AIは大腸がん検診の主役になれるか?

米国国立がん研究所(NCI) がん研究ブログ

人工知能(AI)は、いつの間にか至るところに存在している。ChatGPTから自動化カスタマーサービス「担当者」まで、ますます複雑化するタスクをこなすコンピュータの能力は、社会を大きく変えつつある。

AIは医療分野にも急速に浸透している。AIが広く試されている分野のひとつにがん検診があり、乳がんのマンモグラフィ検査や、最近では大腸がんの大腸内視鏡検査など、画像関連検査の解釈を支援する目的で使用されている。しかし、それが主導的役割を担う準備は整っているのだろうか。

2件の最新研究によると、大腸がん検診に関して言えば、その答えは「まだ」であるようだ。

研究のうち1件は、コンピュータ支援検出(CAD)と呼ばれるAI技術によって大腸内視鏡検査を改善できるかどうかを評価した、過去最大規模の臨床試験である。研究の結果、CADを使用しても、経験豊富な医師による進行腺腫(がんになる可能性がきわめて高い腺腫)の検出率は向上しなかった。

スクリーニング手順にCADを組み入れると、腺腫全体の検出数は確かに増加したが、それは、がんになる可能性がきわめて低い、非常に小さい腺腫の検出数が増えたためであった。

このような小さな腺腫(ポリープともいう)を見つけて除去することの是非については、いまだに意見が分かれる。しかし、スペインのHospital General UniversitarioのRodrigo Jover医師が率いる研究グループは、ポリープの切除は、大腸の損傷など、小さいが現実的なリスクをもたらすものであると記している。

彼らの研究は8月29日にAnnals of Internal Medicine誌で発表された。

同号に掲載された別の研究は、標準的な大腸内視鏡検査へのCAD追加を検証していた21件の臨床試験を解析し、同様の結果を報告している。全体として、AIの追加によりポリープ検出率は上昇したが、この場合もやはり、大きく脅威的な腺腫ではなく、小さなポリープの検出数の増加によるものであった。

これらの研究で使用されたAIベースのCADは、ChatGPTのような最新ツールに使用されているAIほど高度ではなかった、とNCIがん予防部門のAsad Umar博士(D.V.M)は説明する。同氏は今回の研究には関与していない。

Umar氏によれば、これらの試験で使用されたシステムは、「まだ初期のAIのようなもので、2022年、2023年にみられるようなものではない」とのことである。最先端のAI技術がCADシステムに統合されれば、大腸がん検診の改善に役立つ可能性がある。

「(CADの)次のバージョンはずっと良くなると思われます」とUmar氏は言う。

AIによって経験豊富な医師の作業能力はさらに高まるか?

大腸内視鏡検査では、大腸内視鏡(細長い管の先に高解像度カメラがついたもの)を肛門から直腸、そして結腸の奥まで挿入する。今回の研究に付随する論説を執筆したイェール大学のDennis Shung医師によれば、この処置は医師が一人で行なうことはない。

「もし、私が大腸内視鏡を抜き出している時に内視鏡室の看護師が『何か見えたように思います』と言ったら、私は必ず内視鏡を戻して再度調べます」と同医師は言う。

この10年間で、消化器内科医(大腸内視鏡検査を行う医師)のために、同様の役割を果たすAIベースのコンピュータシステムが設計されてきた。

これらのシステムは、大腸内視鏡が大腸内を蛇行する間に大腸の内側にある組織をスキャンするソフトウェアに基づいている。このCADソフトは、大腸内視鏡で得られた何百万枚もの画像をもとに "訓練 "されており、人間の目では見逃されるような変化も認識できるようにする。そのアルゴリズムによって、疑わしいと思われるポリープなどの組織が検出されると、コンピュータ画面上でその部分を照らし出し、音を鳴らして大腸内視鏡検査チームに知らせる。

これまでの研究では、これらのシステムによって内視鏡医の作業能力が向上するかどうかについては、相反するエビデンスが示されている。また、これまでの臨床試験は、進行した腺腫の検出において有意な違いをもたらすかどうかを判断できるだけの規模ではなかった。

大きなポリープではなく、小さなポリープを見つける

このデータギャップを埋めるため、スペインの研究者らは2021年にCADILLAC試験を開始した。6カ所の大規模な大腸内視鏡センターの研究者らは、免疫学的便潜血検査(FIT)で便に血液が検出された3,000人以上を登録した。FIT陽性と判定された人は進行腺腫または大腸がんのリスクが高いため、大腸内視鏡検査を受けるよう勧められる。

参加者は、標準的な大腸内視鏡検査を受ける群(対照群)とCADを用いた大腸内視鏡検査を受ける群に無作為に割り付けられた。6施設から合計64人の内視鏡医がこの研究に参加した。

