がんの術後補助療法のすべてにあてはまる一つの回答があるわけではなく、がんの特徴に基づく個別化と、治療の選択が重要であるということを示した」とも述べた。

NEJM誌での発表はIDEAの最初のものであり、この後にも発表が続く。研究者らは現在ステージ3の大腸がん患者の治療における主な課題についてデータを集めており、患者を追跡して全生存率を算出したのち、その結果は2019年に公表される見込みである。

「IDEAの結果は、術後補助療法の副作用と有効性のトレードオフについて患者と治療者の間で議論するための枠組みを提供した」と筆頭著者のGrothey医師は述べた。「ステージ3の大部分の患者では、3カ月の術後補助化学療法で十分と考えられ、長期毒性の低下、生活の質の向上、医療費の節減につながる」とも語った。

NCIはU10CA180821、U10CA180835、U10CA180882のグラントを介してIDEA試験の北米部分に資金を提供した。また、U10CA180888Uのグラントを介して、SWOGとAlliance for Clinical Trials in Oncologyに資金を提供した。

NEJM誌の記事に関するその他の共著者は原文ページを参照

翻訳担当者 山岸美恵野

監修 中村 能章(消化管悪性腫瘍/国立がん研究センター東病院 消化管内科)

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原文掲載日 

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