脂肪分の多い魚は大腸がんの生存率を向上させる

「研究によれば、脂肪分の多い魚は大腸がんによる死亡リスクを下げる可能性がある」とTelegraph紙が報告した。

米国の研究によれば、大腸がん診断後に脂肪分の多い魚の摂取を増やした人は、大腸がんで死亡する割合が低い傾向にあった。

脂肪分の多い魚に含まれるω3脂肪酸が腫瘍増殖を抑えることは、すでに複数の基礎研究で示されており、研究者らの課題は、大腸がん診断後の脂肪分の多い魚の摂取量と、その後の状態との間に関連があるかどうかを調べることであった。

今回の研究では、大腸がん患者1,659人について平均10年間追跡調査を行った。研究の結果、脂肪分の多い魚を多く食べる人は大腸がんで死亡する割合が低いが、他の原因で死亡する割合は同程度であった。

がん診断後に脂肪分の多い魚の摂取を増やした人は、大腸がんや他の原因で死亡する割合が低かった。

しかし、研究参加者数が少ないため、この結果の信頼性は完全とは言えない。また、今回の研究は、脂肪分の多い魚の摂取が大腸がん生存率を直接改善することの証明にはならない。

重要な点は、研究参加者は通常の大腸がんに対する治療を受けていたことである。この研究では、脂肪分の多い魚の摂取で付加的な効果があるかどうかを調べた。

現在、すべての人に脂肪分の多い魚を週2回食べることが勧められているが、これは本研究で効果が示された魚の摂取量と同程度である。今回の研究結果が立証されれば、この助言に従う理由がさらに増える。

研究の出典

研究は、ハーバード大学医学部、ハーバード大学公衆衛生大学院(Harvard TH Chan School of Public Health)、マサチューセッツ工科大学の研究者らによって行われた。

米国国立衛生研究所(NIH)のほか、さまざまな公益財団の資金提供を受けた。

研究はBMJ所有の査読ジャーナルGutで発表され、オンラインで誰でも無料で閲覧できる。

Mail Onlineでは、「脂肪分の多い魚を週に2~3口食べれば、大腸がんによる死亡リスクが70%下がる」という見出しで掲載しているが、これは本研究の重要性を誇張している。

その記事はそもそも、研究がすでに大腸がんと診断されていた人だけを対象としていたこと、70%リスク低下は脂肪分の多い魚の摂取を増やした人と増やさなかった人との比較であることを説明していない。また、研究では因果関係までは証明していないため、魚がリスクを下げると言うのは誤りである。

Independent紙とTelegraph紙の記事は、よりバランスの取れた内容で、今回の結果を大規模な研究で再現する必要があるとの注釈を付けている。

研究の種類

本研究は、大腸がん患者を対象とした前向きコホート研究であった。研究の目的は、がん診断後に脂肪分の多い魚からω3脂肪酸を摂取することが患者の生存率に関連するかどうかを調べることであった。

このような観察研究は、複数要因の間の相関関係(今回の事例で言えば、脂肪分の多い魚の摂取と大腸がんによる死亡との関連)を突き止めることができるが、それらの因果関係までは証明できない。

研究内容

2件の大規模コホート研究から選ばれた大腸がん患者群を追跡調査した。

研究参加者は、食事をはじめ、生活様式全般と健康状態について質問票で回答した。

平均10年間の追跡調査後、大腸がん診断後に摂取した脂肪分の多い魚の量と、大腸がんまたは他の原因で死亡する可能性との間に関連があるかどうかを調べた。

米国で長年にわたり、看護師など医療従事者が参加して実施している2件の大規模コホート研究で得られた情報が利用された。1984年から2012年、1986年から2012年に収集したデータを調査した。

参加者全員は、彼らの健康、食事を含む生活様式に関する詳細な情報を2年から4年ごとに提供することが求められた。

これらの大規模研究の研究参加者のうち、大腸がんと診断され、診断後に少なくとも1回、食事質問票に回答した人のデータだけを検証した。魚および魚油サプリメントを評価に入れた。

これらのデータを使って一連の計算を行い、大腸がんで死亡した確率と、何らかの原因で死亡した確率を調べた。

年齢、民族的背景、運動習慣、喫煙など、がん死亡率に影響する他の要因を考慮して、数値を調整した。

さらに、脂肪分の多い魚の摂取でより利益を得られる人々がいるかどうかを調べるため、食事と死亡率をつなぐ他の要因も探した。

しかし、そのように数多くの計算を行うことに伴う問題として、計算結果の中には偶然に過ぎないものが含まれる可能性が高まる。

結果

本研究参加者1,659人のうち、561人が研究中に死亡した。このうち、169人は大腸がんが直接の死因であった。他の死因は、心血管疾患、大腸がん以外のがんなどであった。

