早期乳癌にはタモキシフェン投与に続くアナストロゾール投与がタモキシフェン単独投与より有効

米国国立がん研究所(NCI)

Anastrozole After Tamoxifen Better for Early Breast Cancer than Tamoxifen Alone
(Posted: 08/30/2005) 発表された2つの類似試験によると、一部の乳癌患者は術後標準治療タモキシフェン2年服用後アナストロゾールに移行することで、より再発を遅らせる


要約
公表された2つの類似した試験報告によると、術後標準療法であるタモキシフェン投与2年目に別の薬剤であるアナストロゾールに切り替えることで、一部の乳癌患者でさらに再発を抑えることが明らかになった。エストロゲン受容体陽性の閉経後早期乳癌患者に対するこのようなアプローチを支持する内容のエビデンスが報告されている。

出典  試験1:The Lancet 2005年8月6日(ジャーナル要旨参照)

試験2:Journal of Clinical Oncology、2005年7月11日オンライン掲載、2005年8月1日ジャーナル掲載(ジャーナル要旨参照)

背景
エストロゲンに反応し腫瘍が増殖する乳癌(エストロゲン受容体つまりER陽性)の患者は癌再発リスクを軽減するべく、乳癌の手術後から抗エストロゲン療法を受けるのが通常である。乳癌患者10例のうち7例にエストロゲン受容体陽性腫瘍が認められる。

1980年代以降、最適な補助ホルモン療法には、エストロゲンが癌細胞に結合するのを阻害する薬剤タモキシフェン(ノルボデックス)が使用されてきた。同薬剤は、何百もの臨床試験の何万人もの対象患者において乳癌再発を40%減少させ乳癌に多大な影響をもたらした。また、そもそも乳癌リスクの高い女性に対しては、癌発生の予防目的でも用いられている。タモキシフェンは有効だが問題もあり、極めて少数だが同薬剤投与患者に子宮内膜癌、重篤な血液凝固、脳卒中の発生が報告されている。

最近開発されたアロマターゼ阻害剤(AIs)と称されるクラスの薬剤は、エストロゲンを利用して増殖する乳癌に対してタモキシフェンと同等もしくはタモキシフェン以上に有効であるように思われる。副腎で産生された微量の男性ホルモンはアロマターゼという酵素によりエストロゲンに変換され、AIsはこの酵素を阻害する。AIsはエストロゲンが卵巣で産生されている女性には効果がなく、卵巣機能が廃絶した場合、すなわち閉経後の女性のみに有効性を示す。

アナソトロゾール(アリミデックス)、レトロゾール(フェマーラ)、エクセメスタン(アロマシン)が最新かつ最も有望なAIsとされているが、骨密度の減少による骨折の可能性、関節痛、筋肉痛、骨痛という副作用もある。

ER陽性乳癌を治療及び予防する際、AIsが果たし得る役割を明確にするため大規模第3相臨床試験が多数回実施されている(Aromatate Inhibitorsの関連情報参照)。

試験1(ドイツ及びオーストリア)

第3相ランダム化臨床試験がオーストリア及びドイツの医療センターで実施された。それぞれABCSG trial 8(オーストリア)及びARNO 95(ドイツ)と称される2つの試験は別々のものではあるが共同でおこなわれた。これらの試験は、術後2年間のタモキシフェン投与歴のある患者に対するホルモン療法としてアナストロゾールの有効性がタモキシフェンを上回るかを検討した。患者は無作為に割り当てられたが、研究では自身がどちらの投与群に属するか知らされた。1,606例に5年間タモキシフェンを投与し、1,616例には2年間のタモキシフェン投与後アナストロゾールに切り替え(逐次投与群)、残り期間の3年間投与した。

全患者に癌のリンパ節への広がりが認められたが、それ以上の広がり(遠隔転移)は確認されなかった。腫瘍がエストロゲンに感受性のある患者を1996年1月から2003年8月にかけて臨床試験に登録した。これまでに55%の症例が治療を終了しており、術後少なくとも2年間経ている症例を結果に含めた。現在まで、患者の追跡調査は28ヶ月(中央値)に渡る。

この大規模なチームはオーストリアとドイツの多数の研究グループから成り、オーストリアのウイーン医科大学及びウイーン総合病院の医師Raimund Jakesz氏主導のもと研究が実施された。

試験1結果

乳癌再発率は、2年間のタモキシフェン投与後アナストロゾールへ切り替えた群(1,608例)では4.2%(67例)、一方5年間のタモキシフェン投与群(1,606例)では6.8%(110例)であった。つまりアナストロゾールへの切り替え投与により再発リスクを40%減少させることができた。

タモキシフェン単独投与群では59例が死亡し、うち31例は乳癌による死亡であった。逐次投与群では45例が死亡し、うち24例は乳癌による死亡であった。

投与薬を切り替えて3年経った現時点での追跡調査では、2群間の全生存率及び乳癌による死亡率に統計的な有意差はない。

血液凝固は、タモキシフェン単独投与群(12例)が、逐次投与群(3例)と比較し有意に高値を示した。さらにタモキシフェン単独投与群の9例に対し逐次投与群では2例のみが血液凝固による動脈閉塞に至った。骨折および吐気については、逐次投与群(骨折:34例、吐気:25例)は、タモキシフェン単独投与群(骨折:16例、吐気:10例)と比較し2倍以上多く、両方とも統計的に有意であった。骨痛については、逐次投与群は213例、タモキシフェン単独投与群は177例と、統計的に有意ではないものの逐次投与群に多い傾向があった。

試験2(イタリア)

同様の研究では、イタリアで実施されたタモキシフェンとアリミデックスに関する臨床試験(ITA)がある。タモキシフェンを2年間以上服用していた閉経後患者合計448例を、タモキシフェンを計5年間継続投与する群と、投与薬をアナストロゾールへ切り替え合計5年投与する群に無作為に割り当てた。

全患者は乳癌手術を受け、癌のリンパ節への広がりは認められたがそれ以上の広がりは確認されなかった。腫瘍は全症例エストロゲン感受性を呈した。症例の登録は1998年3月から2002年12月とした。現在まで、患者の追跡調査は3年間(中央値)に及ぶ。

ITAは、University and National Cancer Institute(イタリア ジェノバ)のFrancesco Boccardo医師主導による研究者チームが実施した。また試験結果は、2003年12月3日サンアントニオで開催された乳癌シンポジウムで本来発表されたものである。

試験2結果

乳癌再発率はアナストロゾール投与群(223例)ではわずか5.4%(12例)であったが、タモキシフェン継続投与群(225例)では14.2%(32例)に達した。総じて、アナストロゾール投与患者の再発率もしくは新たな腫瘍発現率は、タモキシフェン投与患者より65%少なかった。

タモキシフェン投与群では10例が死亡し、うち7例が乳癌による死亡であった。アナストロゾール投与群では死亡例4例全てが乳癌による死亡であった。

両治療法とも、軽度なもの(胃疾患)から重度な場合は子宮内膜癌まで多くの副作用を伴った。総じて、アナストロゾール投与群にはこれらの副作用が多く生じた(アナストロゾール投与群vsタモキシフェン投与群203:150例) 。一方、タモキシフェン投与群では、アナストロゾール投与群より致命的な症状を呈したか入院を必要とする副作用が多く発生した。

コメント
以上3つの臨床試験では、閉経後のリンパ節陽性乳癌患者に対して補助療法のある時点でアナストロゾール使用を促すような結果が生じた。アメリカではすでに一般的な治療法とされている。

国立癌研究所の癌療法評価プログラムの医師Jo Anne Zujewskiは、「アロマターゼ阻害剤を私のホルモン受容体陽性の閉経後患者全てに検討している。さらに最近発表された他の研究結果も考慮すると、2年間のタモキシフェン投与後に投与するにせよ術後補助療法の開始薬剤にするにせよ、アロマターゼ阻害剤の役割を明らかにする十分信頼出来るデータがそろった。」と語っている。

添付した論説でToronto Sunnybrook Regional Cancer Center(カナダ オンタリオ)のKathleen I. Pritchardは、「今や、5年間のタモキシフェン療法が終わろうとしている患者が、アロマターゼ阻害薬による内分泌療法をさらに何年か受けようと決心するのは、至極当たり前のことだろう。」と述べている。患者は担当医と、どのアロマターゼ阻害薬(アナストロゾール、レトロゾール、エクセメスタン)が有効か、様々な短期的および長期的副作用の発生や患者自身の病歴を考慮した上で話し合うべきである。

制限事項
しかし慎重に検討すべきであると、Zujewskiは語る。「直ちにアナストロゾールへの切り替え投与をあらゆる患者に実施すべきだということではない。タモキシフェンは長きにわたって効果的な治療法であり、すぐれた結果を出してきたし、特に年齢や骨密度により骨折のリスクが上がる患者には、やはりタモキシフェンが適している可能性もある。」と同氏は説明している。

またこれらの所見は、閉経後のER(エストロゲン受容体)陽性乳癌患者のみについて言えることであり、臨床試験の対象者はほとんどが70歳代であった。「若い患者については、このような所見では治療法確立には程遠い。」とZujewskiは認めている。

さらに、「これらのAI剤同士及びタモキシフェンとの相互作用に関する長期的なデータが求められる。ホルモン療法に対する抵抗性については明確な理解が得られていない。」と語っている。    (Seven 訳・Dr.榎本 裕(泌尿器科))

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