サシツズマブ ゴビテカンが治療抵抗性HR+/HER2-乳がんの無増悪生存期間を延長

ASCOの見解

「本試験は、転移性トリプルネガティブ乳がんの治療薬として既に承認されているサシツズマブ ゴビテカンが、内分泌療法抵抗性HR+/HER2-の転移性乳がん患者にとって重要な新しい選択肢となる可能性を示しています。現在、これらの患者さんに対して有効な治療選択肢が限られていることから、これは重要なアンメットメディカルニーズ(訳注:いまだ有効な治療方法がない疾患に対する医療ニーズ)に応えることになるでしょう」と、ASCOの乳がん専門家であるJane Lowe Meisel医師は述べている。

米国臨床腫瘍学会年次総会2022(ASCO22)で発表される新しい研究によると、過去に多くの治療を受けたホルモン受容体陽性/ヒト上皮成長因子受容体2陰性(HR+/HER2-)転移性乳がん患者において、抗体薬物複合体サシツズマブ ゴビテカン(販売名:Trodelvy®)を使用すると、医師の選択による化学療法に比べて無増悪生存期間が延長することが明らかにされた。HR+/HER2-は進行性乳がんの最も一般的なサブタイプで、世界中の女性に最も多く、乳がん全体の約70%を占めている(Breast Cancer Facts & Figures 2019-2020)。

試験要旨

【目的】 進行性HR+/HER2-乳がんに対する新しい薬物複合体であるサシツズマブ ゴビテカンの潜在的有用性を、医師が選択する化学療法と比較して理解する。

【対象者】 内分泌療法、CDK4/6阻害剤、2~4種類の(半数以上が3種類以上)化学療法を受けたHR+/HER2-転移性乳がん患者543人(海外113カ所)。

【結果】

・サシツズマブ ゴビテカンでは標準化学療法と比較して、無増悪生存期間中央値が34%(5.5カ月 vs. 4.0カ月)改善されたことが示された。

・6、9、12カ月時点の無増悪生存率は、46% vs. 30%、33% vs. 17%、21% vs. 7%(サシツズマブ ゴビテカン vs 化学療法)であった。

・サシツズマブ ゴビテカンと標準化学療法の比較では、最初の全生存期間中間解析でサシツズマブ ゴビテカンが全生存期間で有意差はないも有利な傾向(13.9カ月 vs. 12.3カ月)を示した。

・サシツズマブ ゴビテカンと標準化学療法を比較すると、治療に対して部分奏効または完全奏効を示した患者の割合である全奏効率は21% vs. 14%であり、完全奏効、部分奏効、6カ月以上の病勢安定を示した患者の割合である臨床的有用率は、34% vs. 22%であった。

・がんの増殖や転移を伴わずに治療効果が持続する期間である奏効期間の中央値は、標準化学療法と比較してサシツズマブ ゴビテカンの方が良好だった(7.4カ月 vs. 5.6カ月)。

【意義】 サシツズマブ ゴビテカンは、治療歴の長い内分泌治療抵抗性HR+/HER2-進行性乳がん患者において、標準化学療法と比較して臨床効果の大幅な改善と管理可能な安全性プロファイルを示し、この患者層における治療選択肢として検討すべきと考えられる。

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主な知見

試験の結果、50%以上が3種類以上の化学療法を受けた患者に対してサシツズマブ ゴビテカンを使用することで、標準化学療法と比較して無増悪生存期間中央値が改善した(5.5カ月 vs. 4.0カ月)。また、6カ月および12カ月での無増悪生存率は、それぞれ46% vs. 30%、21% vs. 7%であった。サシツズマブ ゴビテカンと標準化学療法の比較では、予定されていた3回の全生存期間解析のうち最初の解析で、有意ではないものの全生存期間の改善傾向(13.9カ月 vs. 12.3カ月)が示され、追跡調査が継続されている。奏効率(21% vs. 14%)および臨床的有用率(34% vs. 22%)は、サシツズマブ ゴビテカンが標準療法と比較して高く、奏効期間中央値はそれぞれ7.4カ月 vs. 5.6カ月となった。

