がん患者の骨量減少の予防

MDアンダーソン OncoLog 2016年7月号(Volume 61 / Issue7)

 Oncologとは、米国MDアンダーソンがんセンターが発行する最新の癌研究とケアについてのオンラインおよび紙媒体の月刊情報誌です。最新号URL

がん患者の骨量減少の予防

骨折リスクの高い患者の特定と骨量減少の予防対策改善に向けて

多くのがん治療が骨を弱くする傾向にあるため、がん治療中の患者は骨折リスクが高まる。テキサス大学MDアンダーソンがんセンターの研究者は、がんに関連する骨量減少や骨折、および骨折関連の後遺症としての運動能低下や血栓を予防する治療法を研究している。

骨量の低下や骨折予防策に取り組んでいるのは、一般内科部門のリウマチ学および臨床免疫学の准教授であるHuifang Lu医師と、内分泌腫瘍およびホルモン障害部門のMimi Hu医師である。Hu医師とLu医師は、MDアンダーソンの医師らが集学的に協力し骨量の減少リスクがある患者の治療にあたるBone Health Clinicの所長を持ち回りで担当している。Lu医師によればBone Health Clinicは、満たされていないニーズに対応しているという。「がん患者の骨折リスクは、通常、注意が払われない分野です」とLu医師は話す。「股関節の痛みや腰痛で紹介を受ける患者は、時々、骨折している場合があります。骨折は本当に身体機能を奪ってしまうものです」。

がん患者の骨量減少

多くのがん治療が骨密度の低下を招き、骨折リスクを増加させる。ホルモンも骨量維持の役割を担っているため、ホルモン療法は骨量低下の大きなリスクを伴う。乳がん患者とサバイバーの多くは、エストロゲンの濃度を下げる薬剤を摂取していることから、閉経後の一般集団の女性と比べ、より著しい骨量の低下が見られる。同様に、前立腺がんでテストステロン阻害薬の治療を受けた人にも、しばしば骨量減少がみられる。卵巣や精巣からがんが発生している、あるいはがんの影響から卵巣や精巣を切除した場合にも、やはり骨量減少や骨折のリスクが上昇する。

それ以外の全身治療でも、骨に悪影響を与えることがある。細胞毒性のある化学療法薬剤は、生殖腺機能に障害を与えることで、一般的に骨量の低下をもたらすが、さらに薬剤の細胞毒性そのものも骨細胞に直接影響を与える。こうした毒性を持つ薬剤には、メトトレキサート、シクロホスファミド、イフォスファミド、プラチナ製剤、ドキソルビシンが含まれる。骨量減少や骨折リスクを高めるその他のがん治療は、造血幹細胞移植、放射線療法、グルココルチコイドである。

がんそのものが原因で骨量が低下することもある。特に骨髄腫や白血病など骨髄を侵すがんや、がんに起因する状態も原因となる。例えば運動能が低下することで、骨が弱くなることもある。消化管の悪性腫瘍が吸収不良を起こす、あるいは一般的な病気でも患者が適切な栄養を取れなくなったりする。こうした状況下の患者は、例えばビタミンDやカルシウムなど、健康な骨の維持に必要なビタミン、ミネラルの不足に陥ることがある。またこうしたリスク要因に加え、がん患者に高齢、閉経後、喫煙歴など骨量を低下させる要因があれば、リスクはさらに高まる。

がん患者の骨量減少とそれによる骨折は、患者の治療を複雑にしかねないため、とりわけ深刻な問題である。というのも、骨折は股関節を骨折した患者は、がんの有無にかかわらず、1年以内の死亡率が20%となっている。この理由の一部には、身体の運動性低下とそれに続く合併症がある。

「骨折の罹患率と死亡率は非常に高い」とLu医師は言う。「また骨折は生活の質に大きな影響を与えるため、患者が骨折しないようにすることが重要なのです。骨折は大抵の場合、予防が可能です。一般集団の骨量減少治療における新たな薬剤や知識を、がん患者にも利益を与えられるように使っていきたいのです」。

がん患者の骨量低下を防ぐために

一般集団、特に閉経後女性の骨の健康維持を向上に使われているいくつかの薬剤は、がん治療中の患者の骨量低下予防にも使うことができる。骨粗しょう症の予防および治療に使われるアレンドロン酸、リセドロン酸、ゾレドロン酸、イバドロン酸などの骨吸収抑制剤(ビスフォスフォネート製剤)は、骨量の低下を生じるがん治療を受けている患者の骨塩密度を安定、または改善することが示されている。こうしたビスフォスフォネート製剤の利用は、乳がんおよび前立腺がん患者を対象とした多くの臨床試験で研究されてきているが、その他のがん患者に対する使用については確立されていない。

