研究ハイライト:2021年米国放射線腫瘍学会(ASTRO)年次総会特集

主な発表テーマ:新規放射線治療レジメン、免疫療法の予測バイオマーカー、AIを用いたモデリング

テキサス大学MDアンダーソンがんセンターの研究ハイライトでは、MDアンダーソンの専門家によるがんの基礎研究、トランスレーショナル(橋渡し)研究および臨床研究における最新研究内容を一部紹介している。今回は、2021年米国放射線腫瘍学会(ASTRO)年次総会(10月24日~27日)における新規治療・診断手法に関するMDアンダーソン研究者の口演発表を特集する。テーマは、乳房部分照射、免疫療法への反応を高度に予測するバイオマーカーとしてのPD-L1レベル評価、ディープラーニング(深層学習)とバイオメカニクスモデルなどである。

乳房部分照射は全乳房照射に比べ、整容性転帰が良好で毒性も低い(アブストラクト1026

乳がん患者において、1日2回の加速乳房部分照射(APBI)は、1日1回の全乳房照射(WBI)に比べて、体積減少、乳房切除部位のへこみ、非対称性、変形など、長期的な整容性転帰が劣る可能性がある。しかし、Benjamin Smith医師、Jay Reddy医学博士らの研究チームは、加速乳房部分照射を1日1回とすれば、腫瘍コントロールを悪化させずに副作用が軽減され、整容性転帰と長期的な生活の質(QOL)の改善がもたらされるという仮説を立てた。

多施設共同第2相試験において、研究者らは、非浸潤性乳管がん(DCIS)または早期浸潤性エストロゲン受容体陽性乳がん患者149人を登録し、OPAL(Optimizing Preventative Adjuvant Linac-based:ライナックによる最適化予防的術後)放射線療法を実施した。これは、短時間に高線量の放射線を照射する1日1回の寡分割照射法であり、試験では整容性、局所コントロール、乳房痛、毒性を評価した。研究者らは、これらの患者を、全乳房照射(WBI)と追加照射を受けた患者を評価した先行臨床試験の適合患者176人と比較した。

OPAL療法を受けた患者は、全乳房照射を受けた患者と比較して、毒性および治療関連有害事象が少なかった。OPAL療法開始後6カ月以内にグレード2以上の毒性を経験した患者は14.1%であったのに対し、全乳房照射群では71%であった。放射線治療2年後、整容性転帰が優れていた、または良好であったと報告した患者の割合は、OPAL療法を受けた患者で93%、全乳房照射療法を受けた患者で77%となり、OPAL群が有意に良好であった。全体として、OPAL療法は、患者が報告する整容性転帰、機能状態、乳房痛、医師が報告する整容性転帰の改善と関連していることが本研究で示された。

化学放射線療法中の循環ストローマ細胞でのPD-L1発現追跡で、切除不能ステージ3非小細胞肺がんの生存転帰を予測(アブストラクト20

化学放射線療法に続いて免疫療法を行う治療は、局所進行の切除不能な非小細胞肺がん(NSCLC)患者に対する現在の標準治療である。この戦略は患者の生存率と治癒率に顕著な影響を及ぼすことが実証されているが、その利益を得られる患者はごく一部に過ぎない。どのような患者に併用療法が有効であるかを解明するために、Steven Lin医学博士をはじめとする研究チームは、がん関連マクロファージ様細胞(CAML:さまざまな腫瘍悪性度の血流に特異的にみられる循環ストローマ細胞の一種)における免疫チェックポイントタンパク質PD-L1の発現を化学放射線療法の全期間にわたって追跡することが、患者の奏効を予測するバイオマーカーになり得るかを調べた。

研究者らは、PD-L1発現と無増悪生存期間(PFS)または全生存期間(OS)との相関を評価するために、ステージ3切除不能非小細胞肺がん患者の3グループ、すなわち、対照群として化学放射線療法単独群、化学放射線療法+免疫療法薬アテゾリズマブ(販売名:テセントリク)併用群、化学放射線療法+免疫療法薬デュルバルマブ(販売名:イミフィンジ)併用群を比較した。

治療前の血液および腫瘍サンプルのPD-L1レベルは、どの患者群においても転帰を予測するものではなかった。同様に、化学放射線療法後に採取した血液サンプルのPD-L1レベルは、化学放射線療法単独群では無増悪生存期間や全生存期間を予測するものではなかった。

一方、アテゾリズマブまたはデュルバルマブの投与を受けた患者において、がん関連マクロファージ様細胞でのPD-L1高発現は、PD-L1低発現と比較して、より良好な無増悪生存期間および全生存期間の予測因子であった。化学放射線療法+アテゾリズマブ併用群では、対照群と比較して治療群の生存率を推定する無増悪生存期間ハザード比は2.8、全生存期間ハザード比は4.3であった。化学放射線療法+デュルバルマブ併用群では、無増悪生存期間ハザード比5.2、全生存期間ハザード比5.9であった。全体として、本研究データは、化学放射線療法後のがん関連マクロファージ様細胞におけるPD-L1高発現が、抗PD-L1免疫療法を受ける患者の優れた臨床転帰を予測する上で統計学的に有意であることを示している。

ディープラーニングに基づくセグメンテーションとバイオメカニカルモデルに基づく線量積算により、放射線治療の精度が向上(アブストラクト86

肝臓がん治療のための放射線治療の過程で、胃や十二指腸の変形が生じることがある。このような変形によって、計画放射線量と実際に照射された線量との間に乖離が生じる可能性がある。放射線腫瘍医は非剛体画像レジストレーション(DIR)を用いて、体内の線量積算を追跡し、乖離の影響を推定する。非剛体画像レジストレーションでは、2枚以上の診断画像を合成して臓器の形状、大きさ、位置の解剖学的および形態学的変化を識別する。しかし、この方法は、従来の強度ベースのレジストレーションアルゴリズムでは画像のコントラストが低いため難しいことがある。Kristy Brock博士が率いる研究チームは、肝臓、胃、十二指腸のディープラーニングによるセグメンテーションと生体力学モデルを用いて、線量積算の精度を高め、線量と毒性の関係性の理解を深めた。

毎日のCT-on-rails(CTOR)誘導による体外照射を受けた原発性および転移性肝がん患者75人を対象に、後方視的線量積算を実施した。この研究では、CTORで医師が描いた輪郭とAIによる輪郭を比較した。その結果はGuillaume Cazoulat博士が発表したとおり、輪郭ベースの非剛体画像レジストレーションでは従来の強度ベース方法と比較して、計画線量と実際の照射線量との差が大きいと推定された。従来の方法では、十二指腸の正常組織障害発生確率(NTCP)を計算すると、25%の患者において計画線量と積算線量の間に5%を超える差があることがわかった。生体力学モデルに基づく非剛体画像レジストレーションでは、38%の患者で同程度の差が認められ、乖離の推定において感度がより高い方法であることが示唆される。

研究者らは、照射線量とそれに伴う毒性との関係の理解を深めるため、この全自動ワークフロー法をより広範な患者集団に適用する計画であり、新たな適応放射線治療の開発と消化器における放射線誘発毒性の最小化を目指している。

翻訳担当者 山田登志子

監修 山﨑知子(頭頸部・甲状腺・歯科/埼玉医科大学国際医療センター 頭頸部 腫瘍科)

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