血中の腫瘍DNAが進行乳がん女性の生存期間を予測

進行乳がん女性129人を対象とした多施設共同試験の結果、腫瘍由来マーカーが高値である患者のほとんどの死亡時期が、マーカーが低値な患者よりも有意に早かったことが、がん関連DNAを検出する血液検査によって正しく予測できたことがわかった。

この検査を開発し、本試験を主導したジョンズホプキンス・キンメルがんセンターの研究者らによると、さらなる試験で同様の結果が確認されれば、このcMethDNAというDNA検査が再発リスクの高い乳がんの同定や治療の成否の判定に広く利用できる可能性があることが今回の結果から示唆されるという。本試験の結果は11月21日、Journal of Clinical Oncology電子版に掲載された。

「がん患者にとっては、特定の治療法が有効かどうかを迅速かつ容易に評価できることが、とりわけ求められます。その治療法が有効でなければ、別の治療法に切り替え、時間や費用の無駄をなくし、起こるかもしれない副作用を避けることができるのですから」。ジョンズホプキンス・ブルームバーグ公衆衛生学校疫学教授兼、ジョンズホプキンス大学医学部腫瘍学教授で、ジョンズホプキンス・キンメルがんセンターの臨床癌遺伝学プログラムディレクターを務めるKala Visvanathan医師および健康科学修士(MHS)は、そう話す。「研究結果は中間の段階ですが、そこからはcMethDNAが乳がん患者にとってこうした評価を行う有効な方法であることが示唆されます」。

このバイオマーカー研究では、ジョンズホプキンス病院など米国の7つのがんセンターで新たに治療を開始した進行乳がん(他の臓器に転移したがん)のある141人の女性から採取した血液サンプルを前向きに分析した。サンプルは、治療の開始時と、その4週間後、さらに参加者のがんを「リステージング(訳注:再評価)」した時(その多くは治療開始の12週間後)に採取された。

cMethDNA検査では血清を分析する。血清とは血液を濾過したもので、これには細胞から放出されたタンパク質や遺伝物質のDNAが含まれている。この検査は過剰メチル化というDNAへの化学修飾の形跡を調べるもので、乳がんに特異的な6つの遺伝子うち、1つ以上に過剰メチル化が生じているかどうかを検査する。生物学的な説明をすると、過剰メチル化は細胞増殖の暴走を抑制する遺伝子のスイッチをオフにする。したがって、血中に流出した乳がんに関連する遺伝子のDNA配列にこの修飾がみられると、患者のがんの増殖が加速し、がんが増悪していることを示すと考えられる(訳注:この過剰メチル化されたがん関連遺伝子DNAを、以降では「がんDNA」と呼ぶ)。

この検査によって、がんの病勢をどの程度把握できるかを明らかにするために、検査結果を分析して、それを無増悪生存期間と全生存期間の2つの生存尺度と照らし合わせた。

そして統計モデルを用い、7年の研究期間にわたって患者の血液サンプル中のがん関連DNAの分布を数値化し、DNAの過剰メチル化の値の高い患者と低い患者の間の最大差を特定した。

無増悪生存期間と全生存期間は別個の結果であるため、患者を血中のがんDNA値が高い女性と低い女性とに分けるカットオフ値は、無増悪生存期間と全生存期間とで異なる。したがって、血中のがんDNAが高値および低値だった女性の絶対数は、無増悪生存期間の分析と全生存期間の分析とで異なっている。

141人の患者のうち128人で無増悪生存期間が解析され、その中央値は、血中のがんDNAが高値と同定された71人の患者では2.1カ月だったのに対して、がんDNAが低値と同定された57人の患者では5.8カ月だった。

また129人の患者で全生存期間が解析され、その中央値は、血中のがんDNAが高値と同定された62人の患者では12.3カ月だったのに対して、がんDNAが低値と同定された67人の患者では21.7カ月だった。

この試験における追跡期間の中央値は19.5カ月(0.8〜86.3カ月)だった。 7年間の研究期間の終了までには、研究に登録された女性のほとんどが転移がんにより死亡した。

「わかったのは、血中のがんDNAが高値と判定された患者では、無増悪生存期間の短かさと全生存期間の短かさとの間に関連性があるということで、この検査により治療のわずか4週間後という非常に早い段階で、この関連を見出すことができます」。ジョンズホプキンスの研究者のMary Jo Fackler博士らと本検査を共同開発したジョンズホプキンス大学医学部の腫瘍学教授で、キンメルがんセンター所属のSara Sukumar博士はそう話す。

Visvanathan氏によると、今回の研究では、特定のがん療法に対するこの血液検査の利点については検討していないという。同検査の早期乳がん女性に対する有効性を確認する次の研究が、ジョンズホプキンス大学医学部教授でキンメルがんセンター所属のAntonio Wolff医師主導のもとで進行中である。Wolf氏はVisvanathan氏とSukumar氏による今回の研究の共同研究者である。

同研究チームは、この新しい過剰メチル化検査の検証と使用は数年先になると見積もっており、cMethDNAアッセイはまだ一般的には利用できない。

米国国立がん研究所(NCI)の推計では、今年乳がんと新たに診断された人は24万6000人を上回っており、これらの女性の約6%が進行がんと診断され、そのうち26.3%が5年以上生存する。

本研究はthe Translational Breast Cancer Research Consortium(乳がんトランスレーショナル研究コンソーシアム)のもと進められ、以下から資金提供を受けた。the Avon Foundation for Women, the Rubenstein Family Fund, the Breast Cancer Research Foundation, Janssen Diagnostics, the Susan G. Komen Foundation and the National Institutes of Health’s National Cancer Institute (P30CA006973 and P30CA58223)

本研究に参加した研究者は以下のとおりである。Zhe Zhang, Zoila A. Lopez-Bujanda, Wei Wen Teo, Stacie C. Jeter, Lori J. Sokoll, Leslie M. Cope, Christopher B. Umbricht and David M. Euhus from Johns Hopkins; Elizabeth Garrett-Mayer from the Medical University of South Carolina; Andres Forero from the University of Alabama at Birmingham; Anna M. Storniolo from Indiana University; Rita Nanda from the University of Chicago; Nancy U. Lin from the Dana-Farber Cancer Institute; Lisa A. Carey from the University of North Carolina; and James N. Ingle from Mayo Clinic.

セフィエド社とジョンズホプキンス大学との間のライセンス契約に基づき、Sukumar氏とWolff氏には、本発表に記載されている発明に関するロイヤルティを将来受ける権利がある。さらに、Sukumar氏とFackler氏はセフィエド社の有料顧問を務めている。これらの取決めは、利益相反の方針に従ってジョンズホプキンス大学によって審査され承認されている。

翻訳担当者 筧 貴行

監修 尾崎由記範(臨床腫瘍科/虎の門病院)

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