治療抵抗性大腸癌患者に新しい治療法の可能性

一部の大腸癌患者群では抗上皮増殖因子受容体(抗-EGFR)療法が有効であるが、数カ月で抵抗性を生じてしまう。米国癌学会の学術誌Cancer Discoveryの6月号に発表された研究によると、抗-EFGR療法に抵抗性を生じる癌では、METと呼ばれる遺伝子の過剰発現がみられることがある。この論文に掲載された予備試験データは、マウスに移植したMET遺伝子の増幅がみられるヒト腫瘍に対してMET阻害薬が有効であることを示している。

MET遺伝子の増幅は大腸癌の約10%で認められ、予後の悪化に関係していることが知られている。

この研究は、2013年米国臨床腫瘍学会(ASCO)年次大会の口頭発表でも発表された。

「われわれの研究は、抗-EGFR療法に抵抗性を示す大腸癌はMET遺伝子の増幅が原因である可能性を示しています」と、イタリアのトリノ大学腫瘍学教室准教授Alberto Bardelli医学博士は述べる。「しかし、それよりも興味深いのは、血液中の遺伝子増幅を検出できたということです」。

Bardelli氏によると、一部の転移性大腸癌では抗-EGFR薬であるセツキシマブやパニツムマブが有効であるが、ほとんどの場合、治療開始後数カ月以内に抵抗性が生じる。このうち約60%はEGFRシグナル伝達に関連するKRASやBRAF、NRASなどの遺伝子変異が原因である。これらの遺伝子変異が認められない腫瘍で抵抗性が生じる原因は解明されていない。

「残念なことに、現時点では抗-EGFR療法後に再発がみられた患者さんに対する治療法はありません」と、Bardelli氏は述べる。「MET遺伝子の増幅が認められる患者さんではMET阻害薬が有効な可能性があるため、血液検査によってこのような患者さんを特定できるかもしれないという結果は興味深いものです」。

Bardelli氏らは、抗-EGFR療法後に抵抗性を生じた7人の患者の腫瘍を分析し、既知の遺伝子変異が認められなかった3人の患者を特定した。同氏らは、次世代シーケンサーを用いてこれら3つの腫瘍検体でMET遺伝子が増幅していることを確認した。

3人の患者のうち2人については、抗-EGFR療法中、再発がみられるまで定期的に採取した血液検体を入手することができた。研究者らは、血液中のMET遺伝子増幅の検出に成功し、遺伝子増幅が再発前に起こっていたことを明らかにした。Bardelli氏によると、血液中のMET遺伝子増幅を検出する技術は、薬剤抵抗性や腫瘍再発を監視・予測するための非侵襲性で高感度な検査法の開発につながる。

研究者らは、患者由来の薬剤抵抗性大腸癌をマウスに移植し増殖させた「異種移植モデル(xenopatient)」を用いて、KRASやBRAF、NRAS遺伝子には変異が認められないがMET遺伝子の増幅が認められる、これまでとは生物学的に異なった抗-EGFR薬抵抗性の腫瘍型を発見した。さらに、蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)法および免疫組織化学(IHC)法と呼ばれる特殊技術を用いて、この腫瘍型におけるMET遺伝子およびMETタンパクの過剰発現を確認した。

次に研究者らは、米国で臨床承認されているMET阻害薬であるcrizotinib(クリゾチニブ)の異種移植モデル2例に対する効果を検証した。Bardelli氏によると、いずれの異種移植モデルにおいてもMET阻害薬と抗-EGFR薬を併用した場合に最も高い抗腫瘍活性と持続性反応が認められた。また同氏は、この結果はMET阻害薬の単独投与または抗-EGFR薬との併用投与が新しい治療法となり得ることを裏づけるものである、とも述べた。

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翻訳担当者 佐々木真理

監修 石井一夫 (ゲノム科学/東京農工大学)

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