MDアンダーソンによるASCO2023発表
MDアンダーソンがんセンター(MDA)
急性リンパ性白血病(ALL)、大腸がん、メラノーマ、EGFRおよびKRAS変異に対する新規治療、消化器がんにおける人種的格差の縮小を特集
テキサス大学MDアンダーソンがんセンターの研究ハイライトではがん治療、研究、予防の最新の進歩について紹介している。こうした進歩は世界をリードするMDアンダーソンがんセンターの臨床医と研究者の枠を超えた連携によって可能となり、研究の領域から臨床の領域へ、そしてまた研究の領域へと発見がもたらされる。
本特別版では、2023 年の米国臨床腫瘍学会 (ASCO) 年次総会での MD アンダーソンの研究者によるプレゼンテーションを特集する。(抄録: 398868, 425082, 6546, 3501, 6008, 9502, 9011, 9008)
1) ポナチニブと化学療法の併用が新規診断のフィラデルフィア染色体陽性ALLをコントロールする(抄録398868)
新たにフィラデルフィア染色体陽性急性リンパ芽球性白血病(Ph+ALL)と診断された患者に対する標準治療には、ポナチニブ(販売名:アイクルシグ)やイマチニブ(販売名:グリベック)のようなBCR-ABL1チロシンキナーゼ阻害薬と化学療法の併用療法が挙げられるが、やがて耐性が生じて病状が進行する。Elias Jabbour医師が主導した第3相PhALLCON試験の結果によると、患者はイマチニブ+化学療法の場合と比べ、ポナチニブ+減量化学療法の場合で良好な反応を示した。ポナチニブによる治療のレジメンでは、最小残存病変(MRD)陰性率がイマチニブによる治療の場合に比べて有意に高く、それぞれ34.4%と16.7%であった。さらに、導入療法終了時のMRD陰性率はポナチニブで41.6%、イマチニブで20.5%であった。本試験には245人の患者が無作為に組み入れられた。年齢中央値は54歳であった。両治療群とも忍容性は良好で、有害作用は同等であった。Jabbour医師は2月17日のASCO Plenary Seriesで本結果を発表し、6月3日には最新の結果を発表する。
2)アダグラシブの安全性やKRAS G12C変異固形がんに対する臨床的可能性が示される(抄録425082)
KRAS G12C阻害薬アダグラシブ[adagrasib](販売名:Krazati、Mirati Therapeutics社)は、KRAS G12C遺伝子変異を有する非小細胞肺がん(NSCLC)および大腸がん(CRC)患者において臨床活性を示したが、この変異を有する他の固形がんタイプにおける効果は不明である。Shubham Pant医師が率いる研究チームは、第2II相KRYSTAL-1試験において、NSCLCとCRCを除くKRAS G12C遺伝子変異がんを有する患者64人を対象にアダグラシブを評価した。57人中20人に奏効が認められ、客観的奏効率(ORR)は35.1%であった。奏効期間中央値は5.3カ月、無増悪生存期間中央値は7.4カ月であった。特に膵がんと胆道がん患者のORRはそれぞれ33.3%と41.7%であった。ほとんどの患者(96.8%)が治療に関連した有害事象を経験し、27%がグレード3またはグレード4の有害事象を経験したが、投薬中止に至ったものはなかった。これらの結果はJournal of Clinical Oncology誌に掲載され、Pant医師は4月20日のASCO Plenary Seriesで発表した。また、Pant医師は6月3日に最新の結果を発表する。
3)メディケイドの拡大は消化器がん患者の死亡率低下および人種的格差と関連する(抄録6546)
消化器がんの医療提供状況と生存率における人種的格差の縮小に対して2014年に施行されたAffordable Care Act(医療制度改革法)のメディケイド(低所得者に対する公的扶助)の有効性を検討するため、Naveen Manisundaram医師とGeorge Chang医師を中心とする研究チームは、2009〜2019年の全米がんデータベース(National Cancer Database)のデータを分析した。分析対象は、膵臓がん患者19,188人、大腸がん患者60,404人、胃がん患者6,460人を含む、黒人患者22,109人、白人患者63,943人であった。メディケイドの拡大は2年間の死亡率の有意な低下と関連しており、メディケイドを拡大していない州に居住する黒人患者に比べ、拡大する州に居住する黒人患者の死亡率の低下はさらに大きかった。本研究は、メディケイドを拡大していない州では変わらないもしくは悪化している消化器がん患者の死亡率に対して、既存の人種的格差を改善させる上で、医療アクセスが与える影響を強調するものである。
研究チームは、メディケイドの拡大が生存率と医療提供に同様の効果をもたらしたかどうかを調べるため、他のがん腫のデータを調査する予定である。Manisundaram医師は6月3日に研究結果を発表する。
4)HER2陽性転移性大腸がん患者における HER2標的療法の安全性と有効性を支持する試験 (抄録3501 )
単群試験であるDESTINY-CRC01試験において、HER2標的治療薬であるトラスツズマブ デルクステカン(T-DXd)(販売名:エンハーツ)が、標準治療と比較して難治性のHER2陽性転移性大腸がん(mCRC)において有望な抗腫瘍活性を示した。Kanwal Raghav医師率いる研究チームは、第2相国際共同ランダム化試験DESTINY-CRC02において、HER2陽性mCRC患者を対象に、2種類の用量(5.4mg/kgと6.4mg/kg)でT-DXdの有効性と安全性を評価した。本試験は主要評価項目である確定客観的奏効率(cORR)を達成し、低用量投与群82人のcORRは37.8%、高用量投与群40人のcORRは27.5%であった。グレード3の有害事象を経験した患者もいたが、全体的な安全性はT-DXdの既知のプロファイルと一致しており、低用量投与のほうが良好であった。本試験は、mCRCのHER2陽性集団におけるT-DXdの安全性プロファイルと抗腫瘍活性の可能性を強調するものであり、さらなる研究が必要である。Raghav医師は6月4日に研究結果を発表する。