研究結果:

・ω3多価不飽和脂肪酸を1日に少なくとも0.3g食べた人は、1日0.1g未満だった人と比べて、研究期間中に大腸がんで死亡した割合は41%低かった。しかし、これらの数値の信頼区間は無効ポイントと重複しているため、これが正しい結果であると断言することはできない(ハザード比[HR]0.59、95%信頼区間[CI]0.35~1.01)。

・大腸がん以外の原因による死亡率について、2群間で差異はなかった。

・ω3多価不飽和脂肪酸の摂取量を少なくとも1日0.15g増やした人は、摂取量をあまり増やさなかった人(1日当たりの増量0.02g未満)に比べて、大腸がんで死亡する割合は70%低かった(HR 0.30、95%CI 0.14~0.64)。また、摂取量を増やした人は他の原因による死亡率もわずかに低かった(HR 0.87、95%CI 0.62~1.21)。ただし、この評価項目において数値は無効ポイントと重複している。

大腸がんの部位と病期は結果に影響しないようであった。脂肪分の多い魚を多く食べる人もそうでない人も、それぞれの重症度の頻度は同様であったからである。

脂肪分の多い魚を多く食べる人は、運動する割合が高く、喫煙の割合が低いことも研究から判明し、研究結果の解析において、この点を考慮に入れている。

結果の解釈

研究者らは研究結果から、がん診断後の食事によるω3脂肪酸摂取は、「大腸がんによる死亡リスクを下げる可能性がある」と述べる。

さらに、大腸がん診断後に脂肪分の多い魚の摂取量を増やすと、「さらに効果が得られる」可能性があるとしているが、その効果の具体的メカニズムについては説明していない。

研究者らは、今回の研究結果の裏づけのために「さらに大規模な集団で研究を進める必要がある」と認めており、また、食事や生活様式に関する他の要因の影響を除外することはできないとしている。

結論

脂肪分の多い魚が健康によく、特に心臓や循環器系によいと言われて久しい。今回の研究は、大腸がんの人にも効果がある可能性があると示唆している。

しかし、この研究結果に対して慎重になるべきである。なぜなら、研究参加者数がこの種の調査(コホート研究)にしては非常に少なく、研究結果として不確実性を示しているからである。

一つの要因(脂肪分の多い魚の摂取)と別の要因(大腸がんの克服)との関連を見つけることは、二つの要因の因果関係を示すことと同じではない。脂肪分の多い魚を多く食べていた研究参加者は運動量が多く、喫煙量が少なかったということもわかっている。

研究者らはこうした特定の要因を考慮して数値を調整しているものの、本研究の結果は、魚をよく食べる人は概して健康志向がより強かった可能性を示唆している。つまり、彼らは大腸がんの死亡リスクを下げる、まだ知られていない他の手段を実行していた可能性もある。

大腸がんにより死亡する可能性が、脂肪分の多い魚を多く食べる人では低かった一方で、あらゆる種類のがんや心血管疾患など、何らかの原因で死亡する割合は、魚を食べる量に関係なく同じであったことも興味深い。

Mail Onlineの見出しを読んで、脂肪分の多い魚を食べるだけで、大腸がん克服の可能性が大きく違ってくると思う人もいるかもしれない。

しかし、Mail Onlineの記事には、研究参加者全員が大腸がんに対する従来の内科治療や外科治療も受けていたかどうかが明記されておらず、また数字が不確実性を有することから、脂肪分の多い魚の摂取による違いは実際にはごく僅かであることも説明されていない。

がんと診断された人にとって、脂肪分の多い魚を食べることは、がん生存率に効果があるかもしれないし、ないかもしれない。脂肪分の多い魚を食べてはいけない理由は確かにないが、生存率向上のためには外科治療や内科治療がはるかに重要であると言えそうである。

すべての人に対する助言は変わらない。脂肪分の多い魚を週2回食べることは、健康的な食事を摂る上で重要である。

画像訳:脂肪分の多い魚はω3脂肪酸が豊富である

翻訳担当者 山田登志子

監修 大野智(補完代替医療/大阪大学・帝京大学)

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原文掲載日 

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