1回放射線治療で脊髄圧迫症状は十分緩和される

ASCOの見解

「脊髄圧迫症とは、進行がん患者の多くが経験する衰弱状態のことです。これまで、患者は放射線治療を受けるために、何日も病院と自宅を往復せざるを得ないことがしばしばありました。この研究はケアの質を損なうことなく、患者ががんではなく自分の好きなことに費やす時間を増やせるということを示しているのです」とJoshua A. Jones 医師(修士、ASCO専門委員)は述べる。

転移性がん患者における一般的な合併症の一つである脊髄圧迫症は、生活の質を低下させる主な要因の一つである。 放射線治療は疼痛およびその他の症状緩和に広く用いられているが、推奨スケジュールの基準はなく、現在も治療方針はさまざまである。1回放射線治療は1週間の連続放射線治療と同等に有効であることが第3相臨床試験の結果で示された。

この研究は本日記者会見で紹介され、また 2017年米国臨床腫瘍学会(ASCO)年次総会でも発表される予定である。

「われわれの知見は、1回放射線治療が、少なくとも余命短い患者においては転移性脊髄管圧迫症の標準治療法であることを確証しています」と筆頭著者のPeter Hoskin医師(FCRP、FRCR、英国ミドルセックスのマウントバーノンがんセンター腫瘍学者)は言う。「これは患者にとって、通院回数が減少し、家族と過ごす時間が長くなるということです」。

がんが骨に転移すると、脊椎に影響を及ぼすことがもっとも多い。 脊椎の腫瘍は脊柱管を圧迫して、背部痛、痺れ、刺痛、歩行困難を引き起こす可能性がある。 進行固形腫瘍を有する患者の多数は骨転移をきたし、またがん患者全体の10%近くが転移性脊髄圧迫症になる。

研究について

本研究では688人の患者[転移性前立腺がん(44%)、肺がん(18%)、乳がん(11%)、消化器系がん(11%)]が登録された。 年齢中央値は70歳、うち男性は73%であった。 研究者らは、脊柱管外照射療法を受ける患者を8Gy1回照射群、または5日間にわたる20Gy5回分割照射群に無作為に割り付けた。

本研究の主要エンドポイントは歩行状態であり、以下4グレードで測定した:

グレード1:正常歩行可能
グレード2:歩行補助具(杖や歩行器など)を用いて歩行可能
グレード3:歩行補助具を用いても歩行困難
グレード4:車椅子に依存

試験参加時では、66%の患者が歩行状態1~2であった。

主な知見

8週間目で、1回放射線治療を受けた患者の69.5%、および5回照射を受けた患者の73.3%の歩行状態は1~2であり、短期または長期放射線治療のいずれも患者の歩行状態を保つことが示された。全生存期間中央値は両群同様であった[1回照射群12.4週対5回照射群13.7週(統計的有意差なし)]。 重篤な副作用をきたす患者の割合は両群同程度(20.6%対20.4%)であったが、軽微な副作用は1回照射群のほうが少なかった(51%対56.9%)。

脊髄圧迫症状を早期に発見し、迅速な治療を行うことは、放射線療法で最良の結果を得るために重要であるとHoskin氏は強調した。

研究の制約と次の段階

「長期放射線治療は1回放射線治療と比べて脊椎に転移した腫瘍の再増殖防止に有効な可能性があります。それゆえ、長期放射線治療は今なお余命の長い患者にとってより有効なのでしょう。しかしその有効性を確証するためにはさらなる研究が必要です」とHoskin氏は述べた。

転移性乳がん患者は若年患者と同様、この臨床試験において十分なデータを得られなかった。脊髄圧迫を伴う患者には、放射線療法の代替また追加治療として外科的手術が推奨される場合がある。

この研究はCancer Research UKの資金提供を受けた。

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翻訳担当者 佐藤美奈子

監修 河村光栄(放射線腫瘍学、画像応用治療学/京都大学大学院医学研究科)

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