12のがんにおいて死亡の半数は喫煙が原因

英国医療サービス(NHS)

2015年6月18日木曜日

喫煙が引き起こす一般的ながんには肺がんや食道がんがある。

世界では、毎年600万人が喫煙により死亡している。

「喫煙に関連する12のがんにおいて、死亡の約半数が喫煙に直接関連していることが米国の研究で予想された」とMail Online紙は報告している。喫煙率が英国(成人の19%)と米国(成人の17%)で同様であるため、死因も同様である可能性がある。

研究者らは、喫煙に関連した12のがんによる死亡の割合を推計するため、先行研究のデータを用いた。

研究者らは、喫煙が全死亡原因の半数を占める可能性があると推測した。

当然ながら、肺がんは喫煙と最も強い関連があり(死亡の80%を占める)、続いて口腔および咽喉のがんに強い関連性があった。

しかし、それはあくまで先行試験から取ったデータに基づく推測の域を出ないものであり、さまざまな限界がある可能性に注意することが重要である。したがって、喫煙によるがんの割合に関する数字が100%正確である、また英国にそのまま当てはめられると確信するのは早計である。

その結果はまだ慎重に解釈されるべきであるが、世界保健機関(WHO)の推計によると、喫煙によって、がんや心臓病などその他の疾患のために、世界で年間約600万人が死亡している。

もしあなたが喫煙者なら、健康のためにできる最も良い手段は、禁煙である。

喫煙関連死と公表された12のがん

下記12のがんは、喫煙に関連した死亡と考えられることが明らかになった。

・膀胱がん
・大腸がん
・子宮頸がん
・腎臓がん
・喉頭がん
・肝臓がん
・肺がん
・多発性骨髄腫
・口腔がん
・食道がん
・膵臓がん
・胃がん

研究の出典

本研究はアトランタの米国がん協会、ボストンのハーバード大学医学部、メリーランド州ベセスダの米国国立がん研究所(NCI)、およびシアトルのフレッドハッチンソンがん研究センターの研究者らにより実施された。本研究の解析に関しては、米国がん協会(ACS)から助成を受けた。

研究についてはピアレビュー科学雑誌JAMA Internal Medicine誌に掲載された。

本研究結果に関するMail Online紙の報告は正確であった。しかし、主著者から引用した背景の1つである「電子たばこは今や高校生の間で最も多く利用されているたばこである」は、電子たばこがいかなるたばこにも該当しないかのような見解が批判にさらされている。

研究の種類

本研究はresearch letterとしての表題が付けられ、研究者らは、先行研究のデータを用い、喫煙が原因とされる12のがんによる2011年米国における死亡の割合を推測した。

2014年米国公衆衛生総監報告書は、全がん種ならびに特に喫煙が原因である肺がんによる死者数を推定したが、他の11種のがんが喫煙に起因することを報告し損ねたと研究者は述べる。これらのがんを発生した喫煙による死亡についての先行研究データは、10年以上前のものと言われている。それ以降、喫煙率は減少しているが、喫煙者におけるがんのリスクは、時間と共に増加する可能性がある。このため、本研究は2011年の特定のがんによる死亡の最新情報をみることを目的としている。

本研究では、さまざまな先行研究および調査からのデータを用いた。先行研究の同定と選択の方法は、本簡易発表では報告されなかった。そのため、すべての関連するエビデンスが検討されたかどうかに言及することは不可能である。

系統的レビューであれば、おそらくより詳細な情報が提供されたと思われる。しかし、これらのタイプのレビューは費用も時間もかかり、中には研究を実施するための資金がない研究チームもある。

研究内容

研究者らは2011年米国国民調査から喫煙率の情報を得た。これは米国内の代表サンプルからの面接に基づいている。

過去喫煙者と現喫煙者の年齢別、性別のがんリスクは、コホート研究から導きだした。そのコホート研究は、アンケート調査で喫煙を評価し、その後がんとがんによる死亡リスクを追跡した。情報源の1つは、35~54歳(1982~88年の追跡調査期間を含める)の人々を含めたがん予防研究IIで、他の年齢群の情報源は、5つのコホートからデータを集積したPooled Contemporary Cohort(2000~11年の追跡調査期間)である。

