2010/03/23号◆特集記事「I−SPY2乳癌臨床試験:新薬の臨床応用を迅速化する」

同号原文
NCI Cancer Bulletin2010年3月23日号(Volume 7 / Number 6)


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◇◆◇ 特集記事 ◇◆◇

I−SPY2乳癌臨床試験:新薬の臨床応用を迅速化する

3月17日、米国国立衛生研究所財団とそのバイオマーカーコンソーシアムはI-SPY2乳癌臨床試験の立ち上げを発表した。この試験は、有望な新薬を従来の第2相試験よりも迅速で費用効率よく第3相試験に進ませる今までにない治験である。
I-SPY2(Investigation of Serial Studies to Predict Your Therapeutic Response with Imaging and Molecular Analysis 2)試験では、パクリタキセルドキソルビシンシクロホスファミドを用いた標準的な術前化学療法に併用する治験薬の投与が有効とみられる女性をバイオマーカーを用いて特定する。この試験には、エストロゲン受容体およびHER2の状態、MammaPrint検査により再発のリスクが高いとされた早期乳癌の女性を登録する。

「新しい抗癌剤の開発には、薬によってまたは対象とする癌の複雑さ次第で15〜20年の年月および7〜10億ドルの莫大な費用がかかります。これでは続きません。継続不可能であり、医療費を著しく増大させます」と、NCI副長官であるDr.Annna Barker氏はコメントした。

本試験の設定が術前化学療法であることは特に重要であると、カリフォルニア大学サンフランシスコ校のCarol Franc Buck乳房ケアセンターの教授、所長であり、本試験の共同責任医師であるDr.Laura Esserman氏は説明した。「転移病変を持つ患者を組み入れた試験では、新薬が生存期間を延長させるかどうか判明するまでに2〜5年かかります。術後化学療法では、新薬が寿命を延ばすかどうか判明するまでに5年、時には10年待たなくてはなりませんが、術前化学療法では、手術が行われる時点で、すなわち1年未満でこれらの患者に新薬が有効かどうかが判明します」と説明した。

I-SPY2試験ではこのように迅速に知見が得られることを利用して、試験に協力しデータを共有することに同意した多くの製薬会社の治験薬を12種類も検証することが可能になる。ある薬剤がいずれの患者集団でも効果を示さなかった場合はその薬剤を本試験から外し、代わりにI-SPY2の他の治験薬を試験する。

「ほとんどの会社は多くの候補化合物を抱えています。必要なのは、失敗にせよ、成功にせよ迅速化することなのです。そうすれば、試験にかかるコストや時間を最小限にできます」とEsserman氏は述べた。

I-SPY試験の患者集団は、正確に再現性よく測定できる癌の遺伝的・生物学的特性であるバイオマーカーによって分類される。I-SPY2試験で用いられるバイオマーカーは標準、予備的、試験的バイオマーカーの3つに分類できる。標準バイオマーカーはエストロゲン受容体やHER2など乳癌の予後と相関することがわかっているもの、予備的バイオマーカーは治験薬と関連があると考えられるが臨床試験では確認されていないもの、また、試験的バイオマーカーは、本試験中に行われる全ゲノムシークエンス研究から得られたものとする。

1つ以上のバイオマーカーで分類された患者群において第3相試験で成功する確率をI-SPY2試験独自の統計学的手法を用いて算出し、85%を示した薬剤はI-SPY2試験を「卒業」とし、試験を待つ他の薬剤と入れ替えると、I-SPY2試験の共同責任医師であるDr.Donald Berry氏は説明した。有望な薬剤は、その有効性が予測されるバイオマーカー特性を示す腫瘍の女性を対象とした第3相試験に送られる。

「抗癌剤の開発は過去、初期の臨床試験段階の非効率な計画によって阻まれてきました」と、テキサス大学M.D.アンダーソンがんセンター生物統計学部門教授で議長でもあるBerry氏は述べた。I-SPY2試験では、新薬を特定の癌腫の全患者で試験するのではなく、ベイズ更新(統計学的手法)を用いて、他の患者とは違う治療が必要と思われる乳癌患者の集団に適応させて重点的に試験を行う。

I-SPY2試験の全参加者は、血液検体と腫瘍組織を用いて3種類のバイオマーカーの検査を受け、治療前と治療中にMRI検査を受ける。バイオマーカーの分析には、アイデアを実証するためのI-SPY1試験中に構築され、caBIGにより開発されたツールを含む広範囲の共同情報基盤が用いられる。そのようなツールの1つであるcaIntegratorは、分子情報、画像データ、臨床所見を統合して、病勢進行と生存における薬剤の影響を予測することができる。

試験が進行するのに伴い、特定の薬剤に反応した腫瘍を有する女性のバイオマーカーパターンを用いてその薬剤がより効果的であろう患者を追加選択できるようになる。試験医師たちはさらに、バイオマーカー特性によって、より小規模で、対象を限定した第3相試験の開発が可能になることを望んでいる。

「私たちが目標とする第3相試験の患者規模は300人で、従来の第3相試験で必要な数千人より1桁小さいものです。ある薬剤が有効であると前もって予測される患者集団を対象とするため、それが可能となるのです」とBerry氏は説明した。

試験予定の治験薬I-SPY2では最大で12種類の互いに異なった種類の治験薬を試験する。全ての薬剤の結果情報は参加する製薬会社で共有され、開発候補化合物を将来研究する指針となる。I-SPY2で最初に試験する5つの薬剤は、外部の専門委員会ですでに決定している。
・ABT-888(veliparib):Abbot Laboratories社により開発されたPARP阻害薬
・AMG 655(conatumumab):Amgen社により開発されたAPO-TRAIL阻害薬
・AMG 386:Amgen社により開発された血管新生阻害薬
・CP-751,871(figitumumab):Pfizer社により開発されたIGFR阻害薬
・HKI-272(neratinib):Pfizer社により開発された汎ERbB阻害薬

–—Sharon Reynolds

資金源I-SPY2試験は5年間でおよそ2600万ドルの費用がかかる。本試験の資金は、米国国立衛生研究所財団を通じて調整され、これまでにSafeway基金、Johnson & Johnson社、Genentech社、Lilly社などのさまざまな民間団体からの資金提供を受けた。さらに、企業、癌の非営利団体、慈善基金、個人からの出資を募っている。

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野長瀬 祥兼 訳
金田 澄子 (薬学)監修 

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