サンアントニオ乳がんシンポジウムでのダナファーバーの研究発表
ダナファーバーがん研究所の研究者が、12月7日から10日に開催される第44回サンアントニオ乳がんシンポジウム(SABCS)において、30件以上の調査研究を発表する。サンアントニオ乳がんシンポジウムは、世界中から数千人の乳がんエキスパートが集結する世界で最も包括的な乳がんの学術集会である。
今年の会議では、臨床研究と基礎研究の両方を取り扱ったスポットライトセッション、ディベート、ポスター、講演、教育セッションをダナファーバーの教授陣が主導して参加する予定である。ダナファーバーの研究者による発表を厳選して紹介する。
◆トリプルネガティブ乳がん患者に抗体薬物複合体が依然として有望
GS1-05 進行または転移を有するHER2陽性乳がんにおけるDatopotamab deruxtecan(一般名:ダトポタマブ デルクステカン)。第1相TROPION-PanTumor01試験の結果
発表者:Ian Krop医学博士
治療歴のあるトリプルネガティブ乳がん(TNBC)患者を対象とした第1相試験において、新規の抗体薬物複合体であるダトポタマブ デルクステカンが、最新の試験結果でも引き続き有望な抗腫瘍効果を示しており、副作用は管理可能であることが報告された。ダナファーバーがん研究所の研究者は、2021年のサンアントニオ乳がんシンポジウムで、TROPION-PanTumor01試験と名付けられた本試験の最新結果を発表する。
本試験でダトポタマブ デルクステカンを1回以上投与されたトリネガ乳がん患者44人のうち、34%に腫瘍の縮小が認められたことが明らかになった。また、抗体薬物複合体による治療を受けたことのない患者では、52%に腫瘍の縮小が認められた。
ダトポタマブ デルクステカンは、モノクローナル抗体とトポイソメラーゼ1阻害薬からなる抗体薬物複合体で、がん細胞のDNA複製阻害を目的とした新しいクラスの薬剤の1つである。第1相TROPION-PanTumor01試験の中間結果では、トリプルネガティブ乳がん、または非小細胞肺がんの患者において、本複合体が有望な抗腫瘍活性を示し、安全性プロファイルも管理可能であることが示された。
本剤で最も頻繁にみられた副作用は、吐き気、口内炎、脱毛、嘔吐、疲労であった。 患者のうち8人は、これらの副作用やその他の問題が原因で投与量の減量がなされたが、それらの結果として治療を中止した患者は1人だけであった。
Ian Krop氏は「複数の治療法に抵抗性を示したトリプルネガティブ乳がん患者は治療の選択肢が少ないため、この新規の標的療法に明確な反応を示した患者さんが相当数いらっしゃることに大変勇気づけられています」と述べた。
◆閉経前の乳がん患者に対して、卵巣機能抑制療法はタモキシフェン単剤療法よりも再発の長期的リスクを大幅に低下させることが明らかに
GS2-05 ホルモン受容体陽性(HR+)早期乳がん(BC)の閉経前女性におけるアロマターゼ阻害薬エキセメスタン(E)による術後療法+卵巣機能抑制療法(OFS)とタモキシフェン(T)+OFSのランダム化比較:TEXT試験とSOFT試験の最新結果
発表者:Meredith Regan理学博士
ホルモン受容体陽性(HR+)乳がんの閉経前女性に対する卵巣機能を抑制する治療法は、タモキシフェンまたはアロマターゼ阻害薬エキセメスタンと併用することで、タモキシフェン単剤と比較して、再発リスクを持続的に低下させることが、2つの長期にわたる大規模臨床試験の結果で明らかになった。本結果は試験に参加した患者を12.5年間追跡調査したもので、ダナファーバーがん研究所の研究者が2021年のサンアントニオ乳がんシンポジウムで発表する。
SOFT試験およびTEXT試験と名付けられた2つの国際試験では、早期HR+乳がんの閉経前女性5,700人以上を対象として術後のホルモン療法を評価している。本試験のリーダーが以前した報告では、追跡調査開始から5年経過時点では、卵巣機能抑制療法とタモキシフェンの併用は、タモキシフェン単剤よりも乳がんの再発リスクを低下させ、生存率を改善させた。また、卵巣機能抑制療法とエキセメスタンの併用は、卵巣機能抑制療法とタモキシフェンの併用よりもさらに再発率を低下させるが、生存率はそこまでは改善しなかったことも報告していた。
本試験を実施し、追跡調査のデータを解析している国際乳がん研究グループ(IBCSG)のメンバーであるダナファーバーのMeredith Regan理学博士は「今回の新たな結果で示されているのは、12.5年経過時点で、これらの患者において卵巣機能抑制療法+タモキシフェンまたはエキセメスタンが、タモキシフェン単剤よりも再発リスクを引き続き低下させていることです」と述べている。また、再発リスクが最も低下したのは、エキセメスタンと卵巣機能抑制療法を併用している患者であったことも明らかになった。
「卵巣機能抑制療法が長期的に死亡リスクを低下させることが引き続きわかっています。絶対的な数値としては、臨床的にリスクの高い患者の方が減少幅が大きく、追跡調査開始から12年経過時点では死亡率が10%程度減少しています。また、エキセメスタンと卵巣機能抑制療法の併用は、タモキシフェンと卵巣機能抑制療法の併用に比べて、死亡率が低下するのが遅いこともわかっています」と彼女は続けて述べている。
