トリプルネガティブ乳がんに対する術前免疫療法の有用性に人種差はない
黒人患者と他人種の患者の治療転帰は同等
トリプルネガティブ乳がん患者に対する、デュルバルマブ(イミフィンジ)と化学療法併用の術前療法の治療転帰は、黒人患者と非黒人患者で同等であったとの第1/2相臨床試験の結果が、米国癌学会(AACR)誌「Clinical Cancer Research」に掲載された
トリプルネガティブ乳がんは、黒人に最も多く見られる悪性度の高い乳がんである。しかし、治療法の臨床試験において、黒人患者の参加数が十分ではないことが多いと、医学部教授で遺伝学・ゲノム学・エピジェネティクス プログラムの共同リーダー、イェール大学医学部がんセンター乳がんセンターの科学共同ディレクターであるLajos Pusztai医学博士は説明している。
「臨床試験で少数民族、特に黒人アメリカ人の参加が少ないことは、いくつかの点で問題である。第一に、黒人患者が、生命を救う可能性のある新しい治療法を非常に早い段階で公平に受けられないという点であり、第二には、祖先の系統が異なる集団間の薬物代謝、毒性、有効性の潜在的な違いを研究する機会が制限されるという点です」
デュルバルマブは、PD-1/PD-L1免疫チェックポイント経路を標的とする免疫療法薬である。Pusztaiらが以前に発表した臨床試験の結果では、術前のデュルバルマブと化学療法の併用が、非転移性トリプルネガティブ乳がん患者に有効であることが示されていた。しかし、最初の試験集団は、周辺地域の人種/民族や疾患集団の構成を反映していなかったとPusztai氏は指摘している。
Pusztai氏らは、黒人患者におけるこの治療法の有効性をよりよく理解するために、拡大コホートを組み入れ、黒人患者を追加で試験に受け入れた。この拡大コホートにより、本試験には67人の患者が参加し、そのうち21人(31%)が黒人であり、黒人患者の割合が地域社会での割合に近づいた。40人の患者は非ヒスパニック系白人、3人はヒスパニック/ラテン系、3人はアジア系であった。患者の特徴やベースラインの腫瘍の特徴は、人種間で大きな違いはなかった。
本試験に登録された67人の患者のうち、31人(46%)がデュルバルマブと化学療法の併用による術前療法で病理学的完全奏効(pCR)となった。人種による統計学的有意差は認められず、黒人患者では43%、非黒人患者では48%がpCRであった。
同様に、転移再発率(14% vs. 17%)、3年全生存率(81% vs. 87%)、3年無イベント生存率(71.4% vs. 78.3%)についても、黒人患者と非黒人患者との間に統計学的有意差は認められなかった。
黒人患者群と非黒人患者群の両群において、病理学的完全奏効(pCR)を得た患者は、pCRを得なかった患者と比較して、無イベント生存期間および全生存期間が有意に長かった。3年全生存率は、pCRを得た患者で96.8%、得ない患者で81.8%であった。3年無イベント生存率は、pCRを得た患者では90.3%、得ない患者では66.7%であった。
PD-L1の状態および有害事象には、人種による有意な差はなかった。
Pusztai氏は、「われわれの試験は、患者が同様の治療、および同様のフォローアップを受けた場合、黒人患者と非黒人患者の転帰の差が縮小することを実証しています」と述べている。「医療へのアクセスと医療の提供を改善することで、私たちの社会に存在する医療格差を軽減することができるでしょう」
本研究には、被験者数が少なく、1つの施設しか含まれていないという点で限界がある。本研究は、AstraZenecaのKomen Leadership Grant(SAC 160076)、米国国立衛生研究所のR01 グラント(1R01CA219647-01)の支援を受けて実施された。Pusztaiは、AstraZeneca、Merck、Novartis、Bristol Myers Squibb、Genentech、エーザイ株式会社、Pieris Pharmaceuticals、Immunomedics、Seattle Genetics、Clovis Oncology、Syndax Pharmaceuticals、H3 Biomedicineおよび第一三共から顧問料と謝礼を受け取っている。
日本語記事監修 :小坂 泰二郎(乳腺外科・化学療法/医療社会法人石川記念会 HITO病院)
翻訳担当者 古屋 千恵
原文掲載日
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