乳がん、肺がん、白血病では特定のCYP3A7遺伝子型が転帰不良と関連

乳がん、肺がん、慢性リンパ性白血病(CLL)を有する患者において、特定の型のCYP3A7遺伝子すなわちCYP3A7*1Cを持つ患者は、CYP3A7*1Cを持たない患者と比較して、転帰不良であった。この結果は、これらの患者において治療薬がどのように代謝、すなわち分解されるかということに関連していると考えられる。以上は、米国がん学会(AACR)機関誌のCancer Research誌に発表された研究に基づく。

「CYP3A7遺伝子(脚注参照)は、エストロゲン、テストステロンなどの性ステロイドといった生体内で合成されるあらゆる種類の物質や、がん治療に用いられる多様な薬剤を分解する酵素をコードします」と、英国がん研究所のBreast Cancer Now Toby Robins Research Centreの主任研究員であるOlivia Fletcher博士は説明した。「CYP3A7遺伝子は通常、胎児で発現しており、生後間もなく発現しなくなります。ただし、CYP3A7*1C対立遺伝子を1つか2つ持つ人は、成人してもCYP3A7遺伝子が発現しています」。

「乳がん、肺がん、CLLを有する患者において、CYP3A7*1C対立遺伝子を1つか2つ持つ患者は、CYP3A7*1C対立遺伝子を持たない患者と比較して、転帰不良の傾向がみられました」とFletcher博士は続けた。「この結果の説明の一つとして、これらの患者ではがん治療薬がきわめて速く分解される可能性が考えられます。ただし、CYP3A7*1C対立遺伝子を持つがん患者に対して治療法の変更を推奨するためには、独立した研究をさらに実施し、より多くの患者でわれわれの結果を再現し、バイアスを取り除く必要があります」。

乳がん、肺がん、CLLを有する患者においてCYP3A7*1C対立遺伝子が転帰と関連するかを明らかにするために、Fletcher博士らは、乳がん患者1,008人、肺がん患者1,142人、CLL患者356人のDNAサンプルを分析し、一塩基遺伝子多型(SNP)rs45446698の有無を確認した。SNPは遺伝子変異の1つの型であり、人は両親から遺伝物質を受け継ぐため、遺伝子変異のクラスターを受け継ぐ傾向がある。rs45446698は、CYP3A7*1C対立遺伝子のクラスターを形成する7つのSNPの1つである。

乳がん患者において、rs45446698(すなわちCYP3A7*1C対立遺伝子)は、乳がん関連死亡リスクの74%上昇と関連することが明らかとなった。肺がん患者では全死因死亡リスクの43%上昇と関連し、CLL患者では進行リスクの62%上昇と関連した。

CYP3A7酵素(脚注)で分解される化学療法薬を投与された患者はCYP3A7酵素(脚注)で分解されない化学療法薬を投与された患者と比較して転帰不良の傾向がみられたが、その差は統計学的に有意でなかった。

「化学療法薬がCYP3A7酵素(脚注)の基質であるか否かで患者を層別化した検定で統計学的有意差はみられませんでしたが、タイプが大きく異なるこの3つのがん種で同様の結果が得られたことから、転帰と関連するのはがん自体よりも治療薬である可能性が高いと考えられます」とFletcher博士は述べた。「本研究の限界を克服するとともに、患者とがん種を追加したコホートで今回の結果を再現する方法を探索しています」。

本研究の主な限界は、複数の異なる試験から収集したサンプルと臨床情報を使用したことである、とFletcher博士は説明した。そのため、患者間の統一された臨床情報がなく、サンプルについても異なる化学療法を受けた患者から採取し、採取時点が異なる。研究チームは該当患者で治療薬がどれほど速く分解されたか確認できなかった、ともFletcher博士は指摘した。

本研究は、Breast Cancer Now、Leukaemia and Lymphoma Research(現Bloodwise)、Cancer Research UK、Medical Research Council、Cridlan Trust、Helen Rollason Cancer Charity、Sanofi-Aventisから支援を受けた。著者らの所属機関は、National Health Service of the United Kingdomから財政支援を受けた。Fletcher博士は、利益相反状態にないことを宣誓する。

脚注(監修 者追記):CYP3A7は、元論文ではCYP3Aと記載されています(元論文を引用)。

元論文:
Johnson N et al. Cytochrome P450 Allele CYP3A7*1C Associates with Adverse Outcomes in Chronic Lymphocytic Leukemia, Breast, and Lung Cancer. Cancer Res 2016; 76(6): 1485-93
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26964624
http://cancerres.aacrjournals.org/content/76/6/1485.long

翻訳担当者 永瀬祐子

監修 下村昭彦(乳腺・腫瘍内科/国立がん研究センター中央病院)

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