「10年経っても乳がんが再発するリスクがまだあるため、このような若い女性を長期的に追跡調査することは非常に重要です。IBCSGでは、さらに5年間追跡調査する予定です」と付け加えている。
◆患者の参加が転移乳がんプロジェクトの成功につながる
OT1-19-01 転移乳がんプロジェクト:患者との共同研究によって転移乳がんの臨床的・ゲノム的基盤を築く
発表者:Nikhil Wagle医師
転移乳がん研究のための臨床およびゲノムのデータセットを構築するために患者が関与する画期的なプロジェクトが、組織サンプル、情報、経験を共有することで何千人もの患者の参加を促したことをダナファーバーがん研究所のプロジェクトリーダーが2021年のサンアントニオ乳がんシンポジウムで報告する。
転移乳がんプロジェクトでは、ソーシャルメディア、支援団体、そして患者の参加を受け付けるウェブサイトを通じて、患者に働きかけてきた。2015年にプロジェクトが開始して以来、転移乳がんの患者登録者数は6,000人を優に超えている。登録者には、医療記録やサンプルを入手して解析する許可を求めるオンライン同意書が送られる。同意を得た患者には、生殖細胞系列のDNAを抽出するための唾液サンプル、および生殖細胞系列のDNAとセルフリーDNAを抽出するための血液サンプルを郵送するキットが送られる。参加者が診療を受けている医療機関に連絡し、医療記録と保存されている腫瘍生検の一部を入手する。
2021年6月現在、1,700以上の医療機関で治療を受けている3,456人の患者が、医療記録と腫瘍、唾液、または血液サンプルを共有してゲノムを解析することに同意している。現在までに、患者のデータは40本以上の論文に引用されている。研究の最新情報は定期的に参加者と共有されている。
本プロジェクトでは、MBC患者を代表するデータセットを構築することを目標に、新規患者の登録、追加データの作成、臨床とゲノムの統合解析を継続して行っている。また、アフリカ系アメリカ人やスペイン語圏のコミュニティを対象とした取り組みのほか、宗教組織や大学との提携など過小代表地域の患者により直接的にアプローチするためのコミュニティ参画活動もいくつか進行中である。このようにして得られた臨床的情報が付加されているデータセットを一般に公開することで、従来のアプローチでは通常は特定困難であった特定の表現型を持つ患者集団を研究者は特定できる。
◆アロマターゼ阻害薬は、卵巣機能抑制療法を受けたER+乳がんの女性のがん再発リスクを低下させることが判明
GS2-04 卵巣機能抑制療法を受けたエストロゲン受容体陽性の早期乳がんの閉経前女性におけるアロマターゼ阻害薬とタモキシフェンの比較。4つのランダム化試験に参加した7,030人の女性を対象とした患者レベルでのメタアナリシス
発表者:Meredith Regan理学博士
エストロゲン受容体陽性(ER+)乳がんで、卵巣によるエストロゲンの産生を抑制する治療を受けている閉経前の女性において、アロマターゼ阻害薬による治療を受けた場合、タモキシフェンによる治療を受けた場合よりもがん再発リスクが約20%低いことが、4つの大規模臨床試験のデータのレビューにより明らかになった。
ダナファーバーがん研究所の研究者を含む国際共同研究のメンバーである本研究の著者によると、サンアントニオ乳がんシンポジウムで発表される本結果が指摘しているのは、卵巣機能抑制療法を受けている患者にアロマターゼ阻害薬を使用することが長期的な乳がん死亡率に影響を与えるかどうかを判断するには、より長期的な追跡調査が必要なことである。
アロマターゼ阻害薬は、アンドロゲンやその他のホルモンが腫瘍の増殖を促進するエストロゲンに変換されるのを防ぐもので、閉経後の女性の乳がんによる死亡リスクを低下させる。しかし、閉経前の女性には効果がない。主な理由は、卵巣がエストロゲン濃度の低下を補うために、さらに多くのエストロゲンを分泌するためである。
「閉経前の女性の場合、この代償反応は、医学的に卵巣を抑制または摘出することで克服することができます。このことから、これらの患者が卵巣機能抑制療法を受けている場合、アロマターゼ阻害薬はタモキシフェンよりも乳がん再発予防効果が高い可能性が示唆されました。本研究の目的は、この利益の大きさを推定することでした」とLancet Oncology誌に掲載された論文の統括著者であるダナファーバーのMeredith Regan理学博士は述べる。
Regan理学博士らは、卵巣機能抑制療法または摘出による治療を受けたER陽性乳がんの閉経前女性7,030人を対象とした4つの臨床試験のデータを解析した。タモキシフェンで治療した患者と、アロマターゼ阻害薬で治療した患者の転帰を、平均8年の追跡調査後3年から5年にわたって比較した。
Regan理学博士は「アロマターゼ阻害薬の投与を受けた女性では、がん再発率が平均して21%低いことがわかりました。最初の5年間で、再発を経験した患者は10.1%から6.9%までリスクが低下しました」と述べる。また、腫瘍がHER2陽性の患者よりも、腫瘍がHER2陰性の患者の方がリスクの低下が大きかった。
アロマターゼ阻害薬を使用すると、閉経後の女性で見られていたのと同様に骨折の発生が多くなった。
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