全体として、74% vs. 60%(サシツズマブ ゴビテカン vs. 標準化学療法)の患者に、白血球数の低下(51% vs. 39%)、下痢(10% vs. 1%)などの有害事象が発生した。投与中止に至った有害事象は6% vs. 4%(サシツズマブ ゴビテカン vs. 標準化学療法)と低率であった。

カリフォルニア大学サンフランシスコ校総合がんセンター医学部教授、乳腺腫瘍学・臨床試験教育部長、米国臨床腫瘍学会フェローである筆頭著者Hope S. Rugo医師は、「治療の選択肢が非常に限られているこれらの患者さんに対するサシツズマブ ゴビテカンの有用性を確認できたことは大変喜ばしいことです。全生存期間への影響を判断するためには、より長期の追跡調査が必要であり、事前に特定した追加解析は、現在他に標的治療の選択肢がない状況におけるサシツズマブ ゴビテカンの潜在的役割の理解に役立つでしょう」と述べている。

米国では、乳がんの5%~10%が悪性で高リスクに分類される。2022年には、女性287,850人、男性2,710人が新たに浸潤性乳がんと診断されると推定されている(Cancer Facts & Figures 2022)。早期乳がんのほぼ3例に1例は最終的に転移を起こし、HR+/HER2-転移性がんの患者では、5年相対生存率は30%とされている。HR+/HER2-転移性乳がんの治療は、当初は内分泌療法と標的薬の併用療法を順次行うが、内分泌療法に抵抗性を示すようになると単剤化学療法を順次行う治療に限定され、その有効期間が次第に短くなる。単剤化学療法を受けた患者の予後は、依然として不良である。

サシツズマブ ゴビテカンは、タンパク質(この場合はTrop-2を標的とする抗体)と抗がん剤が結合した抗体薬物複合体であり、抗体標的を発現している細胞に特異的に送達される。Trop-2タンパク質は、乳がんや膀胱がんの90%以上など、さまざまな種類のがんに高発現している細胞表面抗原である。サシツズマブ ゴビテカンは、2種類以上の前治療(少なくとも1種類はがんが転移してから)を受けた転移性トリプルネガティブ乳がんに対して承認されている。もしサシツズマブ ゴビテカンがHR+/HER2-進行性乳がんの治療薬として米国食品医薬品局から承認されれば、この治療法での使用が認められた最初の抗体薬物複合体となる。

試験について

TROPiCs-02第3相臨床試験は、海外113カ所において、進行性疾患に対する化学療法を2~4種類受けたHR+/HER2-切除不能局所進行性あるいは転移性の乳がん患者を対象に、疾患が進行するか薬剤毒性が許容されなくなるまで、サシツズマブ ゴビテカンまたは標準化学療法(カペシタビン、エリブリン、ビノレルビン、ゲムシタビン)のいずれかの投与をランダムに割り付けた試験である。主要評価項目は無増悪生存期間で、副次的評価項目は全生存期間であった。

次のステップ

本試験に参加した患者は、全生存期間および長期安全性評価項目について引き続き追跡調査される予定である。

研究者らは、転移性トリプルネガティブ乳がんの第2選択治療および転移性膀胱がんに対する第2選択治療としての早期承認という現在の適応症を超えて、サシツズマブゴビテカンの有益性を拡大するために取り組んでいる。また、複数の腫瘍型にわたる研究と早期選択治療に関する研究を進めている。

TROPiCS-02は、ギリアド・サイエンシズ社がスポンサーとなっている企業主導試験である。

日本語記事監修 :小坂泰二郎(乳腺外科・化学療法/医療社会法人 石川記念会 HITO病院)

翻訳担当者 伊藤彰

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原文掲載日 

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