まれなKRAS遺伝子変異タイプの転移性大腸がん患者において、EGFR阻害薬と化学療法の併用療法が奏効

セツキシマブとイリノテカンの併用療法が、KRAS遺伝子エクソン2(G13D)変異がある転移性大腸がんの新たな治療法となる可能性

テーマ:消化器がん/抗がん剤と生物学的療法

2015年9月25~29日にオーストリアのウィーンで開催された欧州がん学会議(European Cancer Congress[ECC 2015])にて報告された第2相試験の結果によると、KRAS遺伝子のエクソン2における塩基置換(c.38G>A)のためアミノ酸置換(pGly13Asp)が生じている(G13D変異がある)転移性大腸がん(mCRC)患者において、セツキシマブとイリノテカンの併用療法により客観的奏効および病勢進行の遅延が認められた。

G13D変異型の転移性大腸がん患者にはセツキシマブ単剤治療は効果がない、と過去の小規模試験で報告されているが、豪州胃腸臨床試験グループ(AGITG)が実施したICECREAM試験でも同じことが確認された。

オーストラリア、シドニーにあるニューサウスウェールズ大学セントビンセントクリニカルスクール腫瘍内科部門のEva Segelov氏は、一般演題:消化器悪性腫瘍の9月28日付け大腸がんセッションにおいて、最新のICECREAM試験結果を発表した。

Segelov准教授は本試験の理論的根拠について議論し、KRAS変異型またはNRAS変異型の転移性大腸がん患者には通常、EGFR阻害薬を用いる治療は効果がないため行われない、と説明した。大腸がんの40%にKRAS変異がみられ、そのうちおよそ19%はKRAS遺伝子エクソン2で塩基置換(c.38G>A)によるアミノ酸置換(pGly13Asp)が生じている(G13D変異)。転移性大腸がんにおけるG13D変異の絶対発生率は8%である。

KRAS遺伝子G13D変異型に、EGFRを標的とした薬剤とイリノテカンの併用療法が奏効

KRAS変異型全体では、上皮成長因子受容体(EGFR)を標的とした薬剤によって効果がほとんどまたは全くみられない傾向がある一方で、G13D変異がEGFR阻害薬に対する感受性を与えていることが前臨床モデルで示唆されている。また、KRAS野生型の転移性大腸がん患者ではセツキシマブによる治療上の利益が得られるが、これと同様の利益がG13D変異型の患者でも見込まれることを、幾つかのレトロスペクティブな臨床報告書が示唆している。しかしながらこれらの報告は、サンプルサイズが小さいことや併用投与された化学療法が影響して、EGFR阻害薬の実際の効果を分離することは難しい、とSegelov氏は述べている。

さらに、KRAS遺伝子変異の有無で選択されていない転移性大腸がん患者において、EGFRを標的とした薬剤にイリノテカンを併用することにより奏効率が上昇し病勢進行が遅延することが示唆されている。このことから研究者らは、イリノテカンによってG13D変異型の患者に対する治療効果が高まるかもしれないと予測するに至った。

ICECREAM試験はAGITGが実施した第2相プロスペクティブランダム化試験で、転移性大腸がん患者を対象に、セツキシマブ+イリノテカン併用療法と比較してセツキシマブ単独療法の有効性を評価した。参加者は全員、パフォーマンスステータスがECOGの基準で0~2であり、イリノテカン抵抗性、フルオロピリミジンとオキサリプラチンに不耐性または抵抗性を示していた。イリノテカン抵抗性は、イリノテカンによる治療から6カ月以内に病勢の進行がみられているものと定義した。

参加者は、G13D変異型(結果はECCで発表された)または野生型のKRAS、NRAS、BRAF、PI3KCA遺伝子(現在も参加者登録中)に従って層別化され、セツキシマブを初期投与量400 mg/m2を負荷量として静注したのち250 mg/m2を週1回投与する群、または同じレジメンのセツキシマブに併用してイリノテカン180 mg/m2を2週間ごとに投与する群のいずれかに、無作為に割り付けられた。患者背景は、年齢(セツキシマブ単独群、セツキシマブ+イリノテカン併用群、それぞれ順に61歳、66歳;以下同様)、転移性大腸がんの罹患期間(19.1カ月、28.1カ月)、イリノテカン最終投与からの経過期間(2.8カ月、4.8カ月)を除き、治療グループ間でバランスが取れていた。G13D変異がある患者群は53人の登録があったが、真のイリノテカン抵抗性ではないことから2人が除外され、51人となった。

