局所進行直腸がんの一部の患者は放射線療法を省略しても安全である可能性

米国臨床腫瘍学会(ASCO2023)

ASCOの見解

「大腸がん患者の治療において、私たちは転換期を迎えています。新しい治療法を開発すると同時に、患者の健康にとって有害な治療法をなくすことができる余地を検討しています。今回の試験結果は、まさにそれを可能にするものであり、一部の患者に対して放射線治療を省略することができ、有効性を損なうことなくQOLを向上させることができることを示しています。このような患者に対する治療法が進化し続けている中で、このような実診療を変えるような知見は重要です」
-Pamela L. Kunz医師(ASCO専門医)-

化学療法に反応する腫瘍を有する局所進行直腸がん患者は、術前放射線療法を安全に省略することができる。放射線療法を省略することで、QOLに影響する短期的・長期的な副作用を低減することができ、しかも無病生存率や全生存率は同様の結果が得られる。連邦政府の資金提供を受けた本研究結果は、米国臨床腫瘍学会年次総会2023(ASCO2023)で発表され、2023年6月4日にNew England Journal of Medicine誌(有効性)とJournal of Clinical Oncology誌(患者報告アウトカム)で同時発表される。

大腸がん試験要旨

目的手術前の化学療法に反応する局所進行直腸がん患者に対する術前放射線療法を省略すること
対象者低位前方切除および直腸間膜全切除を伴う括約筋温存手術を受ける前の術前化学放射線療法の対象となる局所進行直腸がん患者1,194人。年齢中央値は57歳、34.5%が女性であった。
結果・5年後の無病生存率は、対照群の術前化学放射線療法を受けた患者で78.6%、化学放射線療法を選択的に使用する術前化学療法を受けた患者で80.8%であり、同程度であった。

・全生存率、外科的切除率、病理学的完全奏効などの他の評価項目も同程度であった。

・腫瘍が6サイクルの術前mFOLFOX6化学療法に反応する場合、直腸がんの手術前に放射線療法を安全に省略することができる。 
重要性本試験の結果は、局所進行直腸がんに対して、すべての患者を化学放射線療法で治療するのではなく、術前化学療法と化学放射線療法を選択的に行うことが安全かつ効果的であることを示している。本試験は、妊孕性が温存できるなど、毒性を軽減する可能性のある新たな治療標準を患者に提供するものである。また、放射線療法へのアクセスが限られている国もあるため、これは世界的に見ても重要なことである。

主な知見

患者は、直腸と周囲のリンパ節にある腫瘍を取り除く手術である直腸間膜全切除を伴う括約筋温存低位前方切除術の前に、2つの治療法のいずれかを受けるようにランダムに割り付けられた。

対照群は、手術前に化学放射線療法(放射線療法と5FU/カペシタビン併用療法)の標準治療を受けた。これは、試験設計時の標準治療であった。試験群は、化学療法の組み合わせであるmFOLFOX6を受けた。mFOLFOX6によく反応し、腫瘍が20%以上縮小した場合、患者は直ちに手術を受けた。腫瘍が20%以上縮小しなかった場合、またはmFOLFOX6を継続できなかった場合は、手術前に対照群と同じ化学放射線療法を受けた。

5年後、検討したどの評価項目においても、2つの治療群間で統計学的に有意な差は認められなかった。これは、mFOLFOX6化学療法による治療に腫瘍が反応すれば、手術前に放射線療法を安全に省略することができることを意味している。ランダム化から5年後の結果は以下のとおりであった:

・無病生存率は化学放射線療法群で78.6%、mFOLFOX6選択的化学放射線療法群で80.8%であった。

・全生存率は、化学放射線療法群で90.2%、mFOLFOX6選択的化学放射線療法群で89.5%であった。

・外科的切除率(腫瘍と周辺組織の完全除去)は、化学放射線療法群で97.1%、mFOLFOX6選択的化学放射線療法群で98.8%であった。

・局所再発率は非常に低く、両群で同様であった(2%)。

・病理学的完全奏効(治療後の手術で組織にがん細胞の徴候がないこと)は、化学放射線療法群で24.3%、mFOLFOX6選択的化学放射線療法群で21.9%であった。

・試験群でmFOLFOX6を投与された患者のうち、術前化学放射線療法を必要としたのは9%のみであった。

「本試験では、局所進行直腸がん患者に対して、FOLFOXと、化学放射線療法を選択的に使用する術前療法が確立されました」と、筆頭著者であるDeb Schrag医師(スローンケタリング記念がんセンター、FASCO、MPH)は述べた。「この選択肢を持つことは、いくつかの理由から重要です。まず、世界の多くの地域では、放射線療法が容易に利用できる状態ではありません。このような医療資源に制約のある環境で、化学療法のみで使用する治療方法によって、根治目的の治療が利用しやすくなる可能性があります。さらに、若い患者における大腸がんの発生率が上昇していることを考慮すると、妊孕性の温存や早期閉経の回避を希望する患者にも選択肢を提供することができます」。

2023年に米国では直腸がんと診断される患者は46,050人に上ると推定される。大腸がんの治療と早期発見の進歩により、死亡率は着実に低下しており、局所進行直腸がんの5年相対生存率は74%となっている1

しかし、死亡率が低下している一方、若年層の患者で発症率が増加している。放射線療法は、不妊症、卵巣障害、一時的なオストミーの必要性、下痢、けいれん、便失禁、膀胱障害など、生活の質に悪影響を及ぼす、重大な短期・長期的有害事象を伴うことがある。また、化学療法には、疲労、吐き気、嘔吐、白血球数の低下、感染症、神経障害(手足のしびれや麻痺)などの副作用がある。本試験は、患者に代替治療の選択肢を提供するものである。

局所進行大腸がんに対する化学放射線療法を検証する第3相試験試験について

第3相PROSPECT試験では、2012年6月から2018年12月にかけて、近くの組織やリンパ節に転移しているが遠隔臓器への転移はない直腸がん患者1,194人が登録された。患者は化学放射線療法(対照)群またはmFOLFOX6化学療法と化学放射線療法の選択的使用(介入)群にランダムに割り付けられ、1,128人の患者が試験期間中に治療を受けることになった。

対照群では、543人の患者が直腸の一部と周囲のリンパ節を切除する直腸間膜切除を伴う低位前方切除術の前に、5.5週間かけて28回の放射線治療を行う化学放射線治療を受けた。化学放射線療法は、5FUCRTと呼ばれる、放射線療法と増感作用のある薬剤フルオロピリミジン(5FUの静注投与またはカペシタビンの経口投与)の併用療法であった。

介入群では、585人の患者がmFOLFOX6と呼ばれる6サイクルの化学療法を受け、その後、腫瘍の病期再診断を受けた。骨盤のフォローアップMRIに基づいて腫瘍が20%以上縮小した場合、手術前に放射線療法は行われなかった。腫瘍が20%以上縮小しなかった場合は、手術前に5FUまたはカペシタビンの投与と放射線療法が行われた。介入群では、腫瘍が20%以上縮小しなかった患者53人(9%)が手術前に放射線療法を必要とした。手術後、医師と患者は追加の化学療法を受けることを選択することができた。両群ともほとんどの患者が、さらに術後にmFOLFOX6化学療法を受けることになった。

次のステップ

本試験では、参加者の追跡調査を継続し、無病生存率、全生存率、無局所再発生存率、およびその他の副次評価項目に関する追加データを8年間収集する予定である。追加試験では、本試験で採取された生物学的検体を評価し、化学放射線療法に反応する可能性が高い、あるいはmFOLOFOX6化学療法に反応する可能性が高いことに関連する腫瘍の特徴があるかどうかを評価する予定である。

参考文献

1. Colorectal Cancer: Statistics: https://www.cancer.net/cancer-types/colorectal-cancer/statistics

  • 監訳 松本 恒(放射線診断/仙台星陵クリニック)
  • 翻訳担当者 瀧井希純
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  • 原文掲載日 2023/06/04

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