5)免疫化学療法は喉頭がん患者が直面する重篤な副作用を軽減する可能性 (抄録6008 )
手術や放射線療法は、声帯のがんである喉頭扁平上皮がんに対する有効な治療法であるが、嚥下障害や発声障害などの副作用を引き起こす可能性がある。このようなリスクを軽減する新しい治療法を探索するために、Renata Ferrarotto医師率いる研究チームは、免疫療法薬と化学療法の新しい組み合わせであるペムブロリズマブ(販売名:キイトルーダ)、シスプラチン、ドセタキセル(販売名タキソテール)の併用による試験を行った。23人の患者を対象とした第2相試験において、4サイクルの治療後の喉頭生検で病変が認められなかった患者は78.3%であり、併用療法を行った全例で病勢コントロールが示された。免疫化学療法単独で治療を行ったのは、試験全体で患者の47.8%であった。治療に関連した有害事象で最も多く見られたものは、疲労、貧血、下痢、吐き気であった。この結果から、3剤の併用療法は喉頭がん患者の一部に有望な選択肢を提供する可能性があると考えられた。研究チームは、喉頭機能の転帰についての解析を継続している。Ferrarotto医師は6月5日に最新の試験結果を発表する。
6)新規免疫療法薬併用療法によるメラノーマ(悪性黒色腫)患者の予後改善について新しいデータが示される (抄録9502 )
第2/3相RELATIVITY-047試験の2年間の追跡データから、ニボルマブ(販売名:オプジーボ)とレラトリマブという2つの免疫チェックポイント阻害薬を併用することで、未治療の進行メラノーマ患者に長期的なベネフィットがもたらされることが示された。Hussein Tawbi医学博士が主導する本試験のこれまでの報告では、ニボルマブとレラトリマブの併用療法がニボルマブ単独療法と比較して無増悪生存期間(PFS)を改善しており、この結果が2022年の食品医薬品局(FDA)の承認につながっている。今回の最新結果では、併用療法はPFS中央値を改善しただけでなく(10.2カ月 vs. 4.6カ月)、より高い客観的奏効率(43.7% vs. 33.7%)を達成することも示された。疾患関連死のみを組み入れたメラノーマ特異的生存期間(MSS)は併用療法群で高かったが、中央値にはまだ達していない。これらの所見は主要なサブグループ(MSSを含む)で一貫しており、安全性プロファイルは過去の報告と一致していた。これらの結果は、ニボルマブ+レラトリマブがメラノーマに対する安全かつ有効な治療法であることを示すさらなる根拠となる。Tawbi医学博士は6月5日にデータを発表する。
7)新規標的治療薬BLU-945はEGFR遺伝子変異肺がんにおいて腫瘍縮小をもたらす (抄録9011 )
オシメルチニブ(販売名:タグリッソ)のような標的治療薬が有効であるにもかかわらず、進行EGFR遺伝子変異非小細胞肺がん(NSCLC)患者の多くは最終的に病勢が進行する。このような患者に対する新たな選択肢を探るため、第1/2相試験SYMPHONYでは、変異型EGFRを標的とする新規治療薬BLU-945の単独またはオシメルチニブとの併用による安全性と有効性を評価した。Yasir Elamin医師が主導した本試験では、BLU-945を1日400mg以上投与された患者の約半数(48%)で腫瘍サイズの縮小が認められた。BLU-945の単剤投与と併用療法のいずれにおいても、循環血中の腫瘍由来DNAの確実な減少が認められており、特に併用療法を行う場合では低用量でのBLU-945による治療が必要であった。多くの患者で治療の忍容性は高かったが、疲労、吐き気、下痢などの軽微な副作用が観察された。Elamin医師は6月5日に現在進行中の研究の結果を発表する。
8)進行肺がんにおけるソトラシブの一貫した有用性がバイオマーカー解析で明らかに (抄録9008 )
KRAS G12C阻害薬の初の第3相無作為化試験であるCodeBreaK 200において、研究チームは、治療歴のあるKRAS G12C遺伝子変異進行非小細胞肺がんに対して、ソトラシブ(販売名:ルマケラス)が化学療法薬のドセタキセル(販売名:タキソテール)よりも優れていることを実証した。ソトラシブは、がんの増殖に関与し、これまで薬剤の標的とすることが困難であった変異型KRAS G12Cタンパク質の活性を阻害する。Ferdinandos Skoulidis医学博士が主導した探索的バイオマーカー解析によると、ソトラシブは、主要遺伝子であるSTK11、KEAP1、EGFR、MET、TP53に共存遺伝子変異を有する患者や、様々なPD-L1の発現レベルの患者を含む、事前に規定したすべての患者集団で一貫した臨床的有用性を示した。この研究では、治療効果を予測するバイオマーカーは確認されなかったが、今後の研究に活用される新しい概念が明らかになった。Skoulidis医学博士は6月6日に研究結果を発表する。
- 監訳 田中謙太郎(呼吸器内科、腫瘍内科、免疫/九州大学病院 呼吸器内科)
- 翻訳担当者 加藤千恵
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- 原文掲載日 2023/05/25
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