BRCA1、BRCA2遺伝子変異の発がんリスクを確認

国際的研究者チームは、遺伝的にBRCA変異を有する女性の、乳がんならびに卵巣がんの発症リスクに関する初めての大規模前向き研究の結果を発表した。

BRCA1およびBRCA2遺伝子は、細胞が損傷したDNAを修復する際に重要なタンパク質をコードしている。これらの遺伝子に特異的な遺伝的変異があると、いくつかのがん、特に乳がんと卵巣がんのリスクが増加する。本研究では、遺伝性変異保因者において、これらのがんの生涯リスクが実質的に増加するという当初の予測を確認した。さらに、BRCA遺伝子内の変異の位置や乳がんの家族歴の程度もリスクの大きさに影響することが明らかになった。

「この研究により、変異保因者である女性の発がんリスクに関する推定が確認されました。このことは、女性だけでなく治療上の重要な決定を下す医療チームの両方にとって安心につながるものです」とNCIの癌疫学・遺伝学部門副所長であるMontserrat García-Closas医学博士は述べた。彼女はこの研究には参加していない。

本研究は6月20日、米国医学会誌(JAMA)に掲載された。

リスクに対して先手を打つ

有害なBRCA1またはBRCA2変異を遺伝的に保因していることをわかっている女性は、乳がんおよび卵巣がんのリスクを軽減するための措置を取ることができる。しかし、早期の集中的な経過観察、化学予防の使用、予防的手術などの予防措置は、それぞれリスクを伴う。がんリスクと予防措置によってもたらされるリスク軽減の見積もりを行うことは、女性がこれらの選択肢のいずれを行うかを決定するのに役立つ。

これまで、医療専門家がBRCA1およびBRCA2変異保因者にがんのリスクについて助言する際には、大規模後ろ向き試験、すなわちすでにがんと診断された女性を対象とした試験データに頼らざるをえなかった。これらの後ろ向き試験のほとんどは、一般集団から募集された女性よりも、がんの家族歴を有する女性が多く含まれる。リスク推定に使用された後ろ向き研究、すなわち家族歴に基づくこれらの研究の多くは質が高いものであるが、後ろ向き研究の性質のために、また家族歴に基づく試験の参加者を集める方法のためにバイアスが生じるリスクがあるとGarcía-Closas博士は説明する。

本研究では、英国ケンブリッジ大学のAntonis C. Antoniou博士が率いる研究者らは、3つの異なる研究コンソーシアムによって募集されたBRCA変異保因者から収集したデータを使用した。3つの研究コンソーシアムとは、「BRCA1/2変異保因者の国際的コホート研究」、「乳がん家族登録」、「家族性乳がん研究のためのカスリン・カニンガム財団コンソーシアム」である。

3つのコンソーシアムの登録者から集めたBRCA1変異を有する6,036人、およびBRCA2変異を有する3,820人の女性のデータを解析して、乳がんおよび卵巣がんの80歳までの累積リスクを決定した。乳がんのリスク解析には、以前にいかなるがんの診断も受けていない女性、または予防的な乳房切除術を受けていない女性を登録した。

卵巣がんの解析には、卵巣がんと診断されたことのない女性、またはリスクを低減するための低減性卵管卵巣摘除術(卵巣および卵管の切除)を受けていない女性を登録した。

研究者らは、少なくとも1年以上前に初めて乳がんと診断された女性における対側乳がんのリスクについても調べた。

試験の全参加者について、アンケートを用いた追跡調査を行った。入手可能な場合は、がん、病理および死亡記録も用いた。医療記録は、患者の自己報告によるがんの診断の確認やリスク低減手術を確認するために使用した。参加者の追跡期間中央値は5年であった。

必要な確認事項

後ろ向き研究の場合と同様に、BRCA1およびBRCA2特異的変異保因者の両方において、発がんリスクが高かった。

乳がんリスクの解析対象となる3,886名の女性のうち、426名が調査期間中に乳がんを発症した。乳がん発症のピークは、BRCA1変異保因者では41-50歳、BRCA2変異保因者では51-60歳であった。80歳までの乳がん発症の累積リスク推定値は、BRCA1変異保因者では72%、BRCA2変異保因者では69%だった。

卵巣がんリスクの解析に登録された5,066名の女性のうち、109名が追跡期間中に卵巣がんと診断された。両方のBRCA遺伝子変異について、卵巣がんのリスクは、女性の年齢が61〜70歳に達するまで、年齢の増加と共に増加した。80歳までに卵巣がんを発症する累積リスク推定値は、BRCA1変異保因者で44%、BRCA2変異保因者で17%であった。

対側乳がんリスク解析の対象となる2,213人の女性について、最初の乳がん診断後20年時の累積対側乳がんリスクは、BRCA1変異保因者で40%、BRCA2変異保因者で26%であった。

BRCA変異以外に注目すべきこと

本研究では、他のいくつかの要因も女性の発がんリスクに影響を与えていることがわかった。BRCA1およびBRCA2両方の変異保因者については、乳がんのリスクは、母親や姉妹などの第1度近親者または叔母やいとこなどの第2度近親者に乳がんと診断された人の数が多ければ多いほど増加した 。

家族歴は卵巣がんのリスクに有意な影響を与えなかった。しかし、家族歴のある卵巣がん患者数自体が少なく、統計的強度には制限がある。

BRCA1またはBRCA2遺伝子のいずれかにおいて、変異の位置も乳がんのリスクに関与しており、ある位置に変異があるとその他の位置に変異がある場合よりもリスクが高かった。これらの結果から、著者らは「個別の患者のカウンセリングには、家族歴と変異位置の両方を組み込むべきである」としている。

García-Closas博士によると、遺伝カウンセリングで使用されているBRCAProやBOADICEAなどの多くのソフトウェアツールはすでに家族歴情報を組み込んでいる。

また、博士は「あまり熱狂せずに確認結果を評価しなければならないものの、後ろ向き研究では潜在的なバイアスや制限事項に対処したとしても、いつも同様の結果が得られるわけではないので、これらのタイプの研究は必要性が高い」とも述べた 。

そして、BRCA変異保因者の発がんリスクに関して「われわれの推定が正確であったことは非常に良いニュースだ」とGarcia-Closas博士は結論づけた。

新しい研究により、BRCA遺伝子に変異を有する女性は、乳がんおよび卵巣がんのリスクが高いことが確認された。

翻訳担当者 相川聡子

監修 下村昭彦(乳腺・腫瘍内科/国立がん研究センター中央病院)

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原文掲載日 

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