切除不能な大腸がんへの免疫療法薬は治療中止後も効果が持続

米国がん学会(AACR)

免疫チェックポイント阻害薬(ICI)による初回治療中にがんが進行しなかった切除不能大腸がんの大多数は、治療中止後2年経過しても病勢進行が認められなかったという結果が、米国がん学会(AACR)の学術誌Cancer Research Communications誌で発表された。

免疫チェックポイント阻害薬は、高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-H)またはDNAミスマッチ修復機能欠損(dMMR)といった特定の固形がんに対して有効であることが証明されている。現在までに、4つの免疫チェックポイント阻害薬が、MSI-H/dMMRの切除不能大腸がんに対する治療薬として米国食品医薬品局(FDA)に承認されている。

免疫チェックポイント阻害薬による治療中に患者の大腸の腫瘍が縮小した、または安定している場合、医師は2年後に免疫療法薬を中止することがある。また、管理しがたい副作用により免疫チェックポイント阻害薬による治療を早期に中止する患者もいる。有効であった治療方法を中止すると、患者は効果も止まってしまうのではないかと不安になる、と本研究の上級著者でテキサス大学MDアンダーソンがんセンター消化器腫瘍内科准教授であるVan Morris医師は説明した。

「効いているとみられ、副作用もあまりない治療法を中止することに、患者が恐怖を感じるのは無理もないことです。ステージ4の大腸がんと診断され、治療を中止するとがんが再発する可能性があるのではないかと心配します。この研究を始めたとき、治療を中止することによる危険性は明らかではありませんでした」と、Morris氏は述べた。

Morris氏と、本研究筆頭著者のベイラー医科大学血液腫瘍内科フェローKristen Simmons医師を含めたMorris氏の同僚らは、PD-1またはPD-L1を標的とする免疫チェックポイント阻害薬の単独投与(48人)またはCTLA-4を標的とする免疫チェックポイント阻害薬との併用投与(16人)を受けたMSI-H/dMMRの切除不能大腸がん患者64人のレトロスペクティブ解析を行った。すべての患者において、投与を中止した時にはその効果が持続していた。48人は奏効が長引いたことにより投与を中止し、16人は副作用により投与を中止した。免疫チェックポイント阻害薬による治療期間の中央値は17.6カ月であった。

免疫療法薬を中止してから中央値22.6カ月の時点で、患者の88%が再発していなかった。免疫療法薬を中止した後の無増悪生存率は、投与後1年で98%、2年で91%、3年で84%であった。この生存率は、患者が副作用により投与を中止した場合と奏効が長引いたことにより投与を中止した場合で有意差はなかった。

本研究では投与中止後の再発の可能性に影響を及ぼすと考えられる他の因子についても調査した。免疫チェックポイント阻害薬の単独投与と併用投与のいずれを受けたか、肝臓/腹膜/リンパ節への転移の有無、腫瘍のKRAS/NRAS/BRAF変異の有無にかかわらず、進行速度に有意差は認められなかった。肺転移のある患者は肺転移のない患者より再発の可能性が高かったが、さらなる調査研究が必要である、とMorris氏は述べた。

Morris氏は、これらのデータが、リスクが高い腫瘍特性のために患者の治療を中止したくないという医師の不安を和らげる可能性があることを示唆した。 「例えば、BRAF遺伝子変異のある患者の治療を中止するのは気が進まないという話を腫瘍内科医からよく聞きます。しかし、変異の有無とがんが再発する可能性との間に関連性は認められませんでした」とMorris氏は述べた。

治療の中止後に腫瘍が進行した患者8人のうち7人は、免疫チェックポイント阻害薬による治療を再開した。注目すべきは、7人全員が免疫チェックポイント阻害薬の再開後に奏効または病勢安定を示したことである。

「これらのデータは、MSI-H/dMMR大腸がん患者が免疫療法薬を中止した場合の進行の可能性をより明確な数値で示すことで、腫瘍内科医が患者と話し合う時の指針となる重要な情報を提供するものです。これらのデータに基づいて、治療を中止してもがんが再発しない可能性が88%あることを患者に伝えれば、治療を中止する決断を受け入れやすくなるかもしれません」とMorris氏は述べた。

本研究の限界としては、そのレトロスペクティブな性質と、症例数が比較的少ないためサブグループ解析の統計学的な検出力に限界があることがある。さらに、このコホートに含まれる患者は単一のがん施設からの患者であるため、他の地域の患者へのデータの適用性が制限される可能性がある。

本研究は、米国国立衛生研究所の国立がん研究所、Cancer Prevention and Research Institute of Texas、Andrew Sabin Fellow Family財団、Col. Daniel Connelly 記念基金から資金提供を受けている。Morris氏は、Pfizer社、Novartis社、Bicara Therapeutics社、Bristol Myers Squibb社、BioNTech社から研究資金の提供を受けていること、Regeneron Pharmaceuticals社およびNovartis社とコンサルティング関係があることを報告している。

  • 監訳 中村能章(消化管悪性腫瘍/国立がん研究センター東病院)
  • 翻訳担当者 瀧井 希純
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  • 原文掲載日 2023/12/18

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