HER2タンパク低発現の乳がんに特徴的な挙動は認められない

HER2タンパクが豊富な乳がんの治療は、HER2を標的とするトラスツズマブ(販売名:ハーセプチン)などの薬剤の導入により大きく変化した。研究者は、HER2低発現(HER2-low)乳がんがトラスツズマブと化学療法薬の複合薬に対して反応することが多いのを発見し、HER2-low乳がんは、独自の挙動と予後を有する別のタイプの乳がんではないかと考えた。

ダナファーバーがん研究所による新たな調査は、HER2低発現(HER2-low)乳がんが異なるサブタイプの乳がんではないことを示唆している。5,000人以上の患者から得られたデータを解析したところ、これらのHER2-low乳がんは、治療への反応および長期間の転帰において、HER2タンパク質が完全に欠如しているかまたはごく少量である「HER2-0」乳がんと差がないことが示された。この結果は本日、JAMA Oncology誌で報告された。

この結果は、HER2-low乳がんとHER2-0乳がんの挙動における大きな相違は、HER2自体の発現レベルではなく、腫瘍細胞上のホルモン受容体の有無によるものであることを示唆している。

「乳がんの約80%は、HER2タンパク質を過剰発現していないため、HER2陰性に分類されます」と、ダナファーバー女性がんセンター、スーザン F. スミスセンター 乳腺腫瘍科の部門長であり本研究の統括著者であるSara Tolaney医師は述べた。「しかし、本グループ内においても、HER2の発現には大きな幅があります。タンパク質の発現量が低い乳がんはHER2-lowと呼ばれ、さらに少ないか全く発現していない乳がんはHER2-0と呼ばれています」。

「HER2-low乳がんの生物学的特徴については、どちらかというとほとんど知られていません。本試験では、HER2-low乳がんが異なるサブタイプの乳がんであるかどうかを明らかにしようとしました」とTolaney医師は述べた。

本試験では、ダナファーバー・ブリガムがんセンターで手術を受けた非転移HER2陰性乳がん患者5,235人のデータを解析した。研究者らは、ホルモン受容体(HR)陽性腫瘍またはトリプルネガティブ腫瘍の患者では、腫瘍がHER2-lowまたはHER2-0のいずれであっても、病理学的完全奏効率(治療後にがんの遺残が認められなかった患者の割合)は本質的に同等であったことを明らかにした。さらに、HR陽性腫瘍またはトリプルネガティブ腫瘍の患者では、無病生存期間(がんが検出されない期間)および全生存期間において、HER2-low群とHER2-0群との間に差は認められなかった。

また、HER2-lowのがん細胞上のエストロゲン受容体の存在量とHER2たんぱく質の存在量との間に正の相関が認められ、エストロゲン受容体の生成量が増加すると、HER2タンパク質の生成量も増加することが本解析により明らかとなった。

「試験の結果は、HER2-low乳がんとHER2-0乳がんの挙動および特性に大きな違いはないことを示しています」と、本試験の筆頭著者であるダナファーバー、ヨーロッパがん研究所、およびミラノ大学のPaolo Tarantino医師は述べた。「このため、HER2-low乳がんは、生物学的に異なるサブタイプの乳がんと考えるべきではありません。さらなる試験と診断技術の進歩により、新規の抗HER2複合薬の恩恵がHER2-low乳がん患者から、現段階でHER2-0乳がんと定義されている患者へと拡大することを期待しています」。

論文の共著者は以下の通りである。

Rinath Jeselsohn, MD; Julie Vincuilla; Tonia Parker; Tonia Parker; and Melissa Hughes, MSc, of Dana-Farber; Qingchun Jin, MPH; Nabihah Tayob, PhD; Svitlana Tyekucheva, PhD; Stuart Schnitt, MD; Tianyu Li, MS; Anna Weiss, MD; Tari King, MD; and Elizabeth Mittendorf, MD, PhD, of Dana-Farber and Brigham and Women’s Hospital; and Giuseppe Curigliano, MD, of the European Institute of Oncology and the University of Milan.

日本語記事監修 :下村昭彦(乳腺・腫瘍内科/国立国際医療研究センター 乳腺腫瘍内科)

翻訳担当者 三宅久美子

原文を見る

原文掲載日 

【免責事項】
当サイトの記事は情報提供を目的として掲載しています。
翻訳内容や治療を特定の人に推奨または保証するものではありません。
ボランティア翻訳ならびに自動翻訳による誤訳により発生した結果について一切責任はとれません。
ご自身の疾患に適用されるかどうかは必ず主治医にご相談ください。

乳がんに関連する記事

次世代PARP阻害薬サルパリブ、相同組換え修復不全乳がんで臨床的有用性を示すの画像

次世代PARP阻害薬サルパリブ、相同組換え修復不全乳がんで臨床的有用性を示す

ポリADP-リボースポリメラーゼ(PARP1)の選択的阻害薬であるsaruparib[サルパリブ]が、特定の相同組換え修復(HRR)欠損を有する乳がん患者に対して有望な客観的奏効率と無増悪生存期間を示した。この結果は第1/2相PETRA試験によるもので、4月5日から10日まで開催された米国癌学会(AACR)2024年年次総会で発表された。
HER2陰性進行乳がんにエンチノスタット+免疫療法薬が有望の画像

HER2陰性進行乳がんにエンチノスタット+免疫療法薬が有望

ジョンズホプキンス大学ジョンズホプキンス大学キンメルがんセンターの研究者らによる新たな研究によると、新規の3剤併用療法がHER2陰性進行乳がん患者において顕著な奏効を示した。この治療で...
英国、BRCA陽性の進行乳がんに初の標的薬タラゾパリブの画像

英国、BRCA陽性の進行乳がんに初の標的薬タラゾパリブ

キャンサーリサーチUKタラゾパリブ(販売名:ターゼナ(Talzenna))が、英国国立医療技術評価機構(NICE)による推奨を受け、国民保健サービス(NHS)がBRCA遺伝子変異による...
乳がん術後3年以降にマンモグラフィの頻度を減らせる可能性の画像

乳がん術後3年以降にマンモグラフィの頻度を減らせる可能性

米国がん学会(AACR)  サンアントニオ乳癌シンポジウム(SABCS)50歳以上で、初期乳がんの根治手術から3年経過後マンモグラフィを受ける頻度を段階的に減らした女性が、毎年マンモグ...