HER2低発現の転移乳がん、トラスツズマブ デルクステカン治療によりQOL維持

HER2低発現の転移乳がん、トラスツズマブ デルクステカン治療によりQOL維持

MDアンダーソン、DESTINY-Breast04試験の患者報告アウトカムを発表

ヒト上皮増殖因子受容体2(HER2)低発現の転移を有する乳がんに対し、トラスツズマブ デルクステカン(T-DXd)(販売名:エンハーツ)の投与を受けた患者らから、この治療が従来の化学療法よりも患者の生活の質(QOL)を維持するとの報告があったことが、2022年9月11日、欧州臨床腫瘍学会(ESMO)2022年大会にてテキサス大学MDアンダーソンがんセンターの研究者らによって発表された。

事前に規定された患者報告アウトカム指標を踏まえ、研究者らは、全般的な健康状態およびQOLについて、回復がみられないほど悪化するまでの時間(TDD)がT-DXdでは11.4カ月であるのに対し医師の選択による化学療法ではわずか7.5カ月であり、T-DXd治療が転移を有する乳がん患者のQOL低下を遅らせることを示した。

「DESTINY-Breast04試験は、無増悪生存期間と奏効率の改善を報じており、HER2低発現の転移を有する乳がん患者の診療を一転させるものでした」と、筆頭著者である乳腺腫瘍科教授の上野直人医学博士 (Naoto Ueno, M.D., Ph.D.)は述べる。「この治療法に効果があることは分かっていますが、患者さんが治療にどのように耐え、治療が健康全般にどのような影響を与えたかをよりよく理解するために、患者さん自身の声を聞きたいと思いました」。

DESTINY-Breast04試験の結果は、以前New England Journal of Medicine誌に掲載され、HER2標的抗体薬物複合体であるT-DXdが、化学療法による標準治療と比較して無増悪生存期間を2倍に延長したことを示している。T-DXdは、HER2陰性乳がんのうちの新たに規定されたがんであるHER2低発現乳がんの患者の全生存期間も有意に改善した。2022年8月、米国食品医薬品局(FDA)は、T-DXdをHER2-低発現の転移を有する乳がん患者に対する初の標的治療薬として承認した。

本試験では、切除不能および/または転移を有する進行したHER2低発現乳がんで、過去に1〜2ラインの化学療法を受けた患者557人を対象とした。DESTINY-Breast04に登録された患者には、治療前、治療中、および治療後の、健康関連QOLに関する質問票への回答が求められた。3種類の確立された質問票に、試験開始時にはほぼすべての患者が回答し、治療サイクル2~27の指定された時点では80%以上の患者が回答した。

臨床的に意味のある悪化の指標であるTDDの定義は、すべての患者報告アウトカム指標において、試験開始時と比較して10ポイント以上の低下とした。TDDは、本試験で使用された3種類の患者報告アウトカム指標にわたって測定された。EuroQol 5-dimension質問票は、患者の健康全般に関する認識を数値で測定するものである。

全般的な健康状態とQOLは、European Organization for Research and Treatment of Cancer(EORTC)のQOL Core 30質問票(QLQ-C30)にて測定された。この質問票は、患者が全般的な健康状態とQOLについてどのように感じているか、また、症状があることによる困難や特定の日常業務を行う上での困難を直近1週間でどの程度経験したかについて、数値で評価するよう求めるものである。

痛みの症状尺度により、回復がみられないほど悪化するまでの時間は、T-DXdを投与された患者では16.4カ月、化学療法を受けた患者ではわずか6.1カ月であったことが示された。この結果は、痛みが患者のQOLに大きな影響を与えることが知られているゆえに重要である。

T-DXdを投与された患者では、全般的な健康状態およびQOLは治療期間をとおして維持されており、治療によって患者報告の健康関連QOLは低下しないことが示唆された。

「化学療法を受ける乳がん患者さんの多くは、副作用がQOLに影響を及ぼすため、治療サイクルを減らしたり、治療を中断したりしなければなりません」と上野医学博士は述べる。「本試験において、患者さんに生存期間の延長が認められ、さらなるQOLの低下はなかったとの報告がされたことは、大変喜ばしいことです。このデータは、HER2低発現の転移を有する乳がん患者さんに対するT-DXdの潜在的な有用性をさらに裏付けるものです」。

現在進行中のいくつかの研究では、T-DXdの活性に必要なHER2発現の最小閾値を調査している。

本試験は、第一三共株式会社とアストラゼネカ社から資金提供を受けている。上野医学博士は、第一三共から機関研究費およびコンサルティング料を受領している。

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アブストラクト番号21700

日本語記事監訳:尾崎由記範(腫瘍内科・乳腺/がん研究会有明病院)

翻訳担当者 松谷香織

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