ICECREAM試験における所見

ECCで報告されたG13D群における結果は、6カ月無増悪生存率がセツキシマブ単独群で10%(95%CI 2%、26%)、セツキシマブ+イリノテカン併用群で23%(95%CI 9%、40%)であり、ハザード比(HR)は0.75(95%CI 0.42、1.33)であった。無増悪期間の中央値は単独群と併用群で近似しており、それぞれ2.5、2.6カ月であった。

いずれの治療群においても完全奏効が得られた患者はいなかった。セツキシマブ単独療法を受けている患者は部分奏効(PR)を示さなかった一方で、患者の58%で病勢安定(SD)が得られた。セツキシマブ+イリノテカン併用群では、患者の9%で部分奏効が得られ、70%は病勢安定を示した。

グレード3または4の有害事象が1件以上発生したのは、単独療法群で11人(44%)、併用療法群で16人(64%)であり、過去の試験結果と同様であった。

ベルギーのルーヴェンにある、ルーヴェン大学病院ルーヴェンがん研究所(the Leuven Cancer Institute, University Hospitals Leuven)のEric Van Cutsem氏は、本試験の結果について議論し、本試験で得られた所見を解釈すると、G13D変異型の転移性大腸がんをセツキシマブまたはパニツムマブの単独療法で治療するエビデンスは見当たらない、と語った。イリノテカン抵抗性の細胞株および患者(セツキシマブには感受性)において、イリノテカンとセツキシマブの併用による上乗せ効果に関するデータがあるが、これはG13D変異型の大腸がんには適用されない。また同氏は、ICECREAM試験は多施設共同のプロスペクティブ臨床試験を促す刺激となること、ICECREAM試験におけるKRAS野生型の患者データに期待を寄せていること、抗EGFR抗体薬に対する治療抵抗性を決定するために探索範囲を拡大してRAS遺伝子以外のバイオマーカーに焦点を当てるべきであること、そして、われわれは多くのことを学んできたが、抗EGFR抗体薬の最適利用を決定することは依然として課題であることを付け加えて述べた。

結論

これらの結果に基づき、AGITGの研究者らは、G13D変異型の大腸がん患者においてイリノテカンとEGFR阻害薬の併用による上乗せ効果があるのかどうか確認するためには、併用療法についてさらなる評価が求められるだろうと結論づけた。しかしながら、G13D変異を有する患者にはセツキシマブ単独療法が無効であることから、この問題はこれ以上調査するべきでないことが示唆される。

ICECREAM試験は、大腸がんのまれな遺伝子変異タイプであるKRAS遺伝子G13D変異を有する患者における重要な問題を扱うこれまでで最初の試験であり、この患者群における治療に関するプロスペクティブなデータを提供し、このような試験への適時参加登録は優れた国際連携があれば可能であることを確認した。これらの結果は、G13D変異を有する化学療法抵抗性の大腸がん患者の管理に貢献するものである。

情報の開示:本試験は、メルクセローノより制限なしの資金援助を受けている豪州胃腸臨床試験グループ(AGITG)が出資した。

【画像キャプション訳】
AGITG(豪州胃腸臨床試験グループ)ICECREAM試験
パネルA:大腸がんのまれな変異タイプが対象であるにもかかわらず、試験の参加者数は予想を上回った。
パネルB:セツキシマブ単独群(上)およびセツキシマブ+イリノテカン併用群(下)の患者における標的病変に対する最良効果。新病変の出現を伴わずに得られた最大の腫瘍縮小効果に基づき分類し、RECISTの最良効果判定基準で色分けして示す。
画像の著作権の帰属:Eva Segelov氏

翻訳担当者 下川智美

監修 林 正樹(血液・腫瘍内科/社会医療法人敬愛会中頭病院)

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原文掲載日 

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