乳房温存療法は、早期ステージの患者では全摘術よりも良好な結果をもたらす

乳房温存療法+放射線治療を受けた早期ステージの乳がん患者は、放射線治療なしで乳房全摘術を受けた患者よりも10年後の全生存が改善していることが、12月8~12日に開催された2015サンアントニオ乳がんシンポジウムにおいてSabine Siesling博士より発表された。

「乳房温存療法(BCT:乳房温存手術+放射線治療)と、乳房全摘術で放射線治療なしの患者の生存転帰の比較は、共通の意思決定過程と乳がん治療の質の向上を支える重要な情報を提供するものです」とオランダのNetherlands Comprehensive Cancer Organisationの主任研究員であり、オランダのトゥウェンテ大学の教授でもあるSabine Siesling博士は語った。

観察研究の中には、乳房温存療法のほうが全摘術よりも良い生存転帰をもたらすことを示唆するエビデンスを提供しているものがあるが、これらの観察研究には限界があるとSiesling氏は語る。「これらの観察研究のほとんどは患者の追跡調査が最長5年です。再発は5年後以降も起こるとされているため、国家レベルでの、日常経験に基づく異なる種類の手術後の、長期結果に対する考察が非常に重要です」と同氏は述べた。

BCTおよび全摘術後の全生存(OS)および無病生存(DFS)結果に違いがあるかどうかを確認するため、Siesling氏らはオランダがん登録のデータを使用した。2000~2004年に乳がん早期ステージと診断された37,207人の女性のデータを10年OSの評価に、またそのうち、2003年に診断された同様の特徴を持つ患者(サブコホート)7,552人のデータを10年DFSの評価に使用した。

患者全体の58%、サブコホートの62%がBCTを受け、残りは全摘術を受けた。

患者全体のうちBCTを受けた患者の76.8%で10年OSが認められ、全摘術を受けた患者では59.7%であった。サブコホートでは、BCTを受けた患者の83.6%で10年DFSが認められ、全摘術を受けた患者では81.5%であった。

交絡因子の調整後、BCTを受けた患者の10年後の生存率は、全摘術を受けた患者のそれよりも21%高いことが認められた。交絡因子の調整後のDFSについては、BCTを受けた患者と切除術を受けた患者との間に有意差は認められなかった。この結果は、腫瘍ステージやリンパ節の状態などすべてのサブグループで類似していた。

サブコホートからのデータの解析では、BCTを受けた患者は、全摘術を受けた患者よりも局所再発および遠隔転移の頻度が少ないことが示された。また、10年後の遠隔転移生存(DMFS)を決定する追加解析では、T1N0乳がん(2cm以下の小さな腫瘍でリンパ節転移なし)でBCTを受けた患者は、全摘術を受けた患者よりも10年DMFSが有意に改善したことが明らかになった。

「放射線治療が両治療の結果の違いに重要な影響を及ぼしたのかもしれませんが、われわれのデータからはそれを証明することはできません。特にT1N0乳がんにおいては、医学的に実現可能であり、患者の希望に沿うのであれば、BCTが治療の選択肢であるべきだと考えます」とSiesling氏は述べた。

また、観察研究は適応によって交絡しがちであるとSiesling氏は注意している。本研究では、BCTを受けた患者は全摘術を受けた患者よりも若く、腫瘍も良好であった。「多変量解析では、これらの因子のすべてを補正しました。それでもこの現象を完全に除くことはできません。さらに、非測定要因による残余交絡が結果を変えた可能性もあります。しかし、これらの要因が、解析に含まれるすべての変量による大きな影響を支配するとは考えていません」と同氏は述べた。

Siesling氏には申告すべき利益相反はありません。

翻訳担当者 白石里香

監修 原 文堅(乳腺科/四国がんセンター)

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