全体で、進行腺腫または大腸がんは両群の参加者の約34%で見つかった。

これらの結果は、検査へのCAD追加によって進行腺腫または大腸がんの検出が増加することを示した複数の先行小規模研究の結果とは異なっている。

この相違は、少なくとも部分的には、参加した内視鏡医らが経験豊富であったこと、そして、それに伴って対照群の進行腺腫検出率が高かったことに起因している可能性がある、と研究チームは記述している。

「[腺腫検出率が]低い状況や、内視鏡医らの『検出能力が低い』と思われる場合には、コンピュータ支援検出システムの効果が高まる可能性がある」と研究チームは述べている。

コンピュータ支援による検出は、経験豊富な医師においても、直径5mm以下の小さなポリープの摘出数を増加させた。

同様の結果が、もう一つの研究でもみられた。この研究はヨーロッパの研究チームによって行われ、大腸内視鏡検査へのCAD追加を検証した過去21件のランダム化比較臨床試験の結果を解析したものである。本研究はメタ解析というもので、先行試験に参加した18,000人以上のデータが含まれている。

CADILLAC試験と同様に、このメタ解析でもCAD追加により、小さなポリープの検出は増えた(この場合、50%以上)が、進行腺腫の検出は増えなかった。

大腸内視鏡検査で発見されるポリープは検査中に切除される。そのため、小さなポリープの検出が増えると、「必ずしも切除する必要のないものまで切除することになるかもしれません」とUmar氏は説明する。これは過剰治療と呼ばれる現象である。

ポリープを切除すれば、「穿孔や出血のリスクがあります。大腸の一部を切り取っているのですから」と同氏は言う。「めったにはないですが、起きていることは確かです」。

将来はチームメンバー?

CADによって進行腺腫の検出は改善しなかったとの研究結果は、やや期待外れであった。なぜなら、検診用大腸内視鏡検査の作業手順をスピードアップし、合理化する技術をさらに開発しなければならないからである、とUmar氏は説明した。

現在、検診として大腸内視鏡検査を受ける人の数は、国のガイドラインが推奨する数よりはるかに少ない。「しかし、大腸内視鏡検査を必要な件数だけ行えるほどには消化器内科医が足りていません」とUmar氏は言う。地方など一部の地域ではすでに熟練専門医の不足によって、人々が適時に検査を受けられなくなりつつある。

AIベースのシステムによって大腸内視鏡検査のプロセスを迅速化することができれば、この分野の労働力不足の解消に役立つかもしれない、とUmar氏は述べる。

今回のランダム化比較試験では、コンピュータ支援による検出を加えてもプロセスが遅くなることはなく、これは重要な第一歩であるとのことである。

この技術は、バレット食道と呼ばれる症状のある人での食道がん早期徴候のチェックなど、同様の手技にもいずれ役立つかもしれない、とUma氏は述べる。

食道の前がん領域は平坦であることが多いため、結腸や直腸のがんよりも発見はさらに難しい。「しかし、これは(消化管の)どこでも同じ問題で、がんになりそうな病変をどのように特定するのか、ということです」と同医師は言う。

今のところ、AIシステムは、切望される新人内視鏡医の育成において役割を果たすかもしれない。というのも、新人内視鏡医は経験が浅いため、問題のあるポリープを見逃すことも当然多いためであるとUmar氏は説明する。

真に画期的な進歩とは、大腸内視鏡検査で確認されたポリープが潜在的に危険なものであるかどうかを、リアルタイムである程度確実に判断できるコンピュータシステムであろう、とShung医師は言う。現在、大腸内視鏡検査で摘出された組織は病理医に送り、分析する必要があるが、それには数日かかる。

「私が希望するものは、すべてのポリープを検出し、それががんかどうかを[リアルタイムで]教えてくれるアルゴリズムです。そうすれば、患者との時間をより多くとって、[次に]何をすべきかをカウンセリングすることができます」とShung医師は言う。

このようなシステムがすぐにクリニックに導入されることはないだろうが、大腸内視鏡検査機器を作製する企業はすでにAIを直接システムに組み込み始めている、とShung医師は付け加えた。

「[いずれは]内視鏡に直接搭載されるようになるでしょう。それが将来実現すると思います」。

「人々はAIに仕事を奪われることを心配しがちです。しかし、私はAIをチームメンバー、補完的なものとして考えています。それによって[空いた時間ができ]、人が人の世話をすることができるようになります」と同医師は言う。

  • 監訳 中村能章(消化管悪性腫瘍/国立がん研究センター東病院)
  • 翻訳担当者 山田登志子
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  • 原文掲載日 2023/10/10

【この記事は、米国国立がん研究所 (NCI)の了承を得て翻訳を掲載していますが、NCIが翻訳の内容を保証するものではありません。NCI はいかなる翻訳をもサポートしていません。“The National Cancer Institute (NCI) does not endorse this translation and no endorsement by NCI should be inferred.”】

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