抗HER2療法下の乳がんにチェックポイント阻害薬の追加による効果はない
【ESMO VIRTUAL PLENARYプレスリリース】
乳がんでは抗HER2療法に免疫チェックポイント阻害薬を追加しても病理学的完全奏効(pCR)が改善されないことが、IMpassion050試験の主要解析で明らかになった。この結果はESMO Virtual Plenary(バーチャル開催での欧州臨床腫瘍学会)で本日発表されたものである (1)。この第3相試験は、高リスクHER2陽性早期乳がん患者を対象に術前療法として、抗HER2薬をベースとした治療計画に対し抗PD-L1抗体薬であるアテゾリズマブ(販売名:テセントリク)併用の有無を比較した初めての試験である。
高リスクHER2陽性早期乳がんの標準治療は抗HER2薬2剤併用+化学療法である。抗体療法は自然免疫および適応免疫を促進し、細胞傷害性を活性化させる一方、チェックポイント阻害薬と併用することで免疫応答をさらに増強させることができる (2)。IMpassion050試験では、術前療法として、アントラサイクリン系およびタキサン系の化学療法薬に抗体薬であるペルツズマブ+トラスツズマブを逐次dose-dense投与する患者に対し、(これに追加する)アテゾリズマブとプラセボの有効性および安全性を比較検討した。
試験には、原発乳腺腫瘍の大きさが2 cmを超え、病理学的評価にてリンパ節転移が認められる高リスクHER2陽性早期乳がん患者454人を登録した。患者を2種類の治療群に1:1で無作為に割り付け、6カ月間にわたり術前療法を実施した。術後は、先の割り付けに従い、それぞれの患者にアテゾリズマブまたはプラセボを投与した。pCRが得られた患者はペルツズマブおよびトラスツズマブを継続し、残存病変を認めた患者はトラスツズマブエムタンシン(T-DM1)に切り替えた (3)。
複合主要評価項目は、治療意図に基づく(ITT)解析集団およびPD-L1陽性患者集団での病理学的完全奏効(pCR)率であった。無イベント生存期間(EFS)、全生存期間、安全性が副次評価項目に設定された。介入治療による利益とリスクのプロファイルが好ましくないと独立データモニタリング委員会が判定したため試験は早期に中止され、患者3人の手術が未施行のまま早い段階でデータが解析された。
ITT解析対象集団では、アテゾリズマブ群の62.4%、プラセボ群の62.7%がpCRに至った(P = 1.0)。PD-L1陽性集団では、アテゾリズマブ群の64.2%、プラセボ群の72.5%がpCRに至った(P = 0.2)。安全性については、術前療法段階でのグレード3、4の有害事象(AE)および重篤なAEの発現率はいずれもアテゾリズマブ群がプラセボ群より高く、それぞれAEが51.8%と43.6%、重篤なAEが19.5%と13.3%であった。術前療法の実施期間中、プラセボ群では死亡例が0であったのに対し、アテゾリズマブ群では4人が死亡した。4件の死亡例のうち、2件の事象は被験薬が原因とされ、死因はそれぞれ肺胞炎および敗血症性ショックであったが、これらが免疫と関連するものであるかは明らかになっていない。
Breast Centre St. Gallen(スイス)の婦人科腫瘍学教授である筆頭著者のJens Huober氏は「全体として、安全性プロファイルはアテゾリズマブを併用投与したほかの試験と一致しており、新たな副作用は認められませんでした。この試験は、追加した薬剤(アテゾリズマブ)の潜在的な毒性が許容できるかどうかをみるため、高リスクHER2陽性患者を対象としていることに注目するのが重要です。HER2が陽性でリンパ節転移がなく腫瘍が小さい患者であれば、標準治療で良い結果が得られるのですから」と話す。
また「この治療計画では、免疫療法薬を追加しても対象集団全体ならびにどのサブグループでもpCR率の向上は認められませんでした。ですが、患者さんにとって重要なのは副次評価項目である無イベント生存期間(EFS)と全生存期間(OS)です。どちらの結果を得るにも追跡期間がもっと長く必要です。そのうえ、トリプルネガティブ乳がんでは、免疫療法の有効性を測定するのにpCRが最適な評価項目であるとはいえないことを示す証拠があります」と加えた。
研究者でありヨーロッパがん研究所(イタリア・ミラノ)の上級医であるCarmen Criscitiello博士は、本試験についてコメントを寄せ「臨床試験で得られる病理学的完全奏効(pCR)率は確かなものではなく、有効性の評価項目として検証された確固たるものではありません。そのため、長期間の無イベント生存期間(EFS)が得られるまでこの結果は慎重に解釈する必要があります。トリプルネガティブ乳がんでは、GeparNUEVO試験 (4)およびKEYNOTE-522試験 (5)にて免疫チェックポイント阻害薬を標準的な術前療法に追加した結果、pCR率はわずかな上昇に留まったものの、EFSは両試験で有意に改善しています」と述べた。
同氏はさらに「転移がある場合、化学療法に免疫チェックポイント阻害薬を追加することで利益が得られるのは、概ねPD-L1陽性患者さんに限られます。術前療法の施行下では、トリプルネガティブ乳がん患者さんへの有効性は、対象集団全体およびPD-L1陽性・陰性のいずれのサブグループでも確認されています。IMpassion050試験のPD-L1陽性患者さんでは、実験群のpCR率は数値のうえで対照群と比べ劣っており、これはPD-L1陰性腫瘍では数値が反対に傾くことを示唆します。このことは、PD-L1の影響についてがんの状態による生物学的な違いをさらに詳しく調査する必要があることを示しています」と話す。
同氏はまた、治癒を目的とする場合には、安全性について得られた結果を慎重に検討しなければならないと言う。「毒性は、ほかの治療計画のもとで同様の併用投与を実施した試験での報告とほぼ一致しています。肺胞炎は通常、免疫に関連する副作用ではないため除外されますが、アテゾリズマブと治療による死亡例になんらかの関連性があるかどうかを調査する必要があります。治癒を目的とする場合、新たな治療により毒性が誘発されないか、よりいっそう慎重に注意してみるべきです。本試験で実施した併用治療では、これまでに病理学的完全奏効(pCR)率の改善は確認されていないため、この治療計画を検討する前にリスクと利益のバランスを注意深く観察しなければなりません」。
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参考文献:
- ‘IMpassion050: A phase III study of neoadjuvant atezolizumab + pertuzumab + trastuzumab + chemotherapy (neoadj A + PH + CT) in high-risk, HER2-positive early breast cancer (EBC)‘ will be presented by Jens Huober during an ESMO Virtual Plenary Session on Thursday, 17 June 2021, 19:30 to 20:30 (CEST).
- Bianchini G, Gianni L. The immune system and response to HER2-targeted treatment in breast cancer. Lancet Oncol. 2014;15:e58–e68.
- von Minckwitz G, Huang CS, Mano MS, et al. Trastuzumab emtansine for residual invasive HER2-positive breast cancer. N Engl J Med. 2019;380:617–628.
- Loibl S, Schneeweiss A, Huober JB, et al. Durvalumab improves long-term outcome in TNBC: results from the phase II randomized GeparNUEVO study investigating neodjuvant durvalumab in addition to an anthracycline/taxane based neoadjuvant chemotherapy in early triple-negative breast cancer (TNBC). J Clin Oncol. 2021;39 (suppl 15; abstr 506).
- Merck announces phase 3 KEYNOTE-522 trial met dual primary endpoint of event-free survival (EFS) in patients with high-risk early-stage triple-negative breast cancer (TNBC). May 13, 2021
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