抗ヒスタミン薬がT細胞活性を促し免疫チェックポイント阻害薬の効果を高める

ヒスタミン受容体の新たな役割が研究で示され、チェックポイント阻害薬との併用による治療法の可能性が示唆された

よく使われているアレルギー薬である抗ヒスタミン薬による治療が、免疫チェックポイント阻害薬に対する効果の改善と関連することがテキサス大学MDアンダーソンがんセンターの新しい研究でわかった。前臨床試験で、ヒスタミン受容体H1(HRH1)が腫瘍関連マクロファージ(TAM)で作用し、腫瘍微小環境におけるT細胞の活性化を抑制することが明らかになった。本研究成果は、2021年11月24日、Cancer Cell誌に掲載された。

今回の研究成果が前向き臨床試験でも再現されれば、ヒスタミン受容体H1を標的とした治療は、チェックポイント阻害薬と併用することで、免疫療法抵抗性を克服し、特にアレルギー体質や血漿ヒスタミン濃度が高い患者の予後を改善する、有用な治療法となるはずである。

「免疫療法への反応に影響を与える因子を探っていたところ、アレルギー反応のメディエーターである抗ヒスタミン薬が、患者の転帰を有意に改善することを発見して驚きました」と、本研究の筆頭共同研究者であるYi Xiao博士(分子細胞腫瘍学部門講師)は述べている。「この関係を詳しく調べると、ヒスタミンがその受容体HRH1を介して、がん細胞の免疫回避と免疫療法への抵抗を促進することがわかりました」。

抗ヒスタミン薬が免疫療法の転帰向上と関連

免疫療法の一種である免疫チェックポイント阻害薬は、T細胞の活性を制御する特定のチェックポイントタンパク質を阻害することで、T細胞を解放して抗腫瘍反応を起こさせ、がん細胞を排除する働きをする。チェックポイント阻害薬は、多くの患者に長期的な効果をもたらすが、すべての患者に同様の効果があるわけではない。そのため、免疫療法の感受性や抵抗性を高める因子に対する理解を深めることが望まれている。

今回の研究では、よく使われている他の薬剤がチェックポイント阻害薬の効果に影響を与えるかどうかを調査することから始めている。研究者らは、免疫チェックポイント阻害薬による治療を受けているMDアンダーソンの患者の臨床データを後ろ向きに解析した。

その結果、メラノーマ(悪性黒色腫)や肺がんの患者では、ヒスタミン受容体H1を標的とする抗ヒスタミン薬の併用が、生存期間の有意な改善と相関していた。また、乳がんや大腸がんの患者にも同様の傾向がみられたが、対象患者数が比較的少なかったため、統計的な有意差は認められなかった。

研究チームは、がんゲノムアトラスやその他の公開されている患者のがんデータを用いて、腫瘍におけるヒスタミン受容体H1の高発現が、T細胞機能不全のマーカー、チェックポイント阻害薬の効果の低下、生存率の低下と相関していることも発見した。

ヒスタミン受容体は、腫瘍微小環境で作用し、T細胞の活性化を抑制

このような相関関係が認められたことから、研究者らは、ヒスタミン受容体H1とそのリガンドであるヒスタミンが免疫反応にどのように関与しているかを明らかにしようとした。

その結果、ヒスタミン受容体H1とそのリガンドであるヒスタミンは、腫瘍微小環境で上昇していたが、その起源は同じではないことがわかった。ヒスタミン受容体H1は、がん細胞には存在しないが、腫瘍微小環境に存在するある種の腫瘍関連マクロファージ(M2様マクロファージと呼ばれる)に高発現しており、免疫抑制に寄与している。逆に、患者のサンプルやがん細胞株では、がん細胞がヒスタミン濃度を上昇させる主な原因となっているように見受けられる。

前臨床モデルでは、マクロファージ上のヒスタミン受容体H1を遺伝子ノックアウトする、または抗ヒスタミン薬を投与して阻害すると、腫瘍関連マクロファージの免疫抑制活性が低下し、T細胞の活性化が促進され、腫瘍の増殖が抑制された。

研究者らは、腫瘍関連マクロファージにおけるヒスタミン受容体H1がT細胞の活性化にどのように影響するかを理解するため、マクロファージ上の別の制御受容体に着目した。ヒスタミン受容体H1の活性を阻害すると、T細胞の活性化を抑制することが知られている抑制性受容体であるVISTAの膜局在が低下した。さらに、ヒスタミン受容体H1を阻害すると、遺伝子発現に広範な変化が生じ、その結果、M2様の兆候から、M1様のマクロファージに一致するさらに炎症性の高い状態にシフトした。

これらのメカニズムに関するデータから、ヒスタミン受容体H1は腫瘍関連マクロファージにおいて、細胞を免疫抑制的なM2様の状態に導き、抑制的なチェックポイントであるVISTAの膜発現を増加させ、最終的にT細胞の機能不全と抗腫瘍反応の抑制につながることが明らかになった。

前臨床モデルにおいて、ヒスタミン受容体H1を標的とすることでチェックポイント阻害薬の治療効果が増強

乳がんおよびメラノーマ(悪性黒色腫)の前臨床モデルにおいて、抗ヒスタミン薬とチェックポイント阻害薬を併用することで、チェックポイント阻害薬単独の場合に比べて治療効果が向上し、生存期間が延長された。また、前臨床モデルにおいて、抗ヒスタミン薬は、現在臨床試験で評価されている抗VISTA抗体による治療と同様の効果を得ることができた。

さらに、アレルギー疾患の前臨床モデルを用いて、腫瘍の進行に対する影響を調べた。アレルギーを誘発した後、ヒスタミン濃度と腫瘍の増殖は対照群に比べて増加した。しかし、これらの影響は、抗ヒスタミン薬の投与により回復することができた。

同様に、がん患者の血漿ヒスタミン濃度と免疫チェックポイント阻害薬の効果との間にも相関関係があることが示された。これらの知見は、アレルギーやがん細胞の産生によるヒスタミン濃度の上昇が、抗腫瘍反応の抑制の一因となる可能性を示唆している。

「前臨床試験で得られた知見は、抗ヒスタミン薬が、特に血中ヒスタミン濃度の高い患者において、免疫療法の効果を高める可能性を示唆しています」と、責任著者である分子細胞腫瘍学部門長臨時代理のDihua Yu医学博士は述べている。「まだまだ課題はありますが、安価で副作用の少ない抗ヒスタミン薬を用いた治療法の可能性を今後も探っていきたいと思います」。

今後、研究チームは、抗ヒスタミン薬とチェックポイント阻害薬の併用を、がん患者を対象に評価する前向き臨床試験を計画している。

本研究は、米国国立衛生研究所(R01CA112567、R01CA184836、R01CA208213、P30CA016672)およびテキサス州がん予防研究所(CPRIT)(RP180734)からの支援、ならびにMETAvivor社からの助成金を受けた。

共同研究者の全リストは、論文内に記載されている。著者らに開示すべき利益相反はない。

翻訳担当者 会津麻美

監修 朝井鈴佳(獣医学・免疫学)

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