Hu医師とLu医師は、後ろ向きおよび前向き解析でこの溝を埋めようとしている。Hu医師らが行った後ろ向き研究では、骨転移した甲状腺髄様がんで、ゾレドロン酸またはデノスマブ(骨量減少および骨転移の治療に使われるヒトモノクローナル抗体)による治療を受けた患者は、骨折や骨への放射線療法の必要性といった骨関連事象が少なく、別の部位への後続的な骨転移も少なかったことが示された。この研究結果は、4月に開かれた内分泌学会の年次総会で発表された。Lu医師らは血液のがんで、ビスフォスフォネート製剤の治療を受けた患者について系統的レビューとメタ分析(近日発表)を行い、治療は脊椎の骨量減少予防に役立ったが、股関節の骨については骨量低下を予防しない場合があったことを明らかにした。

同じように、Lu医師が率いて最近完了したMDアンダーソンの臨床試験では、血液のがんで造血幹細胞移植を受け、移植後1年間、骨吸収抑制剤のイバンドロ酸の投与を受けた患者は、投与を受けなかった患者と比較して脊椎の骨量減少が少ないという結果が示された。しかしながらイバンドロ酸は、股関節の骨量低下予防では、脊椎での予防効果より低かった。「この薬剤は、100%の役割は果たしていません」と、Lu医師は話した。

「新しい薬剤を使って異なるタイミングで投与するなど、新たなアプローチを試す必要があるでしょう」。

ビスフォスフォネート製剤による治療は、一部のがん患者の骨量低下を予防するだけでなく、副作用が少ないといった点からも有望な治療法だといえる。「ビスフォスフォネート製剤は比較的安全で、摂取しやすい薬剤です」と、Lu医師は言う。「ただし、まれなケースですが、これらの薬剤は顎骨壊死や、非定型大腿骨骨折などの重大な副作用を生じることがあります。このため、すべての患者ではなく、骨折リスクのある患者に限って投与したいのです」と、Hu医師は述べる。「腹部不快感、胃酸の逆流、筋骨格痛といったビスフォスフォネート製剤の副作用は対処しやすい。深刻な症状になることもありますが、まれです。こうした副作用について、一般的かつ統一的な言葉で患者に説明することで、薬剤服用を遵守してもらうことができ、治療の効果も上がると期待しています」。MDアンダーソンでは、一般的な表現で書かれた推奨文を使い、患者が骨量減少予防レジメンの遵守だけでなく、抵抗運動やカルシウムやビタミンDの適量摂取など、患者の骨の健康維持に向けた予防的対処を続けてもらうよう取り組んでいる。

次のステップ

MDアンダーソンの研究者と臨床医らは、Bone Health Clinicでの取り組みだけでなく、骨の健康のための新たな取り組みに多数参加し、継続的に骨量減少予防に対するより良いアプローチを探求している。Bone Health Program of Texasもそうした新たな取り組みの一つで、複数の学術機関が協力して取り組む研究プログラムである。

この協力体制は、骨密度の維持、そしてがん患者にとってさらに重要な骨折を減らすという課題へのアプローチを確立するために欠かせない。「がん患者にとって、骨密度の変化以外にどのような要因が骨折リスクを上昇させるかについて、まだ十分に判明していません」と、Hu医師は言う。「この分野で、さらなる研究がぜひとも必要です。骨量が低下しているさまざまな患者に対し、一つの万能アプローチで対応できるとは思いません」。

Lu医師は骨折のリスク要因を特定することで、こうしたリスク要因を持つ患者の骨折予防が可能になると強調する。「私達はまだ、がん患者で骨折のリスクが非常に高い人を探しています。私達の現在の目標は、そうした患者集団を特定することです。その次のステップとして、適切な治療を適用することになるでしょう」。

骨量減少を予防する治療法のいくつかは、がん患者を対象とする研究が十分に行われていないままである。デノスマブのような再吸収阻害剤は、がん患者の骨転移と骨量減少の治療に有望である。テリパラチドは骨形成を促し、骨粗しょう症患者の骨折を予防するが、その作用機序は理論上は骨腫瘍の増大を促す可能性があるため、がん患者への使用は限られる。ロモソズマブという骨量増加作用を持つ新たな薬剤は、がん患者にとって有望だが、がん患者を対象とした研究が行われていない。閉経後女性の骨粗しょう症の治療に使われている選択的エストロゲン受容体モジュレーターであるラロキシフェンも、がん患者に応用される可能性がある。

これまでの知見からHu医師は、医師はがん患者の骨量減少の可能性について認識しておくべきだという。「骨量の低下も考慮することが第一歩です。今ではより多くのがん患者が長期的に生存し、病気とその治療の長期的な影響を受けています。骨量減少も、そうした潜在的な影響の一つと考え、検査をし、適切に管理していく必要があります」。

For more information, call Dr. Mimi Hu 713-792-2841 or Dr. Huifang Lu 713-563-8866.

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翻訳担当者 片瀬ケイ

監修 遠藤 誠(骨軟部腫瘍科/国立がん研究センター中央病院)

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