非浸潤性乳管がん(DCIS)と後の浸潤がんとの生物学的相違ー遺伝子研究による考察
DCIS後の乳がんはDCIS原病巣から発生するとは限らない
非浸潤性乳管がん(DCIS)後の浸潤性乳がんはすべてDCIS原病巣から発生するという長年の通説が覆された。これはテキサス大学MDアンダーソンがんセンターの研究者を含むグローバルなCancer Grand Challenges PRECISIONチームが主導する新しい研究によるもので、浸潤性乳がんのおよそ5分の1が元のDCISとは遺伝学的に無関係であることが明らかになったとして、Nature Genetics誌に掲載された。
この結果は、DCISの生物学的特徴をより深く理解することにつながり、今後の研究でDCISが進行する症例を特定したり、DCISの女性患者に対する適切な介入戦略を決定したりするための礎となるものである。
「世界最大のDCISコホートを解析した結果、初発DCISの後に生じる一部の浸潤性乳がんは、初発DCISとは関連がないことがわかりました。このデータは、DCISの進行に関するこれまでの理解を覆すものであり、どのDCIS病変が浸潤性乳がんに進行する可能性が高いかを判断するための、より優れた予測バイオマーカーを特定する出発点となるものです」と共同研究者である遺伝学専攻大学院生Tapsi Kumar氏(博士)は述べる。
DCISは、乳管内の異常細胞の存在を示すもので、浸潤前の乳がんの最も一般的な形態である。この状態はほとんどの場合、無害であり、DCIS女性患者のうち、後に浸潤性乳がんを発症するのは10%未満とされている。
DCISのどの症例が進行するかを予測することは現在のところ困難であるため、ほとんどの症例では浸潤性乳がんの発生を予防するための治療が推奨される。そのため、DCISと診断された患者のほとんどは、手術、放射線、ホルモン療法を組み合わせた治療を受けているが、最終的にはほとんど効果が得られない。
Cancer Grand Challenges PRECISIONチームは、高リスクのDCISと低リスクのDCISを区別するためのより良いツールを開発し、多くの女性に対する過剰な治療を避けるために設立された。MDアンダーソンでの研究は、Kumar氏、遺伝学・バイオインフォマティクス・計算生物学の教授であるNicholas Navin博士、ゲノム医療部門長であるAndy Futreal博士によって主導された。Kumar氏はNavin研究室とFutreal研究室の両方に所属している。
この研究は、後に発生する浸潤性乳がんが、実際に初発DCISと関係があるのかどうかを明らかにするために計画された。DCISの女性で後に浸潤性乳がんを発症する人は比較的少ないため、この研究のためのサンプルを見つけることは困難であった。研究チームは、国際的な協力を通じて、DCISを有し、治療を受け、後に同じ乳房に浸潤性乳がんを発症した女性のサンプル95組を入手し、解析することができた。
研究チームは、一部のサブセットにおけるシングルセルDNAシーケンシングを含む全サンプルのゲノムシーケンシングを実施し、DCISと浸潤性乳がんの間の変異とコピー数の変化を比較した。
その結果、ペアサンプルの75%に確かに関連性があり、これらが同じ遺伝子異常を共有し、DCIS病変から浸潤性乳がんが発生したことが判明した。
しかし、18%のペアサンプルは関連がなく、浸潤性乳がんは元のDCISから独立して発生したことが示唆された。また、残りの7%のサンプルは結果が曖昧であり、研究者は関係性を明確にすることができなかった。
これらの結果は、DCISに続いて発生した浸潤性乳がんの約5例に1例は、真の再発ではなく、新たながんであることを示している。この結果は、研究者がDCISの再発リスクを正確に予測するバイオマーカーを特定することが困難であった理由の説明となる可能性がある。今後の研究では、これらの知見を基に、再発または新たながんを発症する可能性のあるDCIS女性のリスク因子を発見していくことになる。
「本研究は、DCISを前駆症状としてのみ捉えるのではなく、後発の浸潤性乳がん発症のリスク因子として捉えることができることを示しています。これはDCISの生物学と作用に関する重要な新情報であり、他の知見と合わせて、将来、臨床におけるこの疾患の管理と治療の方法を変える可能性があります」と英国キングス・カレッジ・ロンドンの共同上席執筆者であるElinor Sawyer氏(内科学士・博士)は述べる。
研究チームは、オランダがん研究所のJelle Wesseling教授(医学博士)が率いている。全共同研究者とその開示情報は、こちら(原文)で閲覧できる。また、Kumar氏がナレーションを担当した研究説明の動画は、ここから視聴できる。
Cancer Grand Challenges PRECISIONチームは、キャンサーリサーチUK(CRUK)およびオランダがん協会の助成を受けている。また、この研究は、Breast Cancer Now、Walk the Walk、Guy’s & St. Thomas’ Charity、キングス・カレッジ・ロンドンのCRUK King’s Health Partners Centre、国立衛生研究所/国立がん研究所(RO1CA240526、RFA-CA-17-035、R01 CA185138-01, RFA-CA-17-035)、Cancer Prevention and Research Institute of Texas(RP180684)、乳がん研究財団、Patient-Centered Outcomes Research Institute、米国国防省、National Institute for Health and Care Researchからも助成を得ている。
日本語記事監訳:花岡秀樹(遺伝子解析/イルミナ株式会社)
翻訳担当者 外山ゆみ子
原文掲載日
【免責事項】
当サイトの記事は情報提供を目的として掲載しています。
翻訳内容や治療を特定の人に推奨または保証するものではありません。
ボランティア翻訳ならびに自動翻訳による誤訳により発生した結果について一切責任はとれません。
ご自身の疾患に適用されるかどうかは必ず主治医にご相談ください。
乳がんに関連する記事
乳がん後の母乳育児が安全であることを証明する初めての研究結果
2024年10月14日
● この結果は、乳...
デノスマブなどの骨修飾薬に起因する顎骨壊死はそれほど稀ではない
2024年10月9日
顎骨壊死は、デ...
乳がんは周りの感覚神経を利用して広がる可能性
2024年10月7日
BRCA関連乳がんにおける乳房温存療法の長期的有効性
2024年9月1日