これらの情報源を用いて、研究者らは喫煙に起因するさまざまながんによる死亡の人口寄与割合(population attributable fraction : PAF)を算出した。PAFとは、喫煙に起因する死亡数の割合、または、もし喫煙しなかったら減少するであろう死亡数の割合である。

結果

2011年の、35歳以上の成人における12のがん種による死亡は345,942人であった。研究者らは、がんによる死亡全体のうち167,805人すなわち48.5%(95% 信頼区間(CI) 46.2−51.2%) が、喫煙が原因と推測した。喫煙は、男性のがん死亡の51.5%、女性のがん死亡の44.5%の原因であった。

喫煙に起因する死亡で圧倒的に大きな割合を占めるのは、肺および気道のがんであった。がんによる死亡の80%、その内訳は男性83%、女性76%が喫煙に起因していると推測された。2番目に大きな割合を占めるのは喉頭(声帯)がんで、喫煙は77%の関与であった(男性72%、女性93%)。

喫煙は口腔がん、咽喉がん、食道がんの全死亡の約半数、膀胱がんの半数弱の原因である。

喫煙は、子宮頸がんおよび肝臓がんの約1/4の原因であった。

喫煙のPAFが20%未満のその他のがん種には、腎臓、膵臓、胃、大腸、および白血病など血液のがんがある。

結果の解釈

研究者らは、「半世紀の喫煙率減少に関わらず、喫煙は多くのがんによる多数の死者を出し続けている。喫煙率の低下は、2000~2004年に比べて2011年の喫煙に起因する死亡割合の全般的な減少に反映されている」と結論づけた。

結論

本研究では、男女の喫煙に起因したがんによる死亡の割合を推定するため、過去に発表されたコホート研究および国民調査のデータを用いた。調査された12のがん種はすでに喫煙と関連性があることで知られており、全体の約半数を占めている可能性がある。肺および気道のがんの大多数は喫煙に起因すると推定された。

注意すべき重要なことは、これらはあくまで推測だということである。本研究では、コホート研究のデータを用いて過去喫煙者および現喫煙者、ならびに非喫煙者のさまざまながんのリスクについての情報を得た。しかし、これらのコホート研究は、さまざまな固有の限界やデザイン上の潜在的バイアスを有する可能性があり、ここで解析することはできない。例を挙げると、

・研究対象の人口は、すべての人の代表でない可能性がある。

・追跡調査期間が短く、喫煙が原因の新たに発生したがんやがん死亡全てを捉えられていない可能性がある。

・他の交絡因子(例えばアルコール摂取、食事、運動)を考慮していない可能性がある。

・生涯の喫煙習慣の評価が不正確な可能性がある。

・環境曝露からの受動喫煙の影響を評価できていない可能性がある。

コホート研究および国民調査の同定と選択に関する具体的な方法が、本簡易発表では報告されていない。研究者らは、評価するにあたって利用可能な最善の、そして国を最も代表するエビデンスを用いたであろう。しかし、これは推測の域を出ず、関連するすべてのエビデンスが検討されているかどうかコメントすることは不可能である。

もう1つ念頭に置くべき点は、研究対象に選択されたがんは、すでに喫煙との関連性が知られていることである。現在喫煙との関連性があまり認識されていない他のがんが関連している可能性がある。また、この研究が、英国でなく、米国での推定であることを再度強調すべきである。

本研究が喫煙によるがん死亡の割合を正確に推定できているかどうかという点での制約はあるが、それでもなお健康に関する強いメッセージがある。喫煙は健康に多くの有害作用をもたらし、がんのリスクのみならず他の多くの慢性疾患にも影響を及ぼすことで知られる。

研究者らは「禁煙支援の強化など、より総合的なたばこ規制」が今後の重要な方法であると結論づけた。

長年の喫煙者だとしても、禁煙はなお健康上の多大な利益をもたらすだろう。例えば、禁煙した10年後、肺がんのリスクは喫煙を続けていた人々の半分になるのである。

翻訳担当者 太田 奈津美

監修 久保田 馨(化学療法科/日本医科大学付属病院)

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原文掲載日 

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