HER2陽性乳がん患者へのトラスツズマブ投与期間は短縮可能で、心臓への副作用も軽減

ASCOの見解

「トラスツズマブ(Trastuzumab)の使用はHER2陽性の乳がん患者にとって治療率をあげる大きな進歩でしたが、いかなる治療にも副作用がつきものであり、トラスツズマブによる治療では常に心臓機能障害の懸念があります。今回の新たな試験では、投与期間を短縮した治療により、心臓への副作用のリスクを抑えながら、より長期間の治療と同様の利益が得られることが示されました。この一般的な治療を受けている乳がん患者にとって、一挙両得と言えます」とASCO会長のBruce E.Johnson医師(FASCO)は述べた。

HER2陽性の早期乳がん女性患者4088人を対象とした第3相ランダム化比較試験において、トラスツズマブ(ハーセプチン)を6カ月間投与する治療は、現行の標準的期間の12カ月間投与する治療に対して非劣性であることが示された。4年の無病生存率は、6カ月間投与した群では89.4%、12カ月間投与した群では89.8%であった。また、心臓の問題を理由にトラスツズマブの投与を中止した女性患者の割合は、12カ月間投与した群では8%であったのに対し、6カ月間投与した群ではわずか4%であった。

「Persephone試験の研究者たちは患者支援団体と密接に連携しました。本試験の関係者はみなこの結果に非常に興奮しています」と、本試験の筆頭著者である英国ケンブリッジ大学がん臨床医学教授Helena Earl医師は述べた。「この結果が、多くのHER2陽性乳がん患者において、トラスツズマブ投与期間を6カ月に短縮するための第一歩になると確信しています」。

著者によると、本試験は、トラスツズマブの投与期間短縮による影響を検討した、今までで最も大規模な試験である。本試験(Persephone)の結果は、シカゴで開かれる2018年ASCO年次総会で発表される予定である。

研究について

トラスツズマブは、2005年に報告された3つの主要試験の結果に基づき、FDAの承認を得た。これらの試験でのトラスツズマブの投与期間は12カ月間であったため、この投与期間による治療がそのまま標準治療となった。その後まもなく、フィンランドで実施された小規模な試験(FinHer)で、トラスツズマブの9週間の投与でも同様の利益が報告された。これにより、副作用および費用を軽減するために投与期間を短縮する研究への関心が高まった。

本試験(Persephone)では女性患者の半数にトラスツズマブを6カ月間投与し、残りの半数に12カ月間投与した。試験期間中、女性患者には化学療法(アントラサイクリン系薬物、タキサン系薬物、または両薬物の併用)も実施した。本試験は非劣性を検証する試験デザインであり、投与期間を短縮した治療が(試験開始前に設定した期限内で)標準治療と同じように効果的かどうかを究明することができた。

主な知見

本試験の追跡調査期間の中央値は5年以上であった。研究者によると、トラスツズマブを6カ月間投与した患者の89.4%と、12カ月間投与した女性患者の89.8%が、4年経過時点で生存しており、乳がんを再発していなかった。本試験の結果から、トラスツズマブの6カ月間投与の治療が12カ月間投与の治療に対して非劣性であることが実証された。

心臓の問題を理由にトラスツズマブの投与を中止した女性患者の割合は、12カ月間投与した群では8%であったのに対し、6カ月間投与した群ではわずか4%であった。

次の段階

研究者たちは現在、これらの結果を解析し、試験参加者からの定性的なフィードバックをもとに、投与期間の短縮が患者のQOLに与える影響を評価している。また、詳細な費用対効果の解析も実施している。

安全に投与期間を短縮できる患者を特定するためには、より多くの研究を実施する必要があるとEarl教授は述べた。研究者らは、多様なリスクグループを特定できるバイオマーカーを探索するべく、本試験で収集した血液および組織のサンプルの分析を計画している。

本試験は、英国国立衛生研究所より資金提供を受けた。

研究の概要

疾患名      HER2陽性の乳がん    

試験相/種類   第3相、ランダム化、非劣性検証試験

患者数      4,089人

治療内容     トラスツズマブ(ハーセプチン)

主要所見     トラスツズマブ6カ月間投与は12カ月間投与(現在の標準治療)に対して非劣性

副次的所見    6カ月間投与において心臓への副作用半減

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関連情報:

乳がんに関して

2018年 ASCO年次総会のニュース企画チームの情報開示はこちらを参照のこと。

Bruce E. Johnson医師(FASCO)の情報開示は以下のとおり:Stock and Other Ownership Interests with KEW Group; Honoria from Merck and Chugai Pharma; Consulting or Advisory Role with Novartis, AstraZeneca (Inst.), KEW Group, Merck, Transgene, Clovis Oncology, Genentech, Lilly (Inst.), Chugai Pharma, Boehringer Ingelhelm and Amgen; Research Funding with Novartis; Patents, Royalties and Other Intellectual Property with royalties from Dana-Farber Cancer Institute; Expert Testimony with Genentech.

すべての記事に、ASCO年次総会を情報源として明示すること。

翻訳担当者 瀧井希純

監修 下村昭彦(乳腺・腫瘍内科/国立がん研究センター中央病院)

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原文掲載日 

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