白血病薬アシミニブはHER2陽性転移性乳がんに有望

デュークがん研究所の研究者が主導した動物実験において、白血病の治療薬として承認されている薬剤が、HER2陽性乳がん腫瘍の脳内コロニー形成能力の阻害に成功した。

この結果は、8月30日付のCell Reports誌に掲載され、ヒトでの臨床試験への根拠となり、致死的な乳がんでの主な経路の1つを阻害する新しいアプローチの可能性を示唆している。

「HER2陽性乳がんの治療は大幅に進歩していますが、腫瘍が治療法を逃れると、しばしば脳に転移します」と、上級著者のAnn Marie Pendergast医学博士(デューク大学医学部薬理学・癌生物学部教授、副学部長)は話す。

「脳転移が生じている場合、腫瘍が耐性を獲得しているか、治療薬が血液脳関門を通過できないため、治療はうまくいきません。患者にとっては、依然として厳しい診断です」とPendergast氏は述べた。

Pendergast氏らは、延命に大きな成果を収めている標的治療への耐性を獲得後にHER2がどのように乳がん増殖を促進させるかに注目した。HER2タンパクは、乳がんの30%においては促進力となり、約45%においては脳転移を引き起こす。

研究チームは、HER2の発現を制御するABL1キナーゼおよびABL2キナーゼと呼ばれる一組の酵素に着目した。これらキナーゼが、乳がん細胞の表面にHER2が集積する状態を作り出し、乳がん腫瘍の転移促進に重要な役割を担っていることを見出した。

Pendergast氏のチームは、マウスを使った実験で、白血病治療薬のアシミニブ(販売名:セムブリックス)を用いてこれらABLキナーゼを阻害することに成功した。キナーゼ阻害薬である同剤は、担がんマウスの血液脳関門を通過し、ABLキナーゼのシグナル伝達機構を阻害する。

ABLシグナル伝達ネットワークが遮断されると、乳がん細胞にHER2タンパク質は集積されず、がん細胞の増殖および転移促進のプロセスは停止する。

「これらの知見はHER2陽性脳転移の治療におけるABLキナーゼ阻害薬の使用を支持するものです」と、Pendergast氏は語った。


  • 監訳 高光恵美(生化学、遺伝子解析)
  • 翻訳担当者 平 千鶴
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  • 原文掲載日 2